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短編集・異世界恋愛&ファンタジー

転生聖女は殴りたい

6月中は短編を毎日投稿予定ですので、お気に入りユーザー登録をしていただけると嬉しいです!

 聖女――それは国を魔から守る存在。

 生まれた時から、その運命を背負い、国のためだけに生きる。

 歴代の聖女もそうやって宿命を受け入れてきた。


 しかし、アリアは違う。

 彼女は不幸な出来事で死んで転生した元日本人。

 桃色の髪と瞳。

 背は低いが、聖女としての能力は高い。


 彼女も聖女としての運命を課されていたが……嫌で嫌で仕方なかった。


(国のために生きるなんてまっぴらごめん。絶対にここから逃げ出してやる!)


 父親に売られるようにして国でに幽閉される形で生活しているアリア。

 質素ながら生活には困らないが、彼女は娯楽に飢えていた。

 元の世界と比べるとやることがなく、退屈でしょうがない。


 国のために生きるのは嫌だし、暇なのも嫌だ。

 そう考えるアリアは、今生活をしている王城からの脱出を決行する。


 そして難なく成功してしまい、彼女は自由を手に入れたのだ。


 アリアはそれから髪を金髪に染め、身分を偽って生活をすることに。

 何もすることの無い世界で、何かしたい。

 アリアはとにかく暇が大嫌いだった。


 そんな彼女は何か暇つぶしは無いものかと、カーガルという小さな町を彷徨う。

 人の会話を立ち聞きし、自分の欲求を解消する出来事を探す。

 そして立ち寄った一軒の酒場。

 アリアはそこで酒を飲みながら、酔っ払いたちの会話に耳を傾けた。


(お酒あんまり強くないんだけど、気持ちいいんだよねぇ)


 聖女としての役割を全うしていた時には、口にすることもできなかった酒。

 転生前はお酒を嗜む程度だったが、娯楽の無い世界でははまりそうな予感。

 酒に溺れるようなことはしないが、週に一回は飲みに来ようと考えていた。


「なあ聞いたか。黒兎っての」

「黒兎?」

「ああ。黒兎は珍しいモンスターで、素材として道具屋が買い取ってくれるらしい。いい値段で買い取ってくれるから、最近はその話題で持ちきりだぜ」


(いい話を聞いた!)


 アリアは黒兎の話を聞いて、すぐに行動することに。

 珍しいモンスターだなんて、面白いじゃない。


 ワクワクした気分で翌日の朝、アリアは町の近くの森へとやって来ていた。

 そこは比較的弱いモンスターばかりが出現する森で、そう危険の無い場所だ。

 この森で黒兎の目撃証言があり、それを探すために。


「黒兎ちゃん、どこかなどこかな~。怖くないから出ておいで」


 なんてことを怖い顔をしながら言うアリア。

 しかし探せど探せど、黒兎は見当たらない。

 もしかして偽情報を掴まされたのでは?

 アリアは小さな怒りを覚えながら、その場を引き返そうとする。


 だがそんな時、近くで言い合いをしている男と女の姿を発見。

 何やら揉めているようで、アリアは野次馬根性むき出しで、二人に気づかれないように接近する。


「おい、俺と付き合ってくれよ」


「嫌よ。私は黒兎を探すから一緒に行動してただけで、そんなことを言うためにここに来たの?」


「そうだよ。悪いか?」


 モヒカン頭の男が、魔術師らしき恰好をしている女性に言い寄っているようだ。

 アリアは木に隠れるようにして、二人の様子を窺う。


「付き合えないってのなら……強引でもいいんだぜ?」


「最悪……死になさいよ、あんた」


 女が男の胸を突き押すと、腹を立てたのか男が女の顔面を全力で殴りつけた。


「うううっ……」


 気絶してしまう女。

 それを見たアリアはブチッと音がするぐらいキレてしまい、感情を露わにして男の前に顔を出す。


「あんた、やりすぎでしょ!」


「はぁ?」


「自分の思い通りにならないから暴力を振るうって……最低の人間じゃない。あんたは私の父親か!」


「何言ってんだ、お前」


 転生前、父親から暴力を振るわれてきた過去がある。

 それはいつまでも彼女のトラウマとなっており、男の暴力を見ると感情が高ぶってしまう。


 弱者を強引にねじ伏せるその根性が許せず、アリアは腹の奥に黒い感情を抱く。


(許せない許せない許せない……こいつは許せない!!)


