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まなつのよのゆめ  作者: しぇいくすぴあ
3/10

へれな、追いかける決意と涙の予感

「でみが……べらと逃げた?」


誰かがそう言った瞬間、教室の空気が変わった気がした。

ぼくは振り返る。そこにいたのは、へれなだった。


彼女は、図書室の常連で、静かに本を読むのが好きな文学少女。

でも、ぼくは知ってる。彼女が読んでいたのは、恋愛小説ばかりだったこと。

そして、ぼくのことをずっと見ていたことも。


へれなは、手にしていたノートをぎゅっと握りしめていた。

そのノートには、ぼくの好きなもの、嫌いなもの、口癖、歩く速さ、好きな本――全部、書いてある。


彼女が、どれだけぼくを見ていたか、ぼくは知っていた。

でも、それを知ったとき、正直ちょっとだけ怖くて、でも……少しだけ嬉しかった。


「でみは、わたしのこと……見てくれてたと思ってたのに……」


へれながそう呟いたとき、ぼくは言葉を返せなかった。

彼女の瞳が、今にも涙であふれそうだったから。


でも、へれなは泣かなかった。

制服のスカートをぎゅっと握りしめて、教室を飛び出していった。


その背中を、ひろが追いかける。

「へれな! 待って!」


ひろは、ぼくの親友で、筋肉と友情に生きる熱血男子。

へれなに片思いしていることは、ぼくも知っていた。


でも、彼はいつもへれなの気持ちを尊重していた。

だからこそ、今、彼女の背中を追いかけたんだと思う。


「でみを追いかけるのか?」

ひろの問いに、へれなは少しだけうなずいた。


「……わたし、でみのことが好き。ずっと、ずっと好きだった。だから、行く。行って、ちゃんと伝えるの。魔法とか、婚約とか、そんなの関係ない。わたしの気持ちは、本物だから」


その言葉を聞いたとき、ぼくの胸が少しだけ痛んだ。

へれなの気持ちを、ちゃんと受け止めていなかったことに、気づいたから。


ひろはしばらく黙っていたけど、やがて少しだけ笑って言った。

「じゃあ、俺も行くよ。でみのことも、へれなのことも、ちゃんと見届けたいから」


へれなは驚いた顔をしたけど、すぐに笑った。

その笑顔は、少しだけ泣きそうで、でも確かに強かった。


こうして、ふたりはぼくを追って、まなつの森へ向かった。

恋の矢印が、さらにぐるぐると暴れ出す予感を抱えながら――。

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