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第九話 基地の整備区画に残る、調律者(ハーモナイザー)のざわめき。

第九話 基地の整備区画に残る、調律者ハーモナイザーのざわめき。


監督者が姿を消した直後――

空気が再び、別の方向から“重く”なった。


軍の憲兵たちが退いた通路の奥から、

ゆっくりと足音が近づいてくる。


その足音は、調律者の軽さとも、憲兵の硬さとも違う。

もっと“政治的”で、“権威”を帯びた響きだった。


---


軍上層部、登場

姿を現したのは、

軍の制服の中でもひときわ重厚な意匠をまとった人物。


軍情報局・特務監察官

レイナード・クレスト


軍内部でも“上層部の代弁者”として知られ、

現場の判断を覆す権限を持つ男だ。


彼は調律者の監督者が消えた空間を一瞥し、

ため息をつくように言った。


「……まったく、厄介な連中だな。

勝手に基地に入り込み、勝手に干渉し、勝手に去る」


ハルとミカは思わず身構える。


レイナードは二人に視線を向け、

穏やかな笑みを浮かべた。


その笑みは――

優しさではなく、“計算”の匂いがした。


---


「その依頼とやらは、私を通してもらってもいいかな?」


レイナードは調律者の残した空気を切り裂くように言った。


「その依頼とやらは、

私を通してもらってもいいかな?

一応、この二人は“軍属”なのでね」


調律者の残党たちがざわつく。


「え、軍属?

いやいや、調律対象だよね?」

「軍の許可とか関係なくない?」

「監督者が言ったし……」


レイナードは彼らを冷たい目で見た。


「関係あるとも。

軍はこの二人を“保護下”に置く。

調律者の勝手な接触は、今後すべて“軍を通す”こと」


調律者たちは一瞬黙り込み、

次の瞬間――


「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「めんどくさっ!!」

「軍の書類とか嫌い!!」


ハル(……こいつら本当に技術バカだな)

ミカ(興味のあるもの以外、ほんとに見えてない……)


---


レイナードの“保護宣言”


レイナードは二人の前に歩み寄り、

声を低くして告げる。


「ハル・ヴァレンタイン。

ミカ・アオイ。

君たちの行動は、軍としても看過できないほど重要になった」


「……監視するってことですか?」


「監視ではない。

保護だ。

君たちが“どこに属するか”を明確にしておく必要がある」


「……軍に、ですか?」


レイナードは頷く。


「調律者も、混沌側も、虚無観測者も……

君たちに興味を示している。

だからこそ、軍は“君たちを守る”立場を取る」


「守る……ね。

それで、俺たちに何をさせたい?」


レイナードは微笑む。


「簡単だ。

軍のために働いてくれればいい。

境界踏破も、巨大脅威の解析も、

すべて軍の指揮下で行う」


ミカは息を呑む。


ハルは目を細める。


(……つまり、軍は俺たちを“囲い込む”つもりか)


---


三つ巴の構図、成立


- 軍

二人を“保護”という名目で囲い込み、

境界踏破の主導権を握ろうとする。


- 調律者ハーモナイザー

二人を“調律対象”として扱い、

向こう側の技術を得るために接触を続ける。


- ハカセ

軍にも調律者にも属さない独立勢力。

二人を“研究対象”として扱いながらも、

最も信頼できる味方。


そして――

虚無観測者がその全てを“観測”している。


完全に三つ巴(+1)の構図が出来上がった。


---


レイナードは最後に、

二人に向けて静かに告げた。


「安心していい。

君たちは軍が守る。

……たとえ、調律者が何を企んでいようとも」


その言葉は、

守りの宣言であると同時に――

束縛の宣言でもあった。


---


基地の空気が張り詰めたまま、

レイナードの“保護宣言”が整備区画に重く響いていた。


ハルとミカは互いに視線を交わし、

調律者たちは「めんどくさ〜」と騒ぎ、

軍の監視員は緊張で固まっている。


そんな中――


ピピッ……ピピピッ……!


またしても、あの独特の電子音が鳴り響いた。


「……来た」


「絶対ハカセだよね……」


ホログラムが強制展開され、

0と1で描かれた“ニヤニヤ笑うタコ”が画面に浮かぶ。


そして――


---


ハカセ、緊急通信で乱入


「ほっほっほ、

“面白い状況”になっとるようじゃのう」


レイナードは眉ひとつ動かさず、

淡々と応じる。


「ふむ。ハカセか。

何か問題でも?」


ハカセは笑いながらも、

その声には妙な圧があった。


「いや?

