第十一話 ハルの作業台:静寂と狂気の境界
第十一話 ハルの作業台:静寂と狂気の境界
ハルの前に広がるのは、
戦場から回収した混沌機体の残骸、
調律者が勝手に置いていった謎素材、
そして軍の正規パーツ。
普通なら絶対に混ぜてはいけないものばかり。
だが――
ハルは迷わない。
「……向こう側に踏み込むなら、
“普通の機体”じゃ絶対に耐えられない」
彼はタブレットを開き、
新規設計画面に指を走らせる。
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《プロジェクト:ヴァレンタイン・ゼロ》
画面に浮かび上がるのは、
既存の軍機体とはまったく異なるシルエット。
- **位相干渉フレーム**
- **混沌素材の可変装甲**
- **境界波形安定コア(仮)**
- **ミカの安定因子と共鳴する“リンクスロット”**
ミカが驚いたように覗き込む。
「……これ、1号機の強化じゃなくて……
完全に“新型”だよね?」
ハルは頷く。
「向こう側は、物理法則が安定してない。
重力も、時間も、空間も、全部“揺らぐ”。
だから――
揺らぎに合わせて“変形する機体”じゃないと生き残れない。」
「変形……って、可変機構?」
「いや、もっと根本的なやつ。
“存在の位相そのものを変える”」
「存在の……位相……?」
ハルは淡々と説明する。
「向こう側では、
“存在しているのに存在していない”状態が普通に起きる。
だから、機体も“存在の揺らぎ”に合わせて
半物質化したり、
位相をずらしたりできないとダメなんだ」
「……そんなの、軍の技術じゃ無理だよ」
ハルは笑う。
「だから、俺が作るんだよ」
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混沌素材の“反応”
ハルが残骸から取り出した“位相素材”を
新型フレームの試作パーツに組み込むと――
パーツが脈動した。
「……これ、生きてない?」
「生きてるというより……
“向こう側の法則に従って動いてる”んだ」
「怖いよそれ!」
「大丈夫。
俺の残滓があるから、制御はできる」
ミカはハルの横顔を見つめる。
(……本当に、ハルは“向こう側”と繋がってるんだ)
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ハルの決意
ハルは設計画面に新たな項目を追加する。
《ミカ・アオイ安定因子リンク:必須》
「……え、私?」
「向こう側に行くなら、
お前の“安定因子”が絶対に必要だ。
機体にも、お前にも、俺にも」
ミカは顔を赤くしながらも、
真剣に頷いた。
「……うん。
じゃあ、私もこの機体の“パイロット補助”を担当する。
ハルを安定させるために」
ハルは少しだけ照れたように笑う。
「頼りにしてる」
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新型機体の名前
ミカが画面を見ながら言う。
「名前……どうするの?」
ハルは少し考え、
静かに答えた。
「――《ゼロ・バース》
“境界の外側から生まれる機体”って意味だ」
「……いい名前だね」
「こいつで、向こう側に踏み込む」
「一緒に、だよ」
「……ああ。
一緒に」
二人の視線が交わり、
新型機体の設計画面が静かに輝いた。
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整備区画の静寂が、
「ねえねえねえねえ!!」
という甲高い声で粉砕された。
「ひっ!?また来た!!」
「……調律者だな」
振り返ると、案の定――
白衣とも作業着ともつかない服を着た調律者たちが、
勝手に格納庫へ雪崩れ込んでいた。
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