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姫と騎士  作者: 山梨 雪香
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4.ロホール平野にて

私たちがいつも魔法の練習をしているのはルべウス領南東に位置するロホール平野だ。

私の家から魔道馬車でも丸1日以上かかってしまう。普通の馬車なら5日はかかるだろう。

魔道馬車は貴族とつながりのある大富豪しか所持していない。

貴族でも持っている家は少ないくらい高価なのだ。

お父様は商会用の魔道馬車を2台、我が家の自宅用に1台持っている。

しかし、そんな場所でも転移魔法が使えれば一瞬でついてしまう。

転移魔法は皇室と七大公爵家の直系のみが行使できるそうだ。


「リア、前回やった水魔法の応用で今日は氷魔法をやってみようか。リアは炎系の魔法の方が得意でそちらばかり練習するだろう?だから、私といる時は炎系以外の魔法を練習しようね。」


「小父様、私は氷よりもこの前習った水魔法と、炎魔法を組み合わせて応用したものを教えてほしいわ。あれから魔法理論に基づいていろいろ考えてみたの!お願い小父様‼」


「うーん、ダメ。今日は氷魔法。」


「えー、お願いよ小父様ぁ。だって小父様、昔は3日に1度くらいの頻度で会いに来てくれていたのに最近は半年に1度来てくれるかどうかじゃないッ!」


「私だってできることなら毎日リアに会いたいさ。なんならリア、うちの子になるかい?あのつまらない屋敷にリアが来てくれるだけできっと華やぐ。」


「もうっ!冗談はよして。昔、私が何度小父様の娘になるって言っても叶えてくれなかったじゃない。それに商人の娘が七大公爵家の、しかもルべウス家当主の娘になれるわけがないでしょう。良くて愛人ね。」


「リア、何を言っているんだい。君が私に会うたびに言っていたのは「娘になりたい」ではなくて、私の「お嫁さんになる」だったではないか。お願いを通り越してあれは拒否を許さない宣言だった。しかも、幼い君はお嫁さんにしてくれないなら家出すると言って、トールを連れて家を抜け出そうとするたびにヴァーリに見つかって庭でつかまっていたではないか。そして、8歳を過ぎた頃、あれほど私の嫁になると言っていたのにあっさりトールに乗り換えた。あれはショックだったよ、君の父君に止められなければトールを殺していた。」


「ルべウス様のおっしゃる通り殺されはしませんでしたが、あれ以来、いろんな方々に向けられていたこまごまとした嫌がらせや嫌味が私に一極集中しましたね。死ななければ問題ないとでもいうかの勢いでした。」


トールが呆れた目をしながら会話に入ってきた。私はそんなことになっていたなんて露とも知らず驚きに唖然としてしまった。全く気付かなかった小父様、幼稚すぎる。


「ふんっ、あの頃も今も其方はリアの護衛として未熟すぎる。多少ケガを負って休んだところでリアは困らぬ。それに、平民の街にいる限りならば護衛はヴァーリ1人でも事足りるし、リアには常に私の影を付けているので問題ない。」


私は小父様のその言葉にヒュッと息をのんだ。


「小父様、影ってもしかしなくてもルべウス家お抱えの、帝国きっての最強暗殺集団ではなくて?」


「そうだよ~。」


リアの側に私がいられないのだから当然だよね。と、小父様はニコニコして当然のことのように言う。


「あれは、噂ではないの?本当にそんな集団が実在しているの?」


「いるいる~。」


ルべウス家当主に絶対の忠誠を誓い、何を犠牲にしても必ず任務を遂行する。彼ら個々人の身体能力、知能、魔力共に一旅団にも相当するとも言われている。最も恐ろしい点は、どんなに優れた戦士でも彼らを暗殺者だと見抜けないところだ。彼ら組織の人数、年齢、男女比、拠点すべてが謎に包まれている。この噂も恐らくルべウス家の者が他家を牽制する為に意図的に流したものだろう。そうでなければ彼らの存在自体、闇に秘されていた。しかも、噂はあくまで噂であり、当主しか本当のところはわからないそうだ。


