第三話 軍の追及
軍の追及
隊長格の男が前に出る。
「ハル・ヴァレンタイン。
貴様の機体改造について、正式に事情聴取する。
“混沌波形解析機能”を無断搭載した疑いがある」
「……疑いじゃなくて、事実だろ」
「ハルっ……!」
「素直で助かる。
だが、これは重大な軍規違反だ。
同行してもらう」
「悪いけど、今は無理だ。
急ぎの用があるんでね」
隊長の眉が跳ね上がる。
「ふざけるな。
貴様の勝手な行動がどれだけ危険か理解しているのか?」
「理解してるよ。
だからこそ、今は行かなきゃいけないんだ」
「言い訳は聞かん。
抵抗するなら――」
ミカが一歩前に出る。
「待ってください!
ハルは――」
「黙れ。
貴様も共犯の可能性がある」
「っ……!」
空気が一気に張り詰める。
兵士たちが武器を構え、緊張が極限まで高まったその瞬間――
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安定の“乱入”
ハルの端末が突然、甲高い電子音を鳴らした。
ピピッ……ピピピッ……!
ホログラムが強制展開され、
例の“0と1だけで描かれたピクセルアート”が画面いっぱいに表示される。
今日の絵柄は――
「0と1で描かれた、怒っているタコ」。
「な、なんだこれは……!」
ピクセルタコが“ブチブチッ”と震え、
画面が切り替わる。
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ハカセ、威圧モードで登場
「ほっほっほ……
やれやれ、ワシのテリトリーの前で何をしとるんじゃ、お主らは」
「ハ、ハカセ……!?」
ハカセは珍しく、笑っていない。
その目は細く鋭く、背後の機械が不気味に脈動している。
「ワシが招いた“客人”に手を出そうとは……
随分と偉くなったものじゃのう?」
「い、いえ……しかし、彼は軍規違反の――」
「軍規違反?
ほっほっほ。
ワシの初期設計を勝手に使っておる軍が、
今さら何を言うんじゃ?」
「……っ!」
「それにな。
“混沌波形”の件は、すでにワシの研究領域じゃ。
お主らが口を挟む余地はない」
隊長は完全に言葉を失う。
兵士たちも動けない。
ハカセは画面越しに、ハルとミカへ向けて軽く手を振る。
「さあ、若者よ。
さっさと入ってこい。
時間が惜しいでな」
通信が切れ、ピクセルタコが“ぷんすこ”と怒ったまま消えた。
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追跡部隊の撤退
隊長は歯噛みしながらも、命令を下すしかなかった。
「……全隊、撤収する。
ここは“ハカセ領域”だ」
兵士たちは困惑しつつも、次々と姿を消していく。
「……ハカセって、軍より偉いの?」
「偉いっていうか……
“誰も逆らえない”って感じだな」
「それもっと怖いよ……!」
ハルは苦笑しつつ、研究所の門へ向かう。
「行こう。
ハカセが呼んでる」
ミカは頷き、二人は研究所の中へと足を踏み入れた。
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研究所の自動扉が、まるで“ため息”をつくような音を立てて開いた。
中から漏れ出す光は、白でも青でも赤でもない――**色の名前が存在しない光**だった。
「……ここ、本当に“研究所”なの……?」
「まあ……ハカセだからな」
二人は足を踏み入れる。
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ハカセ研究所:混沌と天才の境界線
◆ 入口ホール
まず目に飛び込んでくるのは、天井から吊り下がった巨大な球体。
内部で液体が逆流し、重力を無視して“上に落ちていく”。
その下には、なぜか古いちゃぶ台が置かれ、
上には湯呑みと、湯気の出ていないお茶。
「……なんで重力反転装置の下にちゃぶ台があるの?」
「ハカセの“気分”だろ」
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◆ 廊下
壁一面に並ぶのは、用途不明の機械。
どれもラベルが貼られているが――
- 「たぶん安全」
- 「昨日は動いた」
- 「触るな(本気)」
- 「触ってみてもいいぞ(自己責任)」
「……“たぶん安全”って何……?」
「“たぶん”なんだよ」
「それが一番怖い!」
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◆ 実験区画
床には魔法陣のような紋様が描かれているが、
よく見ると回路図と魔術式が混ざった“ハカセ語”。
中央には、巨大なガラスカプセル。
中には――
巨大脅威の“位相データ”が立体映像として浮かんでいる。
「これ……巨大脅威の……?」
「位相がズレる瞬間のデータだ。
軍じゃ解析できないから、ハカセが勝手に吸い上げてる」
「勝手に!?」
「ハカセだからな」
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◆ 奥の部屋
扉が自動で開くと、
そこには“ハカセの作業スペース”が広がっていた。
机の上には――
- 半分だけ完成したロボットの腕
- 何かの心臓のように脈動するエネルギーコア
- 0と1だけで描かれたピクセルアートの紙束
- 「今日の発明:まだ爆発してない」メモ
そして、部屋の中央には――
ハカセ本人が、逆さまに吊られながら作業していた。
「おお、来たか若者たち。
ちと待っておれ、今“重力方向の再定義”をしとるところじゃ」
「なんで逆さまなんですか!?」
「逆さまなのは“お主ら”のほうじゃよ。
ワシの基準では、これが正しい」
「意味がわからない!」
「気にすんな。いつものことだ」
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ハカセ、着地(物理)
ハカセはスイッチを押し、
重力が“くるん”と反転して床に降り立つ。
「さて――ハルよ。
お主の中の“混沌残滓”、
そろそろ限界が近いぞい」
「限界って……どういう意味ですか?」
ハカセはニヤリと笑い、
背後の装置を指差す。
「“向こう側”が呼んどる。
巨大脅威も、虚無観測者も、
そして――“お主自身の記憶”もな」
「記憶……?」
ハルは拳を握りしめる。
「……やっぱり、あの事故のことか」
「そうじゃ。
そして今日から――
その真相に踏み込むことになる。」
研究所の奥で、装置が不気味に脈動する。
まるで“向こう側”が応えるように。
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