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黒芙蓉寮の異世界先輩  作者: やなぎ怜


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旧図書館(1)

 熱心なサークルであれば活動日というものを厳格に定めているだろう。しかしこの超常現象探求サークルの活動日は、特に定められていない。サークルを主宰する異世界先輩の気分次第か、持ち込まれる依頼次第といったところだ。


 他のサークルと掛け持ちしてもいいと異世界先輩は言っていたが、今のところニカも宇津季も超常現象探求サークル一筋となっている。筒井筒は家庭料理サークルと掛け持ちしているのだが。


 そんな風に活動日が特に決まっていない、超常現象探求サークルの主宰である異世界先輩から号令が掛かった。


 ――『旧図書館に行こう!』。チャットアプリのグループルームに投下されたそのひとことで、異世界先輩を含めた四人は集まることになった。


 旧図書館とは、名の通り、学園内にある今は使われていない昔の図書館のことである。図書「室」ではなく、図書「館」であるところが、この学園の伝統と規模を物語っているようなものだ。


 三階建ての新図書館は本校舎とは渡り廊下で接続した場所に建てられている。同じく学園の敷地内にあるとは言え、びっくりするほど端に位置する黒芙蓉寮よりも遥かにアクセスがいい。


 旧図書館も同じく渡り廊下で本校舎と繋がっていたが、今は当然のように閉鎖されており、立ち入り禁止となっている。


 そんな旧図書館の中にどんな本が納められているかと言えば、今の時代にそぐわない表現や、否定されて久しい学説が書かれた本などである――らしい。


 らしい、というのは先述の通りに旧図書館は立ち入り禁止。在校生の中に直接その目で旧図書館に収められた本を読んだ者はいないので、そのようにあやふやな伝聞調となっているのである。


「――旧図書館には発禁本などもあるけれど、それ以外にも不思議な本があるって噂なんだよ」


 意気揚々と両腕を交互に前後させ進むのは、もちろん異世界先輩だ。その右手には、旧図書館の扉の錠を開けるための鍵があった。


 当然、ニカは「どうやって手に入れたんですか?」と聞いた。


 異世界先輩曰く、超常現象探求サークルの活動のためだと言えば貸し出しが許可されたらしい。


「『超常現象探求サークル』と名がつくからには、怪しげな噂話を調査するのはれっきとしたサークル活動の一環なんだよ」


 ……などと異世界先輩は豪語したが、ニカはあっさりと鍵の貸与が認められたということは、異世界先輩が把握している旧図書館の怪しげな噂話の数々は、しょせん噂話に過ぎないということの裏返しだろうと思った。


 要するに旧図書館に怪しいところなんてひとつもなく、異世界先輩が期待する噂話は眉唾だということだ。


 ニカは、このあと異世界先輩が落胆するさまを、ありありと想像することができた。


 筒井筒も宇津季も、もちろんこのことに気づかないはずもなく、ただ異世界先輩だけが場違いにうきうきとしている。


 結果はわかりきっていたが、異世界先輩についていかない選択肢はない。


 三人とも一応、超常現象探求サークルの会員だからというのもあったが、異世界先輩をひとりで放っておくことはできないという思いが一番強くあった。



 旧図書館の、両開きの鉄扉の前に立つ。錠前は典型的な南京錠と、ナンバーロックのふたつが取り付けられていて、思ったよりも厳重な施錠がなされていた。恐らくはこうでもしないと、好奇心から侵入を試みる生徒が出てくるからだろう。


 異世界先輩が許可を取り付けてきたというのは本当のようで、手際よく南京錠を外し、ナンバーロックも解除した。


 異世界先輩が鉄扉を押して開けようとしたが、想定よりも重かったらしく、すぐに上半身を鉄扉に押し付けるようにして、片側の扉を開けた。


 静まり返った旧図書館の内部は、暗かった。書籍を日光から守る必要性があるのだから当たり前だと、ニカはすぐに思い直した。


「電気は通ってないんだって」

「じゃあスマホのライト使うのか」

「そうなるね」


 異世界先輩は電灯のスイッチの操作盤を見つつそう言って、スマートフォンのライトをつける。


 暗がりにパッと円錐形の白い帯が伸びて、その中空を舞う埃がきらきらと輝いていた。


「とりあえず書架を確認していって、なにか変な本があれば教えて!」

「ざっくりとしすぎだろ」

「噂によると予言書……的なものもあるらしいけれど、装丁まではわからないんだよね」


 「広いからわかれて探そう」。異世界先輩がそう提案したので、他の三人もスマートフォンを取り出し、ライトをつけた。


「じゃあなにかあったら……大声で呼んだほうが早いかな? 司書さんとかいないしね。――じゃあ、まずは一階から探そう!」


 その言葉を合図に、おのおの旧図書館内に散って行く。


 とは言えども、あっさりと鍵が貸与されたという事実と先入観もあり、この旧図書館に異世界先輩のお気に召す本があるとは、ニカには思えなかった。


 そもそも本の背表紙だけを見て、どうやって「変な本」と断定できるのだろうか。


 かすかに埃のにおいと、なかなか慣れない古い紙とインクの香りを感じながら、ニカは旧図書館の内部をあてどなく進む。


 旧図書館の暗さや、独特の臭気は嫌と言うほどではなかったものの、確実に自分の部屋ではないことを突きつけてくるようで、どこか落ち着かない気分にさせる。


「……お、宇津季じゃん。なんかいい本あった?」


 そんなときに、同じようにスマートフォンのライトで書架を照らしながらさまよっていた宇津季とかち合う。


 ニカの問いに、宇津季は無言で頭を左右に振った。


 「まあ、そうだよな……」とニカが言ったところで、異世界先輩の大声が聞こえた。


 ニカと宇津季は顔を見合わせ、異世界先輩の声がした方へと向かうことにする。

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