そんなとんでもないものが、ただの商人の娘である私に付けられていたなんて・・・。私は確かに平民ではめったに生まれてこない魔法使いだが魔力量も平凡で、いくらお父様が大商人だとしても7大公爵家からしてみたら赤子のようなものだし、私自身もこれと言った特徴のない娘だ。ルべウス小父様はやはり何処か頭がおかしいに違いない。


「小父様、前から思っていたのだけれど何故私にそれほど良くしてくださるの?私は、自分のことを卑下するわけではないけれど、客観的に見て7大公爵家当主がそこまで構うような人間ではないわ。それとも、私が知らない何かがあるの?」


私は常々感じていた違和感を小父様にぶつけた。

小父様の少しの変化も見落とさないようにじっと見つめる。


「何を言っているんだい。リアは私の可愛いお姫様なんだからこのくらい当然だ。」


小父様はいつもの微笑で私の欲しい返答はくれない。


「小父様・・・。」


私は自分では成長しているつもりでも小父様の目にはまだまだ自分は子供としてしか映っていない事実に歯がゆくなり唇をかむ。


「リア・・・・・。わかった、わかったよ。確かに君に伝えていないことがある。ただ、まだその時ではないのだ。」


「ならいつがその時なの?」


私は小父様に詰め寄った。すると小父様は私の肩を軽く押して少し距離をとった。


「そうだね、君が立派な淑女になったときには必ず伝えよう。」


「あら、私はもう立派な淑女よ?」


「ふふふっ、トールが、血のつながらない男が、寝室まで入ってくることを許されている女性は果たして淑女だろうか?成人した大人の男に肌が触れそうなほど近づくのは?」


「うっ・・・。わかったわ、小父様が認める立派な淑女になって見せます。トール、今日から私の寝室に入ってこないで。小父様も、私を抱きしめてこないでくださいませ。」


そういうと私はツーンとそっぽを向いた。思わず、ヴァーリと目が合うと彼は何も言わずただ微笑ましいもの見る目で私を見ていた。トールを盗み見るとやれやれと少し呆れた顔をしていた。失礼ね。


「おや、これは少し早まったようだ。リアを抱きしめてはいけないなんて。」


小父様は眉を寄せ辛そうな表情で顔を俯かせながら悲しそうな声でそういった。どうにも芝居がかっている。


「あぁ、本当に辛いがリアのお願いだからしょうがない。私からは抱きしめないが、リアが抱き着きたくなったらいつでもおいで。私の胸はリアの為にあるのだから。」


「もうっ!いい加減にしてくださいませ。私は立派な淑女になるのです。小父様の誘惑には負けませんわ。だいたい、小父様もいい加減、愛する人を奥方を迎えたらいいのよ!」


私は怒った顔をして小父様を睨みつけた。私は知っているのだ。実は小父様には思い人がいることを。けど、小父様はその人について頑なに話そうとしないから、これまであえて触れずにいたのだ。


「ははっ、そうなることもを私も願っているよ。」


そういう小父様の瞳がさみしそうに揺らいで見えて、それ以上は何も言えなかった。

しかし、それも一瞬のことで、小父様は何よりも愛おしいもの見る瞳で私を優しく見つめると、少しいたずらっ子ような顔をしていった。


「それでは立派な淑女見習いのリア、淑女たるもの隙を見せないように満遍なくすべてのことができるように努力しなければならない。何が言いたいかわかるね?」


私はそっとため息をつき、挑むように小父様を見上げた。


「小父様、私、なんだか氷魔法を習いたい気分になってしまったの。帝国最高の魔法使いの1人である小父様にぜひ教えを請いたいのだけれどいかがかしら?」


「喜んで。......私の希望の子。」


「え?ごめんなさい。小父様、何ておっしゃったの?最後の方が聞き取れなくて......。」


「ははっ、私の可愛いお姫様と言ったんだよ。」


「もうっ、そうやって子ども扱いして。」


私はその時、拗ねてそっぽを向いていたため気づかなかった。

トールの険しい顔も、それを冷ややかに見つめる小父様の姿も。

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