【if版】ep.8 生きるための手
朝の光が、葉の隙間からこぼれていた。
昨日植えた畑の土は、まだしっとりと温かい。
「……今日も、いい天気だな」
孝平が伸びをすると、火のそばでうさちぁん(分)がぴょこんと跳ねた。
「おはよ~♪ 畑、ちゃんと見てきたよ~♪
土の精霊ちゃん、すっごく機嫌よかったよ~♪」
「そうか。よかった」
『おい、朝の挨拶は火にもしてけよ』
火の精霊が、じとっとした目でこちらを見る。
「おはよう。今日も頼むよ」
『ふん……まあ、任せとけ』
うさちぁん(分)がくすくす笑う。
「ね~孝平くん。そろそろ“保存”のこと考えた方がいいよ~♪」
「保存?」
「うん♪ 食べ物ってね、採れたときに全部食べちゃうと、
あとで困るんだよ~。
だから、乾かしたり、火を通したりして、長く持つようにするの」
「なるほど……」
前の世界では、保存なんて考えたこともなかった。
買えばいい。
足りなければ、また働けばいい。
でも今は違う。
ここでは、
自分の手で“未来の食べ物”を作らなきゃいけない。
「……やってみるか」
「やった~♪ じゃあね、まずはこれ!」
うさちぁん(分)が、昨日拾ってきた木の枝や蔓をどさっと置いた。
「これで、干すための“棚”を作るの♪
風の精霊ちゃんが乾かしてくれるからね~♪」
『おう、任せとけ』
風がふわりと吹き、枝が軽く揺れた。
孝平は、枝を組み合わせて棚を作り始めた。
昨日よりも、手が自然に動く。
枝の声が、少しだけ聞こえる。
「……こうか?」
『そうそう。力入れすぎんなよ』
火の精霊が、なぜか口を出してくる。
「火の精霊なのに、木の扱いも分かるのか?」
『火をつけるには木がいるだろうが。
木の性格くらい分かるさ』
「なるほど……」
うさちぁん(分)が、にこにこしながら言う。
「ね~孝平くん。
こうやってね、“手”って変わっていくんだよ~♪」
「手が?」
「うん♪ 昨日より今日、今日より明日ってね。
“生きるための手”になっていくの」
孝平は、自分の手を見つめた。
土の色が少し残っている。
枝のささくれで、小さな傷もできていた。
でも、不思議と嫌じゃない。
むしろ、
この手で何かを作れることが嬉しい。
棚が完成すると、風の精霊がふわりと吹いた。
『よし。これなら乾くぞ』
「ありがとう」
「じゃあ次はね~♪ 食べ物を切る“道具”を作るよ~♪」
「道具……?」
「うん♪ 包丁みたいなやつ!
石を削ってね、刃を作るの♪」
「石を……削るのか」
『おう。昨日より上手くできるはずだぞ』
火の精霊が、なぜか誇らしげに言う。
孝平は、石を手に取り、そっと撫でた。
冷たさの奥に、かすかな“意志”のようなものを感じる。
「……頼むよ」
石が、かすかに震えた。
うさちぁん(分)が嬉しそうに跳ねる。
「ね~♪ こうやってね、
“暮らしの道具”って、急いじゃダメなんだよ~♪
ゆっくり、仲良くなっていくの」
孝平は、深く息を吸った。
「……そうだな。ゆっくりでいいんだよな」
風が、優しく頬を撫でた。
火が、ぱちりと小さく跳ねた。
土の奥から、ぽこりと返事が聞こえた気がした。
この島での暮らしが、またひとつ形になっていく。
うさちぁんの知識を活用して保存食を作ってみました。
精霊たちがたくさん出てきます。
次はどんな精霊が出てくるのでしょうか?