“言葉通り”守ってくれるというのなら、

何も問題はないのう」


「では――」


「ただ」


「……?」


ハカセは画面の向こうで、

まるで“獲物を見つけた猫”のように目を細めた。


「わしはわしで護らせてもらうぞ?

“しっかりと”な。」


整備区画の空気が一瞬で変わった。


軍の監視員たちがざわつき、

調律者たちは「うわ、出たよハカセの圧……」と後ずさる。


レイナードはわずかに目を細めた。


「……それは、軍の保護を拒否するという意味か?」


「拒否?

ほっほっほ、違う違う。

“二重に守られる”のは悪いことではなかろう?」


「……二重、ね」


「そうじゃとも。

軍が守る。

わしも守る。

調律者も勝手に守る。

虚無観測者は観測するだけじゃが……

まあ、あれは置いといて」


ミカ「置いとける存在じゃないよね!?」


ハル「……いや、ほんとに」


ハカセは続ける。


「ハル・ヴァレンタインとミカ・アオイは、

“境界踏破”に必要不可欠な存在じゃ。

軍の都合で動かされるのは困る。

調律者の都合で動かされるのも困る。

だから――」


画面のタコが“ぐるん”と回転し、

ハカセの顔がどアップで映る。


「わしが“最優先”で護る。

文句は言わせんぞ?」


レイナードはしばらく沈黙し、

やがて静かに息を吐いた。


「……なるほど。

あなたがそう言うなら、軍としても軽々しく扱えないな」


「そういうことじゃ。

ほっほっほ、話が早くて助かるわい」


---


三つ巴、ついに“均衡”へ


- 軍:二人を保護下に置く

- ハカセ:二人を“最優先で護る”と宣言

- 調律者:二人を調律対象として追い続ける


そして、

虚無観測者はその全てを静かに観測している。


「……なんか、どんどん面倒なことになってない?」


「うん……でも、なんか……心強くもある、かも」


「ほっほっほ。

若者よ、心配するでない。

“面倒な状況”ほど、面白い研究材料になるんじゃ」


「研究材料にしないで!!」


「……まあ、でも。

ハカセが味方でよかったよ」


「味方かどうかは……

お主らの行動次第じゃな?」


「え、怖っ」


「冗談じゃよ。

ほっほっほ」


通信が切れ、

タコが“ぴょこん”と跳ねて消えた。


---


整備区画の空気がようやく落ち着きかけたその瞬間――

またしても、あの独特の電子音が鳴り響いた。


ピピッ……ピピピッ……!


「……え、また?」


「帰ったんじゃなかったのかよ……」


ホログラムが強制展開され、

0と1で描かれた“ウインクするタコ”が画面に浮かぶ。


そして――


---


ハカセ、まさかの“帰ってない”通信


「おお、そうじゃ、

あともう少しで準備が整うんじゃが――」


「絶対帰ってないよねこれ!」


「いや、帰ったんだよ。

ただ“通信を切っただけ”なんだよ……」


ハカセは気にする様子もなく続ける。


「二人とも、

とびっきりの機体と武装を用意しておけ。」


「?

まあ、言われなくても仕事だし、普段から造ってるが……

向こうで使えるのか?」


ハカセはニヤリと笑う。


「それは――

当日のお楽しみじゃ。」


「え、楽しみって……

向こう側って、混沌層とか境界とかの話だよね?

楽しむ要素あるの?」


「あるとも!

“未知の技術”と“危険な現象”と“予測不能な事態”が

盛りだくさんじゃ!」


「全部危険なやつ!!」


ハルはため息をつきながらも、

どこかでワクワクしている自分に気づく。


「……まあ、準備しとくよ。

どうせ必要になるんだろ?」


「うむ。

ハル・ヴァレンタインの技術と、

ミカ・アオイの安定因子――

この二つが揃えば、

“向こう側”でも十分戦えるはずじゃ」


「戦うって言ったよね今!?」


「ほっほっほ。

詳細はまた連絡する。

楽しみにしておれ」


通信が切れ、

タコが“ぴょこん”と跳ねて消えた。


---


残された二人


「……ハル、本当に行くんだよね?」


「行くよ。

でも、準備は万全にしておく。

ハカセが“とびっきり”って言うなら……

こっちも本気で造らないとな」


ミカは小さく頷き、

1号機のフレームに手を置く。


「じゃあ……私も全力で整備する。

ハルの隣で戦えるように」


ハルはミカを見て、

少しだけ柔らかく笑った。


「……頼りにしてる」


「……うん」


二人はそれぞれの整備区画へ戻り、

“境界踏破”に向けた準備を始める。


その背後では――

軍、調律者、そして虚無観測者が

静かに二人を見つめていた。


---



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