第十三話 巨大脅威、まさかの撤退
■ 巨大脅威、まさかの撤退
二つ目のコアを破壊され、
巨大融合体は赤黒い光を乱しながら後退を始めた。
触手が地面を這い、
大地を抉りながら、
まるで“逃げる”ように距離を取っていく。
ミカは息を呑む。
「……逃げる……?
あれだけ暴走してたのに……?」
ハルはハル機の操縦桿を握りしめ、
荒い呼吸のまま叫ぶ。
「待てよ……逃がしゃしねえ……!」
ハル機が一歩踏み出す。
黒紫の光が尾を引く。
だが――
その瞬間。
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■ ハル機の“脈動”が変わる
胸部の黒紫の結晶が、
突然、強烈な光を放った。
ミカが叫ぶ。
「ハル!? その光……!」
ハルは眉をひそめる。
「……なんだ……?
さっきより……熱い……!」
光は脈動し、
まるで心臓が暴走しているように
リズムが乱れ始める。
ドクン……ドクン……ドクン……!
ミカは震える声で言う。
「ハル……それ……
混沌を喰ったせいで……
反応が……変質してる……!」
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■ ハル機の動きが“勝手に”
ハルが操縦桿を引く前に、
ハル機が勝手に前へ踏み出した。
「おい……待て……!
俺はまだ――」
機体は聞かない。
巨大脅威が後退する方向へ、
まるで“獲物を追う獣”のように進み始める。
ミカは息を呑む。
「……ハル機……
あれ……“追ってる”……!」
ハルは叫ぶ。
「違う……!
追ってるんじゃねぇ……
喰おうとしてるんだ!!」
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■ 黒紫の光が“濃く”なる
ハル機の全身を走る光が、
紫から黒へ、
黒からさらに深い闇色へと変わっていく。
まるで、
混沌そのものに近づいていくように。
ミカは震える声で叫ぶ。
「ハル!!
それ以上混沌を取り込んだら……
あなたの機体……!」
ハルは歯を食いしばる。
「分かってる……!
でも止まらねぇんだよ……!!」
操縦桿を引いても、
ブレーキを踏んでも、
ハル機は止まらない。
巨大脅威の撤退ルートへ、
一直線に突進していく。
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■ “暴走”の兆候
ハル機の内部で、
黒紫の結晶が不規則に脈動し続ける。
ドクン……ドクン……ドクン……!
その脈動は、
ハルの心臓の鼓動と“同期”し始めていた。
ミカは息を呑む。
「……ハル……
あなた……機体と……同調しすぎてる……!」
ハルは叫ぶ。
「ミカ……!
俺……なんか……
頭の中に……声が……!」
ミカの顔が青ざめる。
「声……!?
ハル、それ……混沌の――」
ハル機が突然、
獣のような咆哮を上げた。
ガアアアアアアアアアッ!!
ミカは震える声で呟く。
「……ハル機が……
“暴走”を始めてる……!」
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■ ハル機、暴走の兆候
黒紫の光が濃く、重く、
まるで“闇”そのもののようにハル機を包んでいた。
巨大脅威が撤退を始めた瞬間、
ハル機は勝手に前へ踏み出す。
ハルは操縦桿を引きながら叫ぶ。
「止まれ……!
くそっ、言うこと聞かねぇ……!」
機体は止まらない。
むしろ、加速していく。
ミカは1号機の損傷した脚を引きずりながら、
必死に声を張り上げた。
「ハル!! 戻って!!」
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■ ハルの意識が“混沌”に引きずられる
ハルの視界が揺れる。
胸の奥で、黒紫の結晶が脈動する。
ドクン……ドクン……ドクン……!
その鼓動が、
ハルの心臓と“同期”し始めていた。
「……ああ……頭の中に……
なんか……声が……」
ミカは青ざめる。
「ハル、それ……混沌の声だよ!!
聞いちゃダメ!!」
ハルは歯を食いしばる。
「聞きたくて聞いてるわけじゃねぇ……!
勝手に……流れ込んでくるんだよ……!」
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■ ミカ、走る
1号機は動けない。
脚が壊れている。
それでもミカは、
コクピットを開けて飛び降りた。
「ミカ!? 何して――」
「ハルを止める!!」
ミカは戦場を走る。
爆風が吹き荒れ、
触手の残骸が散らばる中を。
ハル機は巨大脅威を追って加速していく。
ミカは叫ぶ。
「ハル!!
あなたが行ったら……戻ってこれなくなる!!」
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■ ハル機が振り返る
ハル機の動きが一瞬だけ止まった。
ミカの声に反応したのか、
それとも――
ハルの意識がまだ残っていたのか。
ミカは息を切らしながら叫ぶ。
「ハル!!
あなたは“喰われる側”じゃない!!
あなたは……私の仲間だよ!!」
ハルの視界が揺れる。
黒紫の光が乱れ、
混沌の声が頭の中で渦巻く。
『……もっと……喰え……
喰って……強く……なれ……』
ハルは叫ぶ。
「黙れぇぇぇぇ!!」
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■ ミカの“届く声”
ミカは涙をにじませながら叫ぶ。
「ハル!!
あなたはそんな声に従う人じゃない!!
あなたは……ハルだよ!!
