恋の矢印、ぐるぐる大混乱フェスティバル
「べら! 俺と付き合ってくれ!」
ひろの告白が、森に響き渡った。
筋肉全開、声量MAX、感情100%。もはや告白というより、プロレスの入場宣言だった。
「……はあああああああああああああああああああああ!?」
べらの絶叫が、森の鳥たちを一斉に飛び立たせた。
彼女はぼくの腕を掴んだまま、ひろを睨みつけている。
「あなた、何言ってるの!? わたしはでみと婚約してるのよ!? 親が決めたのよ!? 契約書もあるのよ!?」
「でも、俺の心が叫んでるんだ! べらが好きだって!」
「心の叫びより、法的拘束力のほうが強いのよ!!」
「法的って何!?」
ぼくは完全に蚊帳の外だった。
いや、正確には蚊帳の中で蚊に刺されまくってる状態だった。
誰もぼくの気持ちを聞いてくれない。
いや、そもそもぼく自身も、自分の気持ちがわからなくなってきてる。
「……なんでこうなったんだろう」
隣でへれながぽつりと呟いた。
彼女の目は、まだぼくを見ている。でも、その視線には、喜びよりも不安が混じっていた。
「でみ、わたしのこと、本当に好きなの?」
「もちろんだよ、へれな。君のことしか見えない。君の声、君の髪、君の――」
「それ、さっきも言ったよね?」
「……あれ?」
ぼくの目が、少しだけ揺れた。
その瞬間、木の上からひょっこり顔を出したのは――ぱっく。
「いやー、いいですねぇ。恋の混線。ラブコメの醍醐味ですよ」
その声を聞いた瞬間、全員の怒りが爆発した。
「「「「おまえかあああああああああああああああああああああ!!」」」」
ぱっくに向けて、怒号が炸裂する。
でも、彼はまったく動じていない。むしろ、満足げに笑っていた。
恋の矢印は、完全にバグってる。
でも、ぼくの心の中では、ひとつだけ確かなことがあった。
――このままじゃ、誰の気持ちも、本物になれない。