魔法じゃなくて、あなたの気持ちがほしい
「でみ……わたしのこと、好きって言ってくれたよね?」
へれなの声が、夜の森にふわりと溶けた。
静かなのに、心臓をぎゅっと掴まれるような強さがあった。
ぼくは思わず息を呑んだ。
星の光が彼女の瞳に反射して、まるで魔法みたいに揺れていた。
「もちろんだよ、へれな。君のことしか――」
「それ、また言った」
えっ。ぼくの言葉は、彼女の一言で見事に撃沈。
心がざわついた。なんで? 今の、ダメだった?
「……でみ、わたし、ずっとあなたのこと見てた。教室の隅から、廊下の向こうから、図書室の窓越しから。あなたが笑った日も、落ち込んでた日も、寝癖がひどかった日も。ぜんぶ、覚えてる」
うそでしょ。寝癖の日まで!?
ぼくの顔、たぶん今、トマトより赤い。
「でも、今のあなたは、わたしを見てるようで、見てない。目は合ってるのに、心が遠いの。まるで、誰かに操られてるみたい」
その言葉に、ぼくは何も言えなかった。
彼女の瞳に浮かんだ涙は、悲しみだけじゃなかった。怒ってる? いや、願ってる?
いやいや、希望まで混ざってるって、感情のフルコースかよ。
「わたしが欲しいのは、魔法で作られた“好き”じゃない。あなたの心から出た“好き”なの。だから、お願い。魔法に負けないで。わたしのこと、本当に好きになってくれるなら、それはあなた自身の気持ちであってほしい」
ぼくは拳を握った。へれなの言葉が、胸の奥にズドンと突き刺さった。
魔法なんかに頼ってた自分が、急に情けなくなった。
「……わかった。ぼく、証明するよ。魔法じゃなくて、ぼく自身の気持ちで、君を好きになる」
へれなは、涙をこぼしながら笑った。その笑顔は、星よりも、魔法よりも、何よりも綺麗だった。