夢の中で遭ったから(4)
「――あ、そうだこのあいだの山下くんだけどさ、超常現象探求サークルには入らないって」
「え。山下って……」
「ほら、このあいだ入会希望だって来た、青薔薇寮の一年生だよ」
四日後。依頼人である木葉の怪談話に出てきた、「ミフユハツコ」なるものが三日目の夜に現れなかったという話を、いつもの四人、黒芙蓉寮の談話室で顔をそろえてしていたところ、思い出したように異世界先輩が言う。
青薔薇寮の山下。ニカと宇津季からすれば忘れもしない不愉快な青いリボンタイの男子生徒である。
ふたりが男子生徒の名前を知ったのは、あのあとすぐに筒井筒に相談を持ちかけたときだった。
筒井筒は難しい顔をすると同時に、「今はほっとけ」と言った。この手の輩はいずれ馬脚をあらわすものだから、と。
しかし山下はどうやら、異世界先輩の前で馬脚をあらわす前にどこぞへ去って行ってしまったようだ。
「あんなに熱心だったのに?」
筒井筒は山下の本性を知っているわけだが、異世界先輩はそうではない。
そのためか、筒井筒はそ知らぬ顔をしてそんなことを聞く。
異世界先輩は少し落胆した様子で話を続けた。
「それがさ、夢の中で運命のひとに出会ったんだって」
「……どっかで聞いた話ですねー」
ニカは呆れ返りすぎて、口の端が不自然にぴくりと動いてしまう。
異世界先輩は困ったように微笑んで、「それがね」と次の言葉を繋げた。
「その運命のひとの名前は『ミフユハツコ』っていうんだって」
「ミフユハツコ」。その名前にどんな漢字を当てるかは知らないが、今しがた四人の口に上っていた――怪談の名前と同じだ。
異世界先輩は眉を下げる。
「私もねえ、大丈夫? って聞いたんだけれど『運命のひとと会わせてくれてありがとうございます』って返って来て……なんか、そう言われちゃうとなにもできないな~って思って。ほら、入会の話を白紙にしたくて言っているのかもしれないし」
「……気にしなくていいと思いますよ」
「そうですよ。本人が運命だって主張しているなら、そこに水を差すのは野暮ってもんですよ」
「そうかな……」
「そうですよ」
山下を気に掛ける異世界先輩に、そんなことをする必要はないと立て続けに宇津季とニカが言えば、筒井筒は若干呆れた顔をする。
けれども結局はなにも言わないあたり、筒井筒も山下に思うところは大いにあったのだろう。
「あと……」
「他にもなにか言われたんですか?」
「いや、今思い出したわけじゃないんだけど、美平くん、山下くんが来たときにちょっと調子悪かった?」
「え……」
「気のせいだったら別にいいんだけど、いつもと様子が違ったからさ。体調が悪いときは無理に黒芙蓉寮に集まらなくてもいいよってことを言っておきたくて」
宇津季はもちろん、ニカも目をぱちくりとさせた。
「いえ、その――……えっと、今は大丈夫です……」
「ああ、それならいいんだけれど」
宇津季はどう答えるべきか迷ったのだろう。最終的にははぐらかした答えになったが、異世界先輩はそこには突っ込まずに、いつも通りに黒い瞳を細めて微笑んだ。
ニカはそれまでマイペースな異世界先輩に苛立つやら、安堵するやらで忙しかったが、なんだかんだ宇津季の変化に気づいていたのだと知れて、少しうれしい気持ちになった。




