ぱっく登場、ラブパウダーの説明が雑すぎる件
「えへへ〜、ぼくはぱっく。妖精界の恋愛担当でしゅ。趣味は恋のすれ違いと、修羅場の観察」
……なんだこのテンション。
目の前に現れた少年――いや、妖精?――は、キラキラした粉を手に持って、満面の笑みを浮かべていた。
その笑顔、どう見てもトラブルメーカー。しかも声がやたら爽やかで、なんか腹立つ。
「このラブパウダーを使えば、誰でも一瞬で恋に落ちますよ。目が合った相手に、ね」
「いやいやいや、それ使ったらラブコメとして成立しないでしょ!?」
思わずツッコんだ。反射だった。
でもぱっくは、まったく気にしていない。むしろ楽しそうに笑ってる。
「ラブコメって、混乱してこそ面白いんですよ。三角関係? 四角関係? 最高じゃないですか」
「おまえ、絶対読者視点で動いてるだろ……」
「ちなみに、今夜は特別な夜。魔力が高まってるので、効果は倍です」
「倍って何!? ラブパウダーに倍率あるの!?」
ぱっくは、ぼくとべらを交互に見て、ニヤリと笑った。
その笑みが、なんかもう、嫌な予感しかしない。
「じゃ、さっそく使ってみましょうか」
その瞬間、粉が舞った。
風に乗って、ふわりと飛んでくる。光の粒が、ぼくの目に入った。
「……うわ、目が……」
「でみ?」
べらの声が聞こえたけど、ぼくの視線は、彼女から外れて――森の奥へと向かっていた。
そこに、いたんだ。
へれなが。
月明かりに照らされて、静かに立っていた。
スカートの裾が風に揺れて、髪がふわりと光を受けて、まるで……まるで、ヒロインの登場シーンみたいだった。
「へれな……?」
胸の奥が、きゅっと鳴った。
何かに引き寄せられるように、ぼくの心が、彼女へと傾いていくのがわかった。
ぱっくは、満足げに笑っていた。
「さあ、ラブコメの本番はここからですよ」
……いや、ほんとに始まっちゃったよ。
恋の矢印が、ぐるぐると暴れ出す――そんな夜の幕開けだった。