第八話 調律者の“目的”
第八話 調律者の“目的”
調律者のリーダー格らしき人物が、
ようやくハルの前に立つ。
「いや〜〜、君が“混沌残滓適合者”のハルくんだね!
ずっと会いたかったんだよ!」
「……なんで俺の名前を」
「軍のデータは全部見てるから!」
「見ていいの!?」
「よくないけど見てる!」
「開き直った!!」
調律者は満面の笑みで続ける。
「僕らの目的はただひとつ。
“落ちてくる技術”を回収し、調律すること。
混沌側の技術も、軍の技術も、向こう側の技術も、
全部“調和”させるのが僕らの使命なんだ!」
「……つまり、俺の作った武装も?」
「もちろん!
君の技術は“落ちてきたもの”と同じ匂いがする!
だから興味津々なんだよ!」
(……やっぱり技術バカだ)
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味方か、敵か、それとも――
調律者は軍の監視を完全に無視し、
軍もまた、彼らを強制排除できない。
理由は簡単。
調律者は“向こう側”の技術を唯一扱える集団だから。
軍もハルも、彼らを敵に回すわけにはいかない。
だが――味方と言い切れるほど信用もできない。
ミカが小声でハルに囁く。
「……どうするの?この人たち」
ハルは肩をすくめる。
「どうもしない。
放っておけば勝手に帰るだろ」
「帰らないよ!!」
「帰れよ!!」
「君の技術、もっと見たい!!」
「……めんどくさい……」
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基地の整備区画に、軍の監視の視線が濃く張りついていた。
調律者が勝手に入り込み、ハルの武装を触りまくり、ミカの1号機を覗き込み、軍の規律は完全に無視されている。
当然、軍が黙っているはずもない。
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軍、動く
整備区画の入口に、軍の憲兵が数名現れた。
その表情は硬く、明らかに“ただ事ではない”空気をまとっている。
「ハル・イサミ、ミカ・アマギ。
上層部より事情聴取の命令が出ている。
今すぐ別室へ――」
ミカが息を呑む。
ハルは眉をひそめる。
調律者たちも、ようやく軍の存在に気づいたらしく、
「え、なに?連行?
あ、でもその前にこの素材の分析だけ――」
「黙れ」
憲兵が冷たく言い放つ。
「二人とも、我々に同行してもらう」
「……ハル……」
「……行くしかないか」
憲兵が二人に近づき、腕を掴もうとした――その瞬間。
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「やめておけ。お前の首が飛ぶぞ?」
低く、静かで、しかし“絶対に逆らってはいけない”響きを持つ声が、整備区画に落ちた。
憲兵たちが一斉に振り返る。
そこに立っていたのは――
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調律者の“監督者”
調律者の中でも、滅多に姿を見せない存在。
軍ですら詳細を把握していない“灰色の権限”を持つ人物。
黒いコートに、無機質なゴーグル。
表情は読めず、気配は薄いのに、
その場の空気を一瞬で支配する圧があった。
「やめておけ。
お前の首が飛ぶぞ?
物理的かどうかは……わからんがな」
憲兵隊長が青ざめる。
「……調律者の……監督者……!」
監督者はゆっくりと歩み寄り、
憲兵たちの前に立つ。
「この二人は“調律対象”だ。
我々が接触している以上、軍の単独拘束は許可されない」
「し、しかし……軍規では――」
「軍規より優先される“協定”があるだろう。
忘れたとは言わせん」
憲兵隊長は歯を食いしばり、
悔しそうに拳を握った。
「……了解した。
今回は引き下がる」
監督者は一切表情を変えず、ただ一言。
「賢明だ」
憲兵たちは撤退していく。
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二人の前に立つ“監督者”
監督者はハルとミカの前に立ち、
ゴーグル越しに二人を見つめた。
「……ハル・ヴァレンタイン。
そして、ミカ・アオイ」
「……な、なに……?」
「お前たちには“役割”がある。
軍にも、混沌にも、虚無にも属さない……
“第三の調律点”としての役割がな」
「……調律点?」
監督者はわずかに顎を上げる。
「近いうちに、我々から正式な“依頼”が届く。
拒否はできん。
だが……お前たちなら、できる」
そう言い残し、監督者は影のように姿を消した。
調律者たちが口々に騒ぎ出す。
「うわっ、監督者が喋った!レアだよレア!」
「写真撮った!?撮ってない!?嘘でしょ!?」
「依頼って何!?境界踏破!?それとも位相調律!?」
「……ハル、なんか……また面倒なことになってない?」
「……ああ。
でも、もう慣れてきた気がする」
「慣れないでよ……!」
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