【if版】ep.10 耳をすまして
朝の空気は、昨日よりも澄んでいた。
畑の土はしっとりと温かく、
保存棚の食材は風に揺れて乾き始めている。
「……今日も、いい日になりそうだ」
孝平がそう呟くと、
うさちぁん(分)がぴょこんと跳ねた。
「ね~♪ 今日はね、森の奥の方、行ってみない?
精霊ちゃんたち、朝は元気なんだよ~♪」
「森の奥……か」
『あんまり奥まで行くなよ。あそこは気配が濃い』
火の精霊が、ぱちりと火花を散らす。
「気配……?」
『まあ、行けば分かる』
うさちぁん(分)がにこにこしながら言う。
「大丈夫だよ~♪ 孝平くんなら、ちゃんと感じられるから♪」
~ 森の奥へ
森に入ると、空気がひんやりと変わった。
葉の揺れる音が、いつもより深く響く。
「……静かだな」
『静かじゃないよ~♪ ほら、耳をすましてみて』
うさちぁん(分)が耳をぴょこんと立てる。
孝平も、そっと耳を澄ませた。
すると──
さら……さら……
風が草を撫でる音の奥に、
かすかな“声”のようなものが混じっていた。
「……今の、風の声か?」
『うん♪ 風の精霊ちゃん、孝平くんのこと見てるよ~』
「見てる……?」
『うん♪ 昨日、道作ったでしょ?
あれ、すっごく喜んでたの』
風がふわりと吹き、
孝平の肩を優しく撫でた。
まるで「ありがとう」と言っているように。
~ 気配の濃い場所
さらに奥へ進むと、
空気が重く、湿り気を帯びていく。
「……ここ、なんか違うな」
『うん。土の精霊ちゃんの“巣”に近いからね~』
足元の土が、ぽこりと膨らんだ。
昨日よりも、はっきりとした反応。
「……おはよう」
ぽこっ。
返事。
うさちぁん(分)が嬉しそうに跳ねる。
「ね~♪ 孝平くん、気づいてる?
精霊ちゃんたちの声、昨日より聞こえてるよ~♪」
「……そうかもしれない」
風の音、土の震え、木の軋み。
全部が“言葉”に近づいている。
前の世界では、
こんなふうに自然の声を聞いたことなんてなかった。
でも今は──
聞こえる。
「……不思議だな」
『不思議じゃないよ~♪
孝平くんが“生きてる”からだよ』
「生きてる……?」
『うん♪ ちゃんと食べて、寝て、作って、育てて。
そうするとね、世界の声が聞こえるようになるの』
うさちぁん(分)が、少しだけ真顔になった。
「この島はね、“生きてる”んだよ。
だから、孝平くんのこともちゃんと見てるの」
「……島が、見てる?」
『うん♪』
風がそっと吹き、
土がぽこりと膨らみ、
木々がざわりと揺れた。
まるで、
島そのものが挨拶しているようだった。
孝平は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「……ありがとう」
風が、優しく返事をした。
このエピソードの元になった体験があります。
https://note.com/late_moka_neko/n/n9ceabcb556e6
ここを読んでいただければわかるのですが”気配で感じる”ものというのもあります。
例?悪寒・寒気・霊感




