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不幸を運んだ花嫁

初投稿です。お目汚し失礼します。


「ああ、やっと着いたのね。」


馬車から降りて、メリッサはほっと息をついた。

およそ三年ぶりに訪れた王都の屋敷。

メリッサの家の領地からは、馬車と鉄道を乗り継いでも半月ほどかかる。

脚の悪いメリッサにはとても長い旅だ。


「お帰り、メリッサ。疲れただろう?」


出迎えてくれたのは、兄のエドワード。栗色の髪の毛と翠の目がメリッサそっくりで、違うのは身長と髪の長さだけ。幼い頃は、よく二人で対になる服を着て写真を撮られていた。


「ただいま帰りましたわ、お兄様。

久々の旅ですもの、目新しいものばかりで、疲れよりも楽しみが勝ちましたの。」


「そうか、それは良かった。

うん、部屋はすぐに休めるようにしているし、積もる話は明日にしようか。」


気を遣わせまいと発言したが、メリッサの疲労は兄にはお見通しのようだった。


「では、お言葉に甘えるわ。

実は、一度横になったら、夕食に起きられる自信がなかったの。」


「やっぱり、メリッサが無理をして移動する必要はなかったのに。マリーだって、君を心配していただろう。」


メリッサは、領地へ帰ったエドワードの妻、マリエッタと入れ違うようにして領地を発ってきていた。


「私が、たまには王都に来てみたかったのよ、お兄様。」


「せめて、マリーのように飛行船を手配させてくれれば。時間は半分だし、専属の医者も乗務するだろう。」


エドワードはなんてことのないように言うが、飛行船に乗るには、十倍ほどの費用がかかるし、お金を出せば乗れるというものでもない。


「妊娠中のお義姉さまはともかく、私は少し休めば平気だもの。必要ないわ。

おやすみなさい、お兄様。」


「まったく、誰に似てそんなに頑固なんだ。明日の朝も、無理して起きる必要はないからね。ゆっくりおやすみ。」


相変わらず、この兄はメリッサに甘い。

本当は、マリエッタと共に領地へ帰ってもいいはずなのに、久々に王都へ来るメリッサを心配して、わざわざ残って出迎えてくれたのだ。


兄の心配も、わからないではない。

この王都で、メリッサの評判はけして良いものではないのだから。


『不幸を運んだ花嫁』


それが世間でのメリッサの通り名である。

片田舎の子爵家に生まれたメリッサは、それなりの政略を持って王都の伯爵子息と婚約し、ほどほどの交流を持って結婚した。

ごく平凡な貴族令嬢だったのだ。


その結婚式の、教会から伯爵家へ向かう道で、馬が暴走するまでは。


馬車から放り出され、よく舗装された石畳に打ち付けられた新郎新婦。

メリッサの脚には微かな麻痺が残り、打ち所が悪かった新郎は、メリッサが意識を取り戻す前に、息を引き取った。


そして、メリッサが目を覚ました時には、すべての不幸がメリッサのせいになっていた。


馬車も、御者も、馬だって、伯爵家のもの。なんなら、屋敷への道を整備したのだって伯爵家だったが、いつもの馬車に、いつもの御者、いつも何の問題もなかったはずの道。いつもと違ったのは、メリッサがいたかどうかだけ。


噂話は、おもしろ可笑しくメリッサを悪女に仕立て上げた。


急に、怪我をして、夫になったはずの人を失くし、世間からは好奇の目線を向けられた。

メリッサは、呆然としたまま、夫の葬儀に出ることもなく、実家の領地におくり返されて、そのまま今日までを過ごして来たのである。


悪評のついた小姑が、嫁に行って微か一日で戻ってくるなんて、義姉にしても面白くない話だっただろうが、マリエッタは一度も嫌な顔をすることなく、メリッサを受け入れてくれた。領地にいるときは何かとメリッサを連れ出して、明るい話題を振り、王都からは、まめに手紙を寄越してメリッサの暇を慰めた。


そのマリエッタが、出産のために領地で過ごすことになり、メリッサは王都にやって来たのだ。

家族は義姉を含めて誰も、メリッサが婚家を不幸にしたなどとは思っていないが、初産のマリエッタの不安を少しでも減らしたかったメリッサが、自分から王都行きを言い出したのだった。


「無事に子どもが生まれたら、家を離れようかしら。

疫病神の叔母なんて、きっと子どもの成長によくないもの。

ああ、でも、一度くらいは抱っこしてもいいかしら?エド兄様に似たら、きっと私にも似ているもの。

それとも、会わない方がいいかしら……。なにかあってはいけないものね。」


それからメリッサは、再び王都で暮らし始めた。

兄がいる間は、何度か観劇や演奏会へ出掛けたが、度々、噂を知る人たちの目線に晒されることになった。

メリッサを見た人が、

「あの『不幸の花嫁』が王都に帰ってきた!

次の犠牲はいったい誰か!?」

なんて噂を流し、それを聞いた人が、噂の女を見てみよう、なんて、おもしろ半分でメリッサへ招待状を出したり、突然屋敷を訪ねたりしたのだった。

幸い、兄と優秀な使用人たちのお陰で、そういった者とメリッサが直接関わることはほとんどなく、二月経つ頃には兄を領地に送り出すことが出来た。

兄が領地へ向かってからは、ほとんど屋敷に引きこもる日が続いていた。


そんな平穏だが、どこか陰鬱な日々が崩れたのは、メリッサが王都に来て、三月が経つころだった。


読んでくださりありがとうございます。

慣れない点も多いかと思いますが、ご容赦ください。

誤字脱字はこっそり教えていただけると助かります。

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