【if版】ep.17 孤島の熱帯夜と、愛情のデリバリー
拠点に、不自然な陽炎が立ち上っていた。
咲姫の「愛のあーん」によって、情熱のオムライスを完食した孝平。
その体は今、食べた本人の意志とは無関係に、凄まじい熱量を放出し続けている。
「……あ、暑い。これ、俺の周りだけ気温四十度超えてないか?」
孝平が額の汗を拭うそばから、地面の草が茶色く丸まっていく。
それを見た咲姫が、血相を変えて立ち上がった。
「ごめんなさいなのです~! すぐに、すぐにお冷やしするのです~!」
咲姫はどこからか取り出した、自分の背丈ほどもある大きな団扇を手に取ると、猛烈な勢いで仰ぎ始めた。
ばさっ! ばさっ! ばさっ!
しかし、孝平の纏う熱気は霧散するどころか、風に乗って拠点の隅々まで行き渡り、さらなる不快な熱風となって吹き荒れる。
「これじゃぁ駄目なのです~!」
何を思ったか、咲姫は一度動きを止めると、さらに巨大な、もはや帆船の帆のようなサイズの団扇を魔法で生成した。
「うわぁ……」
傍らでその光景を眺めていたうさちぁん(分)は、呆れ半分、面白がり半分といった様子で、口も手も出さずに事態を見守っている。
「いきますです~!」
ばっさっ! ばっさっ!!
凄まじい風圧が拠点を襲う。しかし、風が吹くたびに拠点の温度は一気に跳ね上がった。
「咲姫! 咲姫、それ周りに熱風が行くだけだよ? 咲姫は、その……自分は熱くないのか?」
孝平はあまりの熱気に意識が飛びそうになりながらも、平然とフルスイングを続ける咲姫に疑問をぶつけた。
「咲姫は風でシールドしてるので熱くないのです~!」
咲姫は、ドヤ顔で言い放った。
自分だけは魔法の防壁で涼しい空間を確保し、そこから外に向かって、孝平の熱気を「デリバリー」し続けていたのだ。
「自分だけシールドかよ! 道理で平然とフルスイングしてると思った……。それ、俺に涼しい風を送るんじゃなくて、サウナの熱波師みたいに熱風を叩きつけてるだけだからな!」
「ええっ!? そんなはずは……ああっ、拠点の屋根が、情熱のあまり焦げ始めているのです!?」
「俺の熱のせいだよ!」
見かねたうさちぁん(分)が、ひょいと耳を揺らしながら二人の間に割って入った。
「あはは~♪ このままだと孝平くんが茹で上がって、島ごとオーブン料理になっちゃうね~♪」
「笑い事じゃないぞ、うさちぁん! なんとかしてくれ!」
「ん~♪ じゃあね、森の奥の、一番暗くてジメジメしたところに、引きこもりの氷の精霊ちゃんがいるよ~♪ 会いに行ってみる?」
氷、という言葉に、孝平の目が輝いた。
「氷の精霊……! よし、咲姫、その団扇を捨てろ。今すぐ森に行くぞ!」
「わかりました! その精霊を捕まえて、孝平さんの頭の上で永久に仰がせて差し上げるのですっ!」
「いや、そこまでしなくていいから……」
こうして、灼熱のクラフトアルケミストと、無自覚な熱波師の咲姫、そして鼻歌まじりの神様による、氷の精霊探しが始まった。
孝平が歩くたびに、森の朝露が蒸発し、真っ白なスチームの道が出来上がっていった。
咲姫のオムライスは周囲一帯を熱帯に変えるほどの勢いがあったようです。
自分は涼しく風シールド。その上でフルスイング巨大なうちわ。
咲姫の凄さはとどまることを知りません。




