【if版】ep.11 ひげの予兆と、和船の訪問者
森の「古い気配」の奥で出会った、片耳の折れたうさぎ、ぽぷらん。 言葉は発しないが、その長いひげが感情や周囲の異変を如実に物語る。
拠点の焚き火のそばで、孝平が干し実の出来具合を確認していると、足元にいたぽぷらんが不意に顔を上げた。
「……ぽぷらん?」
ぽぷらんの左右のひげが、まるで生き物のように「うね、うね、うね……」と、波打つように動き始めた。 今まで見たことのない、複雑で、どこか期待に満ちた揺れ方だ。
「あ、これ! 大きいのが来るサインだよ!」 うさちぁん(分)が耳をぴょこんと立てて、海の方を指差す。
水平線の向こうから、一艘の船が近づいてくる。 それは、孝平がかつての世界で見た「船」の概念を裏切るものだった。
白木で美しく造られた、反り上がる船首を持つ和船。 帆には堂々と「餡」の一文字が墨書されており、逆風を物ともせず、一人の男が艪を漕いでいた。
いや、男ではない。 波打ち際に船が滑り込み、そこから降りてきたのは――。
「……熊、人?」
身長は二メートルをゆうに超えるだろう。 全身を豊かな毛並みに覆われた、立派な体格の熊の獣人だ。 しかしその身なりは、驚くほど端正だった。紺色の着流しを粋に着こなし、腰には手入れの行き届いた巨大な木べらを差し、悠然と砂浜を歩いてくる。
あまりの存在感に気圧される孝平。 その傍らで、ぽぷらんのひげは「ぴるぴるぴる!」と、まるで楽器の弦のように激しく震え出した。
「うわぁ、今のひげはね、『甘くて、すごく強くて、職人の匂いがする!』って言ってるよ♪」
うさちぁん(分)の言葉通り、その熊人――餡子熊王が近づくにつれ、潮風に混じって「炊きたての小豆」の芳醇な香りが漂ってくる。
熊人は孝平の目の前で足を止めると、懐からひとつの包みを取り出した。 その指先は意外なほど器用で、所作には一切の無駄がない。
「……この島の火が、久方ぶりに『良き実』を乾かしていると聞いてな」
腹に響くような、重厚な声。 ぽぷらんは、歓迎を示すようにひげを「ぴょこん、ぴょこん」と跳ねさせ、熊人の足元へ寄り添った。
和装の熊人(獣人)が和船に乗って艪をこいでやってくる。
一見シュールでありながらこれ以上に笑える情景が思い浮かばなかった。
餡子さんならこうだよな~って思いながら書いたエピソードになります。




