ラブイズブラインド(2)
異世界先輩が依頼人である白井セツナに連絡を取ると、存外とすぐにその算段は整った。それだけ、白井セツナのほうも切羽詰っているのかもしれない。
白井セツナが中庭のベンチへ石黒ふわりと向かい、そこを遠くから異世界先輩が見てみるということになった。
「でも、なにか見えるとは限らないんですよね」
「そうだね。単純に私と波長的なものが合わないとか、本当に白井さんたちの『気のせい』で単なる『偶然』が重なって、なにか心霊的な実体がいないという可能性だってある」
異世界先輩はそう言いはしたものの、ニカにはなぜだか、なにか見えるという確信を異世界先輩が持っているように聞こえた。
「見えなかったら、どうするんですか?」
「それはそのときに考える」
ニカの問いに、異世界先輩はあっさりとそう言ってのけた。
そうこうしているうちに、校舎にぐるりと囲まれた、中庭を見渡せる渡り廊下まで来た。
「依頼人は来てますか?」
宇津季の問いかけに、異世界先輩は
「うん。もういるね」
と、黒い瞳を中庭に向けたまま言った。
異世界先輩に特徴を教えられるまでもなく、ニカも宇津季も依頼人である白井セツナと、その親友だという石黒ふわりらしき人物を見つけられた。
元男子校であるこの学園で、女子生徒のひらめく長いスカートは目立つ。周囲はズボンを穿いた男子生徒ばかりだからだ。
そしてふたりの胸元には白いリボンタイ。唯一女子寮のある、白薊寮の所属であることを示している。
「あそこの左っかわのベンチのところ――に、座った女子生徒ですか?」
遠目にも、ふたりの女子生徒がなにかしゃべっているのはわかったが、あまり穏当な空気は感じられなかった。
黒髪をボブカットにした女子生徒の顔は終始曇っており、対するやや茶髪のセミロングの女子生徒はにこにことしている。
そんな特徴をニカが異世界先輩に伝えると、どうやら黒髪ボブカットのほうが今回の依頼人である白井セツナらしい。
「石黒さんって、美少女なの?」
突然、異世界先輩がそんな問いを投げかける。
「もしかして茶髪でセミロングで眉は太めで、淡い……なんて言うんだろ、パステルカラー? のヘアピンを向かって左にいくつかつけている?」
ニカは再度、白井セツナと思しき人物の隣に座る女子生徒を見やった。
遠くからではあったものの、よくよく見れば前髪をヘアピンで留めているらしきことがわかる。
ニカから、異世界先輩を挟んで隣に立つ宇津季は、スマートフォンを取り出し、そのカメラ機能で遠くにいる女子生徒を拡大して確認したようだ。
「ヘアピン、つけてますね。薄いピンクと紫の。眉は……太め、だと思います。茶髪で、胸の辺りまでの長さがあります」
ニカにもスマートフォンのカメラ機能を使うという発想はあったものの、対象が女子生徒だということでためらいがあった。しかしこの従兄弟にはそんなためらいはないか、異世界先輩のためならばそんなものはかなぐり捨てられるといったところだろう。
宇津季の行為に、盗撮じみたものを感じなくもないが、今言うべきことではないと思い、ニカはぐっと言葉を飲み込む。
そもそも、依頼人である白井セツナの許可は半ば取っているようなものの、石黒ふわり――らしき女子生徒――を盗み見ているということは動かぬ事実だ。
それよりも、異世界先輩の質問の内容が気にかかった。
だがニカが予測を話すよりも先に、宇津季が口を開いた。しかしその口から出てきた内容は、まさしく今ニカが問いたいものだった。
「異世界先輩……もしかして、おれのときみたいに、女子生徒が見えてなかったり……します?」
異世界先輩は宇津季――とニカ――の疑問に答えるように、黒い瞳を細めた。
「……見えてるよ? ――ただ、私にはどうやったって人間には見えないだけ」
「どういう、ことですか?」
「うーん。推定石黒さんの特徴を持った、やたら目玉のある巨大なお化けが見えるんだけれど……」
「え。じゃあそのお化けがポルターガイスト現象を? ――あれ、でも石黒さんの特徴を持った、お化け……?」
ニカが目を瞬かせれば、視界の端で宇津季も首をかしげていた。
そんな中で、異世界先輩だけはわけ知り顔で「うん」とうなずく。
「たぶん、解決はできると思う――けど、ちょっと自信ないかも。……まあひとまず依頼人の白井さんには、石黒さんを黒芙蓉寮に連れてきてもらおう」




