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黒芙蓉寮の異世界先輩  作者: やなぎ怜


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真夜中の訪問者(1)

「――それで、この話を聞いてから一週間以内に三人以上に同じ話をしなければならないんですよ……!」


 緑色のリボンタイ――緑蘭(りょくらん)寮の生徒は、そう言って顔を恐怖に青ざめさせた。


 緑蘭寮生から見て、左手から時計回りに筒井筒、宇津季、異世界先輩、そしてニカがそれぞれソファに腰かけている。


 場所は、例によって黒芙蓉寮の談話室だ。


 この緑蘭寮の生徒は、超常現象探求サークルに依頼を持ち込んだ立場である。


 しかしこれまでの依頼とは少々毛色が違っていた。


 「ただ話を聞いてくれるだけでいい」――そういう依頼内容であったが、学園に常駐するスクールカウンセラーなどが相手では駄目だというのが、この依頼人の主張するところであった。


 そして当日。異世界先輩によって集められた他三人は、依頼人の話を聞いて脱力した。


 いわゆる、「不幸の手紙」系だとか、感染系と呼ばれる怪談を聞かされてしまったので、超常現象探求サークルの会員にその話をすることで、自身に降りかかる不幸を回避したい――。そういう依頼だったのだ。


 ニカなどは、「不幸の手紙」なんてものは受け取っても笑って破り捨てられるが、どうやら目の前にいる緑蘭寮の依頼人はそうではないらしい。


 怪談の内容を真に受けてしまっているのか、あるいはものすごく慎重な性格なのか、至極真剣な表情でその怪談――「ウラガエリ様」について語ってくれた。


「一週間以内に三人以上に話をしなかったら、夜に『ウラガエリ様』がやってきて、体を裏返しにしてしまうという話なんです……! 僕、怖くて怖くて……!」


 依頼人の顔は蒼白だったが、異世界先輩以外の三人は若干戸惑いの表情を隠せなかった。


 しかし超常現象探求サークルの面々の中で、異世界先輩だけは黒い瞳を微笑に細めて、泰然と「大丈夫ですよ」と語りかける。


「その怪談は私たち『超常現象探求サークル』が引き受けました。『ウラガエリ様』は木葉(このは)くんのもとには現れません。安心してください」


 依頼人の木葉とやらは、「ありがとうございます!」と言って、異世界先輩に向かって勢いよく頭を下げた。




「――『不幸の手紙』って消えないものなんだねえ」


 依頼人を玄関まで見送ったあと。談話室に戻ってきた異世界先輩は、しみじみとそう言った。


「まあ、要は脅迫文だろ。『不幸になります』とか『殺されます』とか。怖がって広めるやつってのは一定数出るわな」

「逆に善意を利用したタイプもあるしね。ひとの心を巧みに操る点は同じだけれど」

「……異世界先輩は、さっきの依頼人の――『ウラガエリ様』の話、信じてるんですか?」


 宇津季がそう言って、異世界先輩を見た。


 異世界先輩はまったくいつもの調子で、


「一週間後の夜が楽しみだね!」


 と微笑んで言った。


 そして「『ウラガエリ様』が訪問する晩はちゃんとリマインドするからね!」とまで約束して、その日は解散と相成った。


 それから一週間後。ちょうど自寮――赤百合寮で夕食を終えたタイミングをまるで見計らったかのように、異世界先輩からグループチャットにメッセージが送られてきた。


 一週間前の「リマインドをする」という約束をきちんと守るあたり、異世界先輩は妙なところで律儀だなとニカは思った。


 異世界先輩からのメッセージは気合が入ったもので、「ウラガエリ様」の怪談の概要を書き連ね、〆は


『いや~楽しみだな~』


 ……という文章だった。


 別にニカは楽しみでもなんでもないし、そもそも、その「ウラガエリ様」とやらの話を、頭から信じていないのだから、当然と言えば当然だった。


「『ウラガエリ様』……来るのかな」


 寮で部屋を同じくするルームメイトでもある宇津季は、そんなことを言う。


 ニカは思わず「え、宇津季は怖いの?」などとからかってしまった。


 宇津季はむっとした顔をするどころか、呆れた様子で大きなため息をつき、目を平たくしてニカを見た。


「なにもなかったら、異世界先輩ががっかりするだろ」

「いや、なにかあったらおおごとだろ。なんか、体を裏返しにするらしいし」

「……それって、どんな状態なんだ?」

「さあ?」


 そのあと、ニカと宇津季はその日出された課題に取り掛かったので、その頭の中から「ウラガエリ様」の話はどこかへ飛んで行ってしまった。


 しかしこの課題が意外と強敵で、もうひとりのルームメイトも交えてひいこら言いながら進めることとなった。


 ちなみにニカたちの部屋は四人部屋だが、残るひとりは「明日写させてもらう」などと言って、早々にベッドに入り寝息を立て始めた。そのルームメイトはかなり真剣に活動しているスポーツ系のサークルに入っていたので、夕食後の睡魔には勝てなかったのだろう。


 そう理解しつつも、ニカたちはしばらくそのルームメイトについてぶちぶち言い合いながら、懸命に課題を進めて行った。


 そして消灯時間を前にして、三人ともの脳みそが疲労と眠気でふわふわとし出したころ。


 四人部屋の扉がノックされた。

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