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第21話 獣人村の村長は見た!二人の力

 あの夕暮れ時のことは、今も脳裏に焼き付いて離れぬ。


 森の狭間に佇む我らの獣人の村に、二人の人間が現れた。ひとりは金の髪をなびかせ、貴族めいた服に身を包んだ、どこか芝居がかった口調の男。もうひとりは、桃色の髪を持つ少女で、腰には剣。だが、その肢体には尋常ならざる光が宿っていた。


 右腕には金龍の加護、左足には銀狼の力――精霊の気配が、はっきりと目に見える形でまとわりついていた。


 ……はじめは、彼らを村に入れる気などなかった。今の世の中、人間という種族に、我ら獣人がどれだけ苦しめられてきたか。四国の国境に近いこの黒魔の森で、我らがひっそりと生きてこられたのも、偏見と迫害から逃れてのことだった。


 しかし、あの少女――エリーゼ=アルセリア、そう名乗ったか――彼女を目にした瞬間、私は言葉を失った。


 かつて伝承で聞いたことがある。


 金に輝く龍の腕を持つ者は、災厄の時に森を守る者として現れる。銀狼の足を授かる者は、闇を裂き真実を歩む者――


 まさか本当に現れようとは。伝説の存在など、ただの夢物語だと思っていた。


 最初は、気の迷いかとも思った。だが、彼女の目を見たとき、悟った。


 ――この少女は、戦う者の目をしている。


 それは、強さや残酷さとは違う。生きるために、誰かのために剣を抜く者のまなざしだった。


 そして、傍らの金髪の青年――アリスターというらしい――この男のほうは、正直なところ、最初は信用しがたかった。軽薄で、やたら自信満々。どうにも胡散臭い。


 だが、それも表面だけだった。夕食の席で、村の子どもが転んで泣いたとき、アリスターは誰より早く駆け寄り、さりげなく治癒魔法を施していた。子どもが泣き止んだあとも、特に自慢するでもなく、「おーい、料理まだー?」と笑っていた。


 ああ、これは“演じている”のだと気づいた。


 彼は、強くて明るくて何でもできる男――そんな役を、自分に課している。あの少女の隣に立つには、それが必要だと思っているのだろう。


 だから私は、頼んだのだ。森の奥に現れたバジリスクの討伐を。


 本来ならば、外部の者にそんな危険な仕事を頼むべきではない。だが、我らの狩人たちではどうにも歯が立たず、村の存続すら危ぶまれていた。二人が本当に伝承に語られる“災厄を祓う者”であるならば――この危機を打ち払えるはずだと、賭けた。


 翌朝、彼らは言葉少なに村を出て行った。少女は静かに、だが自信を持って歩いていた。青年は、ひらひらと手を振りながらも、その背筋は真っ直ぐだった。


 ……そして、その日の日没前には、彼らは戻ってきた。


 ――無傷で。


 信じられなかった。バジリスクという、魔眼と硬質鱗を持つ魔獣を相手に、あの若さで、あの人数で、戻ってこられるなど。


 討伐したバジリスクをドンと村の中心にある集会所に取り出した、それを見て、村人たちは驚きと共に歓声を上げた。狩りが再開できる、薬草を取りに森に入れる、水場も安全に使える。村に活気が戻る。命が、日常が、繋がった。


 私は彼らに礼を述べた。何度も、何度も。


 だが、アリスターは肩をすくめて言った。


「村でちゃんと寝られて、ご飯も美味しかったし。お代はそれでいいよ?」


 エリーゼは笑って、「わたしも、誰かの役に立てて嬉しい」と言った。


 まるで、当然のように。討伐したバジリスクをそのまま村に寄付してくれたのだ。


 彼らは、自分の力を誇ることもなく、恩を売ることもせず、ただ旅人として、必要とされたことを成して去っていった。


 その夜、焚き火の前で、私は古い言い伝えを思い返していた。


 “東の空に金の閃き、南風に銀の轟き。古き魂、若き姿に宿りて、災厄を断つ者来たる”


 エリーゼとアリスター。彼らは、きっとまだすべての力を出してはいなかった。むしろ、その力の本質をまだ自分たちも知らぬのではないかと思えるほど、どこか未完成で、それゆえにまぶしい。


 だが、間違いなく、彼らは“選ばれし者”だ。


 私は、あの時の出会いを、忘れはしない。


 そして願わくば、彼らの旅路に、幸多からんことを――

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