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第18話 アリスターの弟ユリウス・テオドリックの回想

 アリスターの弟、ユリウス・テオドリックの回想



 玉座の間に響いた王の宣告を聞きながら、ユリウス・テオドリックはその場に立ち尽くす兄の姿を見据えていた。兄アリスター──かつて、自分にとって越えられぬ壁であり続けた存在。


(ようやく……ようやく、この時が来た)


 唇の裏に浮かぶ笑みを、彼は必死に押し殺した。


 兄アリスターは、すべてにおいて優れていた。剣技、学問、そして何よりも周囲を惹きつける華やかさ。幼少の頃から、どれだけ努力しても追いつけないという現実が、ユリウスの心に深く影を落とし続けていた。


 父王の視線は、常に兄に注がれていた。母后(ははきさき)はユリウスを優しく抱きしめてくれたが、その瞳にはどこか哀れみの色が滲んでいた。妹のルシアは、兄に懐いていた。


「兄上のようになれなくても、お前にはお前の良さがある」


 そう言われるたびに、胸が苦しくなった。──兄のようにはなれない。それは、彼が王となるに足る器ではないということと、同義だった。


 アリスターが貴族たちの称賛を集め、次期国王としての道を歩む一方で、ユリウスはただその後ろを追い、影となるだけの存在だった。


(どれだけ、どれだけ兄上に……劣等感を抱いてきたことか)


 冷たい玉座の間の空気とは裏腹に、ユリウスの心の中では、長年燻って(くすぶって)いた嫉妬と憎悪が燃え盛っていた。


 アイラとの婚約も、その象徴だった。ランヴェール家の令嬢──王妃候補としてふさわしく、容姿・教養ともに非の打ちどころのない女。そんな彼女に、ユリウスは心を奪われたこともある。


 だがアイラはアリスターを選び、そしてそのことすら当然のように受け入れられた。


(なぜだ。なぜ、何もかも兄上が手に入れる)


 ユリウスは、知らず拳を握り締めていた。


 だからこそ──彼は決意したのだ。兄の地位を奪い、そのすべてを覆すことを。


 時間をかけて根回しをし、アリスターの周囲の貴族たちを取り込み、証言を操作し、アイラに言葉を吹き込んだ。彼女は思った以上に従順で、かつ演技にも長けていた。──いや、それとも彼女自身にも、アリスターに対する不満や打算があったのかもしれない。


 何にせよ、すべては計画通りだった。あとは、兄が玉座の間で沈みゆくのを見届けるだけだ。


「……王位継承権を剥奪し、国外追放とする」


 父王の冷厳なる言葉に、玉座の間がざわめいた。


 ユリウスは、その様子を冷ややかな眼差しで眺める。


(これで、ようやく俺の時代が始まる)


 だが、そんな彼の心に、ふと刺すような痛みが走った。


 兄が玉座の間を去ろうとした、その背中──あの背中を、自分は幼いころから見続けてきた。


 憧れと、嫉妬と、そして劣等感。


 それらすべてが、今になって胸を締めつけてくる。


(……なぜ、まだこんな気持ちになる?)


 彼は自問する。


 自分は勝ったはずだ。兄を貶め(おとし)、追放し、道を切り開いた。それなのに、なぜ心が晴れない。


 その答えに気づくのは、もう少し先のことになるだろう。


 ──アリスター・テオドリックが、真に「脅威」となるその日までは。

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