「えいっ!」


 相手の腹を殴る。

 だが細いアリアの腕から放たれる拳は、男に一切効かなかった。


「なんだよお前、俺と楽しいことでもしてくれるのか?」


 ゲスめいた男の表情。

 そのおぞましさに、アリアは背筋を凍らせる。


 ここまでの怒りと合わせて彼女の感情が限界突破してしまう。

 絶対にぶっ飛ばす!

 その時、天啓のようなものがビビッと訪れる。


 聖女の能力の一つに回復魔術という物があり、それはその名の通り、人を癒すという能力だ。

 この癒しの力を、もし反転したのならば――どうなるか。


 気色悪い笑みを浮かべている男に対し、アリアはもう一度パンチを放つ。

 腹部に叩きこまれるアリアの拳。

 だが今度は回復魔術を発動し、それを反転しながら。


「うっ――」


 反転した回復魔術は――圧倒的な暴力と化す。

 聖女としての高い魔力がそのまま攻撃力へと転換され、腕力の無いアリアでも超人めいた威力を発揮する。


「ぐわぁあああああああああああああああああああああああ!!」


 男はアリアのパンチで吹き飛ばされ、何本の木を折りながら遠い場所でようやく止まる。

 グッタリとして動かなくなってしまう男。

 口からは汚物を吐き出し、涙と鼻水も流していた。


「き、き……気持ちいいいいいいいいいい!!」


 悪者をぶっ飛ばす感覚。

 それがアリアにはたまらなく楽しく感じられた。

 娯楽の無い異世界で、最高の興奮。


 ようやく自分のやりたいことを見つけてしまったアリアは、ニヤニヤしながら遠くで倒れている男を見据える。


「楽しいこと教えてくれてありがとう。お礼に、また会ったら殴ってあげるから」


 そう言い放ったアリアは、意識を失っている女性に近づく。

 彼女は目を覚ます様子は無い。 

 このまま背負って町まで帰るかと、アリアは思案する。


 彼女を背負い、動き出そうとするアリア。

 しかし、その重さに足もとがプルプルする。


「お、重い……動けない。どうしよう」


 圧倒的な攻撃力を得たが、しかし非力なアリア。

 どうすることもできず、困り果てて周囲を見渡す。


 するとそこに黒髪の美青年が現れ、困っている彼女に近づいてくる。


「どうかしたのか?」


「実は……」


 さっきあったことを説明するアリア。

 彼は狩人をしているフィンという男らしく、事情を理解しアリアの代わりに町まで女性を背負ってくれることに。


 男はこの場に放置し、また悪いことをしたらぶっ飛ばすかとアリアは考えていた。


 それから間もなくして――アリアの噂が町中に流れる。

 悪人をぶっ飛ばす女がいると。


 可愛い顔をして歓喜に満ちた表情で悪を成敗する。

 以前『聖女』を見たことがある人物が彼女によく似ていると言ったことから、『狂犬聖女』という二つ名が付けられた。


 そしてアリアは今日も悪人を探す。

 娯楽の代わりに、楽しみのために、悪を許せぬ正義の心のままに。


「ああ、殴りたいな。悪い人、もっと現れてくれないかなぁ」


 いつしか彼女へ悪人退治の依頼をする者も多くなり、この町の犯罪率は下がったという。

 悪人が恐怖する『狂犬聖女』。

 彼女がいる限り、この町は平和であり続けるだろう。

 

 だがそうなると困るアリア。

 程よく悪人が出て来ることを、密かに祈るのであった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

作品をこれからも投稿を続けていきますので、お気に入りユーザー登録をして待っていただける幸いです。


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