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禁断の忠誠  作者: 海野雫
第四章 揺らぐ玉座と誓い

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4-2

 控えの間に到着すると拱手をした。


「太子殿下より書簡をお預かりしています」


 すると、一斉に書記官が凌雪りょうせつへと目をやった。その瞳は冷ややかで、まるで虫を見るような視線だった。


 最奥に座っている書記官がゆったりと立ち上がり、凌雪に歩み寄ってきた。その足取りは傲慢で、凌雪を見下している。


「王太子殿下から、どのような書簡ですかな?」


 凌雪が書簡を手渡すと、書記官は書簡をゆっくりと開いて中身を確認した。その目が素早く文字を追う。


「何を今さら! もう終わったことではないですか。宰相閣下が疫病を治められたのだから」


 書記官は鼻を鳴らして笑った。まわりの書記官も冷ややかな笑いを凌雪に向けた。その笑い声が耳に突き刺さる。


「あぁ、疫病については太子詹事せんじには伝えておりましたが、そちらには伝わっていませんでしたかな?」

「李詹事に?」


 凌雪は拳をきつく握る。しかし冷静に答えた。表情を崩してはならない。


「宰相府からの書簡は太子詹事を通さず、直接、東宮書房へと持ってくるようになっていたはず」

「あぁ、そういう決まりでしたな」


 書記官は顎髭を撫で付けながら不敵な笑みを浮かべた。その笑みには明らかな悪意が含まれている。


「まぁ、次の政務会議で宰相閣下が王太子殿下にご報告されるであろう。そのように殿下に伝えておけ」


 話は終わりだといわんばかりに、書記官は自分の机へと戻って行った。


 宰相執務室の控えの間から出た凌雪は、奥歯を噛み締め、思わず歯ぎしりしてしまった。怒りで体が震える。


「……李詹事……」


 李徳謙りとくけんは一体何を考えているのか。殿下を裏切っているのか。それとも――。


 凌雪はその足で李徳謙の執務室へ向かった。



 李徳謙の執務室に到着すると、凌雪は李徳謙に聞いた。


「李詹事、川の下流で疫病が広がっていたという話を聞きました」

「ああ、その件か。書房にも報告書が来ていたはずだろう?」


 李徳謙は顎に手をやり、どこか挙動不審に見えた。


「いえ、届いたのは『鎮圧した』という内容のみです」

「そうか……。あれは殿下に報告するほど大きな出来事ではなかったと判断し、こちらで処理したのだ」


 凌雪は李徳謙の様子に一層の違和感を覚えた。李徳謙の視線は凌雪から逸れ、遠くを見つめている。


 ――何か隠しているのか? それとも――。


 凌雪は目を細め、李徳謙を見たが目を合わせようとしなかった。その態度がすべてを物語っているようだった。


 凌雪はそれ以上詮索することなく、その場を辞した。李徳謙を問い詰めても、今は何も得られないだろう。



 書房に戻ると景耀けいようがすぐさま顔を上げた。その表情には、心配そうな色がにじんでいた。


「どうであった?」

「はい。宰相府では次回の政務会議で報告すると。この件については李詹事に話がいっていたようで……」

「李徳謙に?」


 景耀の声が低くなる。その蒼い瞳に鋭い光が走った。


「はい。李詹事は、殿下に回すほどの案件じゃないということで自分で処理したと……」


 景耀の表情が一気に曇った。凌雪の目にも景耀が動揺しているのがわかった。その顔には失望と怒りが入り混じっている。


「李徳謙にかぎって……」

 そのつぶやきは小さく、だが深い失望を含んでいた。


 何かが起こっている……。凌雪はそう感じずにはいられなかった。東宮の中にまで、魏嵐の手が伸びているのか――。



 政務会議の前日。凌雪は景耀から正殿「蒼華殿そうかでん」へ共に来るようにいわれた。


「明日の会議には、お前も同席しろ。書記として記録を取ってもらう」

「はっ、承知いたしました」


 その場では主に治水事業の追加歳出について話し合われることと共に、先日景耀に知らされた、南部の疫病についても報告があるはずだ。


 ――必ず殿下をお守りしてみせる。


 凌雪はぎゅっと拳を握り、心に誓った。景耀を守るためなら、何でもする。この命を賭けても――。


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