婚葬(1)
超常現象探求サークルのグループチャットのルームにそのメッセージが送信されたのは、放課後を前にしてのことであった。
送信者は当然のごとく超常現象探求サークルを主宰する異世界先輩で、短く「放課後、黒芙蓉寮に集合!」という、相手の予定など窺わないものだった。
しかしニカと宇津季は他のサークルに入っているわけでもなかったので特に用事がなかったし、筒井筒もどうやら今日は家庭料理サークルの活動がなかったらしく、ひと足先に黒芙蓉寮の談話室にいた。
「こういうときは先に相手の予定を聞けよ」
筒井筒がまっとうなことを説く。しかし異世界先輩は、
「みんな特に予定が入っていないと思って」
などと返した。
実際そうだったからなのか、はたまた反省の色のない異世界先輩に呆れ返ったのか、筒井筒は小さくため息をついて、それ以上その話題に触れる気はないようだ。
「それで……今日はサークルの集まりということで、いいんです、よね?」
黙り込んだ筒井筒に代わって、宇津季が話を進める。
超常現象探求サークルのグループチャットを介して集められたのだから、つまりはサークル活動をするためだと解釈するのが普通であろうが、なにせ相手は異世界先輩である。
宇津季も恐らくその可能性に思い至り、改めて異世界先輩に今日の目的を確認したのだろう。
異世界先輩はいつも浮かべている微笑みをさらに深くして、言った。
「みんなは――結婚について、どう思っている?」
「早く本題に入れ」
意味深長な問いかけをした異世界先輩だったが、すぐに筒井筒によってバッサリと切られてしまった。
「それ絶対本題じゃないだろ」
「いや、本題に関係してはいる」
「じゃあ早くそれを話せ」
「お前導入ヘタクソなんだから」と筒井筒に容赦なく切り捨てられて、異世界先輩は「うう」と反論もせずうめいた。特に筒井筒に抗議しないあたり、異世界先輩にもその自覚はあるのかもしれない。
異世界先輩はわざとらしく咳払いをして、ようやく今日三人を集めた目的について話し出す。
その間、宇津季は膝をそろえて行儀よくソファに座っていたが、ニカは茶請けのクッキーを二枚食べた。クッキーは筒井筒が作ったものであるらしいのだが、黒芙蓉寮に常備されているのか、ニカは少し気になった。
「――我が超常現象探求サークルに依頼がありました」
「依頼、ですか……」
「……このサークルに依頼してくる生徒って、基本的に面白半分か、後ろめたいことのあるやつばっかりだけどな」
真面目に話を聞く姿勢を取る宇津季に、筒井筒はまたため息をついてそんなことを言う。
たしかにいち生徒が、同じくただのいち生徒たちの集まりである超常現象探求サークルに、たとえば超常現象の解決を求める理由となると、筒井筒の挙げたそのふたつが大部分を占めることになるのは、ニカにも容易に想像がついた。
「で、今回はどっちだ?」
ニカたちより異世界先輩との付き合いが必然的に長い筒井筒は、もはや超常現象探求サークルに依頼してくる人間のパターンを知り尽くしているのだろう。筒井筒にしては珍しく、やや投げやりな声でそう異世界先輩に問う。
異世界先輩はあっさりと、
「後者のほうだね」
と言って、ニカたちが来る前からローテーブルの上、その中央に置かれていた板切れをひっくり返した。
ホームセンターで簡単に入手できそうな、恐らくヒノキから切り出した長方形で、厚みのある板切れは、表面に黒いマジックペンで落描きがされているようにニカには見えた。
いや、落描きではなく、当人は真剣に描いたものかもしれない。しかし素人目にもさして技巧は感じられない出来ではあった。
板切れに描かれた絵は、人間がふたり並んで立っているものだ。向かって左側は男性で、黒い服を着ている。その隣にいるのは女性だろう。服は特に塗りつぶされてはいなかった。
「なんですか、これ? 男女……を描いた絵……?」
「そうだよ。これはね、現代で言うところの結婚写真の代わりみたいなものかな」
「それで『結婚がどう』とか言い出したんですね。でもこれ、結婚写真の代わりにしては、こう……」
さしものニカも、ストレートに「ヘタ」とは言えなかった。
「本来は、ちゃんとした絵師に依頼するものらしいよ。でもこれを描いたのは素人だから」
異世界先輩も直接的に「ヘタ」と言いはしなかったものの、その口ぶりはそう言っているも同然だった。
「それで本題なんだけれど。この絵に描かれた女性のほうは――もう亡くなられているんだ」