私の……ハルなんだよ!!」
その瞬間――
黒紫の光が一瞬だけ弱まった。
ハルは息を呑む。
「……ミカ……?」
ミカは震える声で続ける。
「戻ってきて……
私のところに……戻ってきて……!」
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■ ハル機の暴走が“止まりかける”
ハル機の足が止まる。
巨大脅威は遠くへ逃げていく。
ハルは操縦桿を握りしめ、
必死に意識を保つ。
「……ミカ……
俺……まだ……大丈夫か……?」
ミカは涙を拭い、
強く頷く。
「うん……!
大丈夫だよ……!
ハルは……まだハルだよ……!」
黒紫の光が、
ほんの少しだけ落ち着いた。
だが――
完全には止まっていない。
ハルは震える声で呟く。
「……ミカ……
俺……怖ぇよ……
このままじゃ……俺……」
ミカは叫ぶ。
「大丈夫!!
私がいる!!
あなたを絶対に……一人にしない!!」
その言葉が、
暴走しかけたハル機を
ぎりぎりのところで“引き戻した”。
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■ ハル機の暴走が加速する
黒紫の光が濃く、重く、
まるで闇そのものが機体の内部から溢れ出しているようだった。
ハル機は巨大脅威の撤退方向へ向かって、
獣のように前進し続ける。
ハルは操縦桿を握りしめながら叫ぶ。
「止まれ……!
くそっ……俺の声が……届かねぇ……!」
胸部の結晶が脈動し、
混沌の声が頭の中に流れ込む。
『喰え……もっと……喰え……』
ハルは歯を食いしばる。
「やめろ……!
俺は……そんな……!」
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■ ミカ、走る
ミカは1号機から飛び降り、
損傷した脚を引きずりながらも、
必死にハル機へ向かって走った。
爆風が吹き荒れ、
触手の残骸が散らばる戦場の中を。
「ハル!!
あなたを……一人にしない!!」
ハル機は止まらない。
むしろ、混沌の声に引きずられるように加速していく。
ミカは叫ぶ。
「ハル!!
私の声を聞いて!!」
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■ ミカ、機体に触れる
ミカはハル機の足元に追いつき、
その巨大な脚に両腕を回すように抱きついた。
まるで、
ハル自身を抱きしめるように。
「ハル……!!
帰ってきて……!!
私のところに……戻ってきて!!」
その瞬間――
黒紫の光が一瞬だけ揺らいだ。
ハルは息を呑む。
「……ミカ……?」
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■ “触れた”ことで起きる共鳴
ミカの手が触れた部分から、
淡い紫光が広がっていく。
それは1号機の覚醒時に見せた光と同じ色。
黒紫の混沌の光と、
ミカの紫の光がぶつかり合い、
戦場に静かな波紋を広げる。
ミカは震える声で続ける。
「ハル……
あなたは混沌なんかじゃない……
あなたは……ハルだよ……!」
ハルの視界が揺れる。
混沌の声が遠ざかっていく。
『……やめろ……離れろ……』
ミカは叫ぶ。
「離れない!!
あなたを……絶対に……離さない!!」
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■ 暴走が止まる
黒紫の光が、
ゆっくりと、しかし確実に弱まっていく。
ハル機の動きが止まり、
膝をつくように沈み込む。
ハルは操縦桿に額を押し付け、
荒い呼吸のまま呟く。
「……ミカ……
俺……戻れたのか……?」
ミカは機体に抱きついたまま、
涙をこぼしながら答える。
「うん……!
戻ってきたよ……!
ハルは……ハルのままだよ……!」
ハル機の胸部の結晶が、
静かに、穏やかに脈動する。
暴走は――
完全に止まった。
第3勢力 ― 姿なき観測者
■ 戦場の片隅、誰もいないはずの空間
巨大脅威が撤退し、
ハル機が暴走しかけ、
ミカがそれを抱きしめて止めた――
そのすべてを、
誰かが見ていた。
だが、そこには誰の姿もない。
人影も、機影も、気配すらない。
ただ、空気がわずかに揺らいでいる。
まるで“そこに何かがいる”と、
世界そのものが訴えているように。
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■ 観測者の視点
その存在は、
ミカの紫光とハル機の黒紫光がぶつかり合う瞬間を、
興味深そうに“見つめていた”。
「……なるほど。
こうなるか」
声はない。
だが、確かに“思考”があった。
「混沌の欠片を宿した器と、
調律の光を持つ少女……
予想以上に相性が良い」
その存在は、
まるで研究者のように冷静だった。
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■ 彼らは“干渉しない”
ミカが泣きながらハル機にしがみつき、
ハルが混沌の声から戻ってくる。
その光景を、
観測者はただ静かに見ていた。
「今はまだ、介入する段階ではない。
彼らがどこまで進化するか……
もう少し観察しよう」
風が吹く。
砂塵が舞う。
その一瞬、
空気の揺らぎがふっと消えた。
まるで最初から、
そこには誰もいなかったかのように。
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■ ただ一つ、残された“痕跡”
ミカとハルは気づかない。
だが、戦場の地面には、
ほんの一瞬だけ“黒い影”が残っていた。
影はすぐに消えた。
しかし、その形は――
人型だった。




