まなつの森、ラブコメはファンタジーへ突入する
まなつの森は、昼間でも薄暗くて、木々がざわめいていて、なんかこう……異世界感がすごい。
夜になると、さらに雰囲気が増す。
星が近くて、空気が甘くて、虫の鳴き声がBGMみたいに響いてくる。
まるで、ラブコメがファンタジーにジャンルチェンジしたみたいだった。
「でみ、こっちよ。誰にも見つからない場所があるの」
べらは、まるで森の地図を頭に入れてるかのように、迷いなく進んでいく。
さすが高飛車お嬢様、逃避行の準備も抜かりない。
リュックの中には、非常食、寝袋、虫よけスプレー、そしてなぜかキャンドルと紅茶セットまで入っていた。
「……べら、ほんとにここで暮らす気?」
「ええ。ふたりで、誰にも邪魔されずに。わたしの計画は完璧よ。テントもあるし、魔法の噂も調査済み」
魔法の噂?
「魔法って……まさか、妖精とか?」
「この森には妖精が住んでるって言われてるの。恋を操る魔法を使うって。だから、もしあなたがわたしを好きじゃなくても――」
「ちょっと待って、それ怖くない?」
べらはニヤリと笑った。
その笑顔は、ちょっとだけ怖かった。いや、かなり怖かった。
「でみ、あなたはわたしのものなの。魔法でも、現実でも、どちらでも構わないわ」
「いやいやいや、ラノベ的にそれはヒロインのセリフじゃなくてラスボスのセリフだよね!?」
そのときだった。森の奥から、何かがふわっと飛んできた。
光る粒子のようなものが、空中を漂っている。まるで蛍の群れが、魔法の演出をしているみたいだった。
「……でみ、あれって……」
「妖精……?」
そして、ふたりの前に、ひとりの少年が現れた。
耳がとがっていて、服装が完全に異世界仕様。しかも、手には怪しい粉を持っている。
「こんばんは。恋のトラブル、解決しますよ?」
彼の名前は――ぱっく。
ラブコメを混乱させるために生まれてきたような、いたずら好きの妖精だった。