好きって、魔法で変わるものですか?
「へれな……?」
自分の口からその名前がこぼれた瞬間、胸の奥がじんわり熱くなった。
まるで初恋の告白みたいに、声が甘く響いたのが自分でもわかった。
視線は、べらを完全に通り過ぎて、森の入り口に立つへれなに釘付けになっていた。
月明かりに照らされた彼女は、まるで物語のヒロインみたいで――
いや、違う。今この瞬間、ぼくの中で本当にヒロインになっていた。
「でみ……?」
へれなが目を見開く。
その声が、少し震えていた。驚きと、戸惑いと、ほんの少しの期待が混ざったような声だった。
「へれな、君って……こんなに綺麗だったっけ?」
言った瞬間、自分でびっくりした。
でも、心は嘘をついてなかった。
彼女の姿が、どうしようもなく眩しく見えたんだ。
「えっ……えええっ!?」
へれなの顔が一気に真っ赤になった。
その反応が、なんだかすごく可愛くて、ぼくの心臓がまた跳ねた。
「でみ、あなた……まさか……!」
べらが、ぼくの腕を掴んで睨みつけてきた。
その目は、完全に“ヒロインからラスボスにジョブチェンジ”していた。
「あなたはわたしのものよ。魔法なんかに惑わされないで!」
「いや、でも……へれなって、なんかこう……運命っていうか……」
「運命はわたしでしょ!? 親が決めたのよ!? 契約書もあるのよ!?」
「契約書って何!?」
もう、頭の中がぐるぐるだった。
でも、心は確かに――へれなに向かっていた。
そのとき、森の奥から聞き慣れた声が響いた。
「おーい、でみー! へれなー! ……って、え? なんでべらがいるの?」
ひろだった。
筋肉と友情に生きる、ぼくの親友。
そして、へれなに片思いしていたはずの男。
でも――
ぱっくのラブパウダーが、ふわりと彼にも降りかかった。
「……べらって、こんなに可愛かったっけ?」
「は?」
べらが、今度はひろを睨む。
でも、ひろは完全に恋に落ちた顔をしていた。
目がキラキラしてる。筋肉もキラキラしてる。なんかもう、眩しい。
「べら、俺と付き合ってくれ!」
「はああああああああ!?!?」
……恋の矢印が、完全にバグった。
でも、なぜか胸が高鳴っていた。
この混乱の中で、ぼくの心だけは、ひとりの女の子に向かっていた。
へれな。
君のことが、気になって仕方ない。