第十八話 整備区画の隅。 2
第十八話 整備区画の隅。 2
調律者たちの「ニコイチ!」「合体変形!」という狂気のような歓声が響く中、
まったく別の“静かな地獄”が形成されていた。
そこにいたのは――
- 軍監察官レイナード
- 新人監視員タケル
- 監視班リーダーのカザマ中尉(上官)
本来なら階級も立場も違いすぎて、
三人が同時に会話する機会などまず訪れない。
だが今、彼らを結びつけているものがあった。
――胃痛である。
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レイナードの敗北宣言
レイナードは額を押さえながら、
遠くで暴走する調律者たちを見つめていた。
「……私は見誤っていた……
取り込むつもりが、逆に巻き込まれるとは……
……いつつ……」
その声は、軍の監察官とは思えないほど弱々しい。
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タケル、そっと差し出す
「あ、あの……よかったら、これ……」
震える手で差し出したのは、
胃薬のパック。
レイナードは驚いたように目を瞬かせた。
「キミは……タケルといったか。
胃薬か。ありがとう。
今まで縁がなかったので、こういうものは常備していなくてね」
「いえ……
僕も休みの日に買い足そうと思ってるんですが……
休み、取れますかね……?」
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上官の“現実的な回答”
カザマ中尉は、
タケルの肩に手を置きながら、
重い声で答えた。
「……しばらくは、ちょっとな」
「……」
タケルの目が、
遠くの虚空を見つめ始めた。
(……休み……欲しかったな……)
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上官からの“軍属あるある”アドバイス
カザマ中尉は気を取り直し、
少しだけ前向きな情報を付け加えた。
「……確か、申請を出せば、
軍が提携している医薬品メーカーから配送を頼めるはずだ。
軍属であれば割引も効くぞ」
「あはは……ありがとうございます……」
乾いた笑い。
完全に心が折れかけている。
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そして、レイナードまでもが……
レイナードは胃薬を見つめながら、
深く、深くため息をついた。
「……タケル。どんな胃薬がいいか、
私に詳しく教えてくれないだろうか」
その顔は、
軍の監察官とは思えないほど疲れ切っていた。
「……はい……」
カザマ中尉「……俺にも頼む」
三人は、
階級も立場も違うはずなのに――
同じ方向を向いていた。
“胃痛”という名の戦場で。
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奇妙な連帯感
調律者の暴走、
ハルの狂気的な設計、
ミカの悲鳴、
虚無観測者の介入。
そのすべてに巻き込まれた三人は、
静かに、しかし確実に“仲間”になりつつあった。
――胃を押さえながら。
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