【if版】ep.15 情熱のケチャップ、あるいは嵐。
収穫した「情熱パンチ・トマト」は、カゴの中でもなお「プルルル……ッ」と闘志を剥き出しにして小刻みに震えていた。 孝平はボクシンググローブを外し、荒い息を吐きながらそれを見下ろす。
「……よし、これで材料は揃ったな」
「お疲れ様です、孝平さん! 最高の素材なのです。では、ここからは私の出番なのですっ!」
咲姫が腕まくりをして、大きな木の桶を用意した。 そこへ収穫したてのトマトたちを放り込む。
「まずは洗浄とカットを同時に行うのです。見ていてください、孝平さん!」
咲姫が手をかざすと、桶の中に激しい渦潮が発生した。 ウォータージェットをさらに鋭く研ぎ澄ませたような、超高圧の水の刃。
「ちょっ……! 咲姫、それだとトマトが粉々に……!」
「いいえ! これで汚れを飛ばしつつ、繊維を完璧に断ち切るのです。……はぁぁぁっ! 水断の舞・微塵切り(ミキシング)なのですっ!!」
桶の中でトマトが凄まじい速度で回転し、真っ赤な液体へと変わっていく。 洗浄もクソもない、もはや原子レベルで粉砕されている勢いだ。
「あはは〜♪ トマトちゃんたちが洗濯機の中で悲鳴をあげてるね〜♪」
うさちぁん(分)が楽しそうに桶を覗き込む。
「さらに、ここから一気に混ぜ合わせるのです。風よ、情熱を攪拌するのですっ!」
咲姫が追い打ちをかけるように風魔法を発動。 狭い拠点の中心に、真っ赤な液体を巻き込んだ「赤い竜巻」が発生した。
「うわぁぁぁ!? 咲姫、服に付く! 服に付くから!!」
「大丈夫です! 遠心力で旨味だけを中心にとどめているのですっ!」
赤い嵐の中心で、咲姫の瞳が情熱で爛々と輝く。 竜巻の摩擦熱と、咲姫の注ぎ込む過剰な魔力によって、ケチャップは煮込まれる前にすでに沸騰し始めていた。
「……完成なのです! 咲姫特製・『超音速攪拌ケチャップ』なのです!」
嵐が収まったあと。 そこには、なぜか神々しいまでの光を放つ、ドロリと濃厚な真っ赤な液体が鎮座していた。
「……これ、食べられるのか?」
「もちろんなのです! ほら、孝平さん。……あ、あーーん、なのですっ!」
咲姫が差し出したスプーンには、もはやケチャップというよりは「情熱の結晶」に近い何かが乗っていた。
ついにケチャップまで作り出してしまう咲姫。
美味しいへの情熱は誰にも負けない!




