第十五話 整備区画の隅。
第十五話 整備区画の隅。
調律者たちが「合体変形!」「ニコイチ!」「ロマン!!」と叫びながら暴走し、
ミカが悲鳴を上げ、ハルが苦笑し、軍の監視員たちが固まっている――
その地獄のような光景を、タケルは震える手でメモを取りながら見ていた。
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「いいんですか、あれ?」
タケルは、隣に立つ上官――カザマ中尉に小声で尋ねた。
「い、いいんですか、あれ……?」
声は震えている。
顔は青い。
だが――
さっきより、ほんの少しだけ血色が戻っていた。
カザマ中尉は、しばらく無言だった。
(……いいわけないだろ。
軍規違反のオンパレードだし、
調律者は勝手に機体を触るし、
虚無観測者まで来たし、
新人のお前は胃を押さえてるし……)
だが、口から出た言葉は――
「……」
何も言えなかった。
理由は簡単。
軍の誰も、あの状況を止められないからだ。
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上官の心の声
(……タケル、よく耐えてるな。
普通の新人なら泣いて逃げてるぞ)
(調律者の暴走、虚無観測者の介入、
混沌残滓適合者の機体設計……
初日でこれ全部見せられて、
まだ立ってるだけで偉いよ)
(……いや、むしろ“順応し始めてる”のか?
さっきより顔色がマシだし……
もしかして、こいつ――)
カザマはタケルの横顔を見た。
タケルは青ざめながらも、
調律者の図面を凝視していた。
(……案外、メンタル強いのかもしれないな)
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タケルの“資質”が静かに芽を出す
タケルはまだ気づいていない。
自分が“揺らぎ”を視認できることも、
虚無観測者に興味を持たれたことも、
上官が密かに期待し始めていることも。
ただ――
混乱の渦中で、
彼は小さく息を吐いた。
「……なんか……慣れてきたかもしれないです……」
カザマ中尉は思わず吹き出しそうになった。
(……お前、本当に新人か?)
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タケル、静かに“物語の中心”へ近づく
調律者の暴走、
虚無観測者の介入、
ハルとミカの境界踏破計画。
そのすべてを“観測できる位置”にいるタケルは、
まだ自覚していない。
自分が、いずれこの物語の重要な鍵になることを。
そして――
上官は確信し始めていた。
(……こいつ、伸びるぞ。
生き残れれば、だけどな)
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整備区画の混乱は最高潮。
合体案だのニコイチだの、調律者たちのテンションは天井を突き抜けていた。
そんな中――
タケルの存在に、ついに調律者の目が向いた。
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調律者、タケルを“発見”する(地獄の始まり)
調律者Aがふと振り返り、
青ざめた顔でメモを取っているタケルを見つけた。
「……あれ?
ねえ、君、誰?」
「ひっ……!?」
調律者B「新人監視員!?
うわ、君、さっきからずっと“揺らぎ”見えてたよね!?
ねえ、見えてたでしょ!?見えてたよね!?」
「え、あ、あの……その……」
調律者Cがタケルの肩をガシッと掴む。
「君も面白いね!!
適性あるよ!!
混沌波形の視認能力なんて、軍人で持ってる人ほとんどいないよ!!」
「ひ、ひぃ……!」
カザマ中尉(上官)は慌てて止めようとするが――
調律者A「ねえねえ、君さ、
“観測者の影”見えたでしょ?
あれ普通見えないからね!?
すごいよ!!」
「……あ、あれ……見えちゃいけないやつだったんですか……?」
調律者B「見えちゃいけないというか……
見えると“選ばれちゃう”やつだね!!」
「選ばれたくないです!!」
調律者C「大丈夫大丈夫!!
死ぬかもしれないけど、面白いから!!」
「全然大丈夫じゃないです!!」
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タケルの心の声(悲壮)
(……慣れてきたと思ったけど……
錯覚だったかもしれない……)
(なんで俺、調律者に絡まれてるの……?
なんで“適性ある”とか言われてるの……?
なんで“死ぬかもしれないけど面白い”とか言われてるの……?)
(……休みの日に胃薬、箱で買わないと……
いや、箱じゃ足りないかもしれない……
ケースで買うべきか……)
(……でも、逃げられないし……
仕事だし……
やるしかない……)
タケルは震えながらも、
メモを取り続けた。
人知れず、悲壮な覚悟を決めて。
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上官の視線
カザマ中尉は、
タケルが調律者に囲まれながらも倒れずに立っているのを見て、
小さく息を吐いた。
(……あいつ、本当に強いな。
普通の新人なら泣いてるぞ)
(……いや、もしかして“適性”って本当にあるのか?
だとしたら……)
カザマはタケルの背中を見つめながら思った。
(……生き残れよ、新人)
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タケル、静かに“物語の渦”へ
調律者に絡まれ、
虚無観測者に目をつけられ、
上官に期待され、
本人は胃を押さえながら震えている。
だが――
タケルは確実に、
この世界の“中心”へと近づいていた。
本人の意思とは関係なく。
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