第二話 残された二人
残された二人
「……ハル、本当に大丈夫なの?」
「わからない。
でも、行くしかないだろ」
ミカは迷わずハルの手を掴む。
「私も行く。
置いていかれるのは、もう嫌だから」
ハルは少し驚き、そして微笑む。
「……ああ。行こう」
二人は走り出す。
“向こう側”の真実へ、そしてハルの過去の核心へ。
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夜の基地外縁。
ハカセのドローンが示したルートに沿って、二人は無人の補給路を走っていた。
照明は最低限、風の音だけが耳に残る。
その静けさが――急に“変質”した。
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空気が揺れる
ミカが足を止める。
「……今、空気が……揺れた?」
ハルも立ち止まり、眉をひそめる。
周囲の景色が、ほんの一瞬だけ“ノイズ”のように歪んだ。
「……来たか」
「来たって……何が?」
ハルは答えようとしたが、その前に――
影が落ちた。
地面でも、建物でもない。
“空間そのもの”に、黒い影が滲み出るように広がっていく。
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虚無観測者の“影”
影は形を持たない。
しかし、確かに“こちらを見ている”とわかる。
声はない。
音もない。
ただ――思考に直接触れてくる。
ミカが息を呑む。
「……頭の中に……何か……!」
ハルは歯を食いしばる。
胸の奥の“混沌残滓”が、脈打つように反応していた。
(――観測中)
(――対象:混沌残滓保持者)
(――接触試行)
「これ……声? いや、声じゃない……!」
「虚無観測者の“影”だ。
本体じゃない……ただの観測端末みたいなもんだ」
影が揺れ、形を変える。
人のようでもあり、機械のようでもあり、
“存在の概念”だけがそこにある。
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影のメッセージ
(――質問)
(――なぜ、混沌の残滓を保持している)
(――回答を要求)
「……ハル、答えないと……!」
「いや、答えたらダメだ。
こいつらは“情報”を餌にしてる。
一度渡したら、ずっと追われる」
影がさらに濃くなる。
空気が冷え、視界の端が暗く染まっていく。
(――拒否を確認)
(――強制観測に移行)
「ハルっ!」
ハルの視界が一瞬、白く弾けた。
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ハルの“残滓”が反応する
胸の奥が熱くなる。
脈動が強まり、影の干渉を押し返すように波紋が広がった。
影が揺らぎ、ノイズが走る。
(――干渉不能)
(――残滓の位相が不明)
(――観測中断)
「……ハルの中の“混沌”が……影を弾いた……?」
「……どうやら、俺の中の残滓は“向こう側”のものじゃないらしい」
影は最後に一度だけ形を変えた。
まるで“興味を示すように”。
(――再接触予定)
(――観測対象:優先度上昇)
そして、影は音もなく消えた。
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残された余韻
ミカは震える手でハルの腕を掴む。
「……ハル、本当に大丈夫なの……?」
ハルは息を整えながら、ミカの手を握り返す。
「大丈夫じゃない。
でも……行くしかない。
ハカセのところへ」
ミカは強く頷く。
「うん。絶対に行こう。
今の……放っておけない」
二人は再び走り出す。
虚無観測者の影が残した“冷たい視線”を背に受けながら。
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どれでも物語がさらに深くなる。夜の補給路を抜け、研究所の外縁が見え始めた頃だった。
薄暗い森の向こうに、ハカセのラボ特有の“意味不明な光”がちらついている。
あと少しで辿り着く――そう思った瞬間。
ライトが一斉に照射された。
「止まれ!軍所属第七追跡分隊だ!」
ミカが反射的にハルの腕を掴む。
ハルは舌打ちし、周囲を確認する。
十数名の武装兵が、完全に包囲していた。
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