第3話 ゲームの世界で殺されてみた(二回目)
「う……嘘だろ!? なあおい! 出してくれよ! 俺は勇者だってば!」
あれよあれよという間に捕まってしまった俺は、町の地下にある牢屋に放り込まれた。
鉄格子を挟んだ向こうでは、筋肉ムキムキの屈曲な男を両脇に従えた老婆がゴミを見るような目で俺を見ている。その後ろにいる町の人たちも、蔑むような目をしていた。どうやら俺は毛ほども信用してもらえないらしい。くそ! お前たちを作ったの、俺だってのに!
「フン! そんな奇怪な恰好した勇者がいるわけないじゃろう!」
「本物の勇者様はもっとかっこいいんだぞ!」
「そもそも鎧にスニーカーって……どんなセンスしてるのかしらね」
「うるせえ! 素材が見つからなかったんだよ!」
「まっ! なんて口の悪い! やっぱり魔王の手下は野蛮だわ!」
「お前らの悪口の方がよっぽど酷いだろ!? 俺は普通の人よりナイーブなんだからな!?」
「ナイーブなやつがこんな目立つ鎧を着るわけないだろ!」
「だからこそゲームの中ではかっこよくなりたかったんだよお……」
「ごちゃごちゃうるさいやつじゃのう……。少し弱るまでここに閉じ込めておくとしよう」
「婆様の言う通りだな。さあみんな、行くぞ」
男の声を皮切りに、町の人たちがぞろぞろと地下牢を出ていく。重い石の扉がギギギ……と音を立てて閉まると、辺りは真っ暗になってしまった。
「くっそー……。あいつら絶対許さねえ。元の世界に戻ったら町の住人のデータ全部差し変えてやる」
誰もいない暗闇に向かってそうぼやいて、ふと気付く。
「……俺、これどうやって戻るんだ? ……あ、そうだ! こういうときこそ天の声! おーい! 俺を元の世界に返してくれー!」
天を仰ぎながらそう叫ぶ。が、俺の声は地下牢に虚しく響くだけだった。肝心なときに限って、天の助けは得られないらしい。
じわ……と背中に嫌な汗がにじむ。
よく考えろ……思い出せ……前回はブタにやられて元の世界に戻った。多分こっちの世界で死なないと、俺は元の世界に帰れない。
そしてここにブタはいない。そもそもステータスを上げた俺は、ブタ程度の突進じゃ死ねない身体になってしまった。
今俺に残された道は……まさか……
「……餓死?」
いや、その前に人間は水が無いと5日程度で死んでしまうはず。
嘘だろ……? そんなむごい死に方って……
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「水が美味い! 飯も美味い!! 生きる喜びを! 今俺は実感している!」
無事──いや、厳密には精神的なダメージを負ったのだけれど──元の世界に帰って来た俺は、精神的には約三日ぶりになる水と飯を堪能していた。
三日間、飢えと渇きに耐えるのはなかなかの苦行だったが、その三日で考えたことがいくつかある。
まずはあっちの世界とこっちの世界のこと。ややこしいからゲーム世界と現実世界って呼ぼう。
ひとつは、俺がゲーム世界に行ってる間、現実世界は時間が止まっているらしい。日付は三日前のままだ。
それから、ゲーム世界で負ったダメージは、現実世界へ帰るときにかなり軽減される。おかげで、衰弱死したはずなのに少し腹が減って喉が渇いた程度で済んだ。
次に、これから俺があのゲームをどうするべきか。
ひとつは、主人公の初期装備を元に戻すこと。魔王の手下だと思われちゃ敵わん。
もうひとつは、主人公の初期レベルをもう少し下げること。あまりにも強すぎると、万が一の時にこっちの世界へ戻ってこられなくなる。それは困る。ずるはよくないってことだな。
あとは、足装備の素材をもう少し探すこと。……いや、別にセンス無いとか言われたの、気にしてねえし。
そして最後! これが一番重要! あの町をもっと小さくして! 砦も消して! 人口も減らして! もしも魔王に襲われたら一瞬で滅びるような村にしてやる! わはははははは! 創造神様を衰弱死させた罪は重いからな! 覚悟しろよ! …………いや、でも滅ぼされるのはかわいそうか。前のマップに戻す程度にしとこ。
「さてと……。飯食ったら早速ゲーム編集するか。あっちで言葉通り死ぬほど寝たからすげえ元気だし」
こうして俺の、二度目の異世界転生は幕を閉じた。
それでも俺は、ゲームの編集をやめることができない。
なぜなら俺は、異世界転生で最強無双してちやほやされたいから……! そして装備(特に足元)がかっこいいって言われたいから……!