旧図書館(2)
「どうしました?」
異世界先輩のそばにはすでに筒井筒がおり、スマートフォンのライトで足元を照らしていた。
肝心の異世界先輩はと言えば、カーペットが敷かれた床になにやら大判の本を開いて、膝をついて覗き込む姿勢を取っている。
どうやら、異世界先輩の琴線に触れる本があったらしい。
ニカと宇津季はライトをオフにして、異世界先輩と筒井筒のいる場所へと近づいた。
「……なんか、見つけたってさ」
後輩ふたりに筒井筒はそう言ったものの、異世界先輩がなにを見つけたのかまでは筒井筒も把握していないようだ。
「――アルバム?」
宇津季が膝を折って大判の本を覗き込み、つぶやく。
たしかに異世界先輩が床に広げている本のページには、何枚もの写真が印刷されていた。
写真が直接貼り付けられているわけではないところや、この分厚い大判の本を見るに、これは――
「……卒業アルバム?」
ニカには、そう見えた。
宇津季に倣って本を覗き込めば、写真にうつっている人間の年齢的に、これは中学校の卒業アルバムではないかと思えた。
そうなると、不可思議なことになる。
「……この学園の卒業アルバムがあるのはまあ不自然じゃないですけど……これ、中学校の卒業アルバムに見えません? なんでこの旧図書館に……?」
「やっぱそう見えるよな……」
ニカと筒井筒のやり取りが聞こえているのかいないのか、異世界先輩は熱心に卒業アルバムのページをたぐっていた。
「異世界、これどこで見つけてきたんだ?」
「……普通にそこの書架に入っていたよ」
「じゃあ……だれかが中学校の卒業アルバムを持ち込んで、そこの書架に入れたってことですか?」
「……だれが、なんのために?」
宇津季の言葉に続く、筒井筒の声は吐息にも似ていた。ニカは、胸中に一抹の不安と、気味悪さを抱く。
「あのさ」
それまで夢中になって卒業アルバムのページをめくっていた異世界先輩が、その手を止めて言う。
しかしその目線は、床に広げられた卒業アルバムに落とされたままだ。
「この卒業アルバム、私の中学校のものなんだけれど」
「――え?」
三人の声が、静かに重なった。
「私が貰った卒業アルバムと同じ。中身も。でも……
――私だけが写ってない」
異世界先輩が写真のひとつを指差した。
この学園に通う生徒たちよりも、幼くあどけない顔をした中学生たちが、無垢な笑みを向けている。
しかしそれらは、一枚の写真として見たとき、不自然なスペースが存在していた。
生徒たちが一列に並んでいる写真。妙に左に寄り過ぎている。
生徒たちが円に近い形になり、ピースを向けている写真。右中央だけがぽっかりとあいている……。
……異世界先輩が指差した写真はすべて、そこにもともとだれかひとがいたのだ、と言われれば納得できるものに思えた。
「私だけ消えてる」
異世界先輩の言葉に、三人ともが言葉を失っていた。
気のせいなんじゃないかとか、ただの偶然だとか、いくらでも言えたが、三人ともそんな言葉を口にすることはできなかった。
卒業アルバムの中に永遠に閉じ込められた、中学生たちの笑みを見る異世界先輩の横顔を見れば、そんなことは口にできるはずもなかった。
「……ねえ、これって持ち出したらまずいよねえ?」
異世界先輩が卒業アルバムから顔をあげて言う。
いつも通りの顔と、いつも通りの語調だった。
「……そりゃ、まあ、だれがここに置いたのかわかんねえもんだしな」
「――だよねえ。じゃあ戻しておこう」
異世界先輩は卒業アルバムをたたんで立ち上がる。
書架のひとつの、ぽっかりとあいた箇所へ卒業アルバムを収める。
……そのあと、件の卒業アルバムの話は一切出なかった。
しかし異世界先輩が集めてきた噂話はどれもこれもハズレで、ニカたちが当初予想した通りに、落胆に肩を落とす異世界先輩を見ることになるのだった。




