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第1話 ゲームの世界に入ってみた


「あーもー! なんでエラー吐くんだよ!」



 目の前で煌々と光るパソコンの画面を眺めながら、俺は盛大に溜息を吐いた。

 もう何度目にしたかわからないエラー画面。もうトラウマになりそうだ。



「今回のエラーは……、なんだよ"Error df-jbn48fw"って……。見たことねえぞ……」



 検索エンジンで"Error df-jbn48fw"と検索する。が、このエラーコードと完全に一致する結果は出なかった。



「おいおい……解説サイトにも載ってないんじゃどうにもならねえだろ……」



 はあ……ともう一度大きな溜息を吐いて、床の上にゴロンと横になる。

 熱くなった頭に、フローリングのひんやりとした温度が気持ちいい。



「やっぱ俺には無理だったのかなー。ゲーム作るなんて」



 小さい頃からゲームが好きだった。そのゲーム好きが高じて手を出したのがゲーム作りだった。

 だけど蓋を開けてみれば、やれプログラミングだの、やれ変数の設定だの、プラグインだのなんだの、ゲーム制作のゲの字も知らない俺にはあまりにも難易度が高すぎた。ゲームで言えば鬼畜ゲーを縛りプレイしているのと同じだ。

 それでもいろんな解説サイトや文献を読み漁り、なんとか完成まで漕ぎつけたのが『天と地と、そして海と』。この俺、天地海あまちかいの処女作だ。タイトルには、創造神である俺の名前を入れてある。

 一年後の就活で俺のエントリーシートを見た超大手のゲーム会社の偉い人が「こ……この名前は『天と地と、そして海と』を作った……!?」となることを見越していた。


 ……そう、見越していたのだ。

 起き上がって、もう一度画面をじっと見る。目の前には、見たことも聞いたこともないエラーコード。

 それがいくら神ゲーだとしても、バグでプレイできなきゃ意味がない。しかもバグのせいで途中までしかプレイできないから、その先が上手く行っているかもわからない。……ちょっと考えるの嫌になってきた。



「まあいいや、今日は夜通しゲームでもするか。明日大学休みだし」



 エラーコードも先のことも一旦諦めて、最近ハマっているPCゲーを起動する。

 こういう時は敵をザクザク倒せるアクションRPGに限る。バッタバッタと敵を倒していく爽快感。最高だ。



「バグもこんな風にサクサクっと倒せたらいいんだけどなー。これ、多分ゲーム制作者の9割が思ってるだろ」



 ……俺、今ゲーム制作者っぽいこと言ってねえ!?

 俺も"プロ"に一歩近づいたってことか。フッ。


 そんなことを思いながら現れたモンスターを切り伏せると、突然画面が真っ白に光った。



「は!? なんだこれ! こんな演出あったか!?」



 慌ててゲームを閉じようとするも、画面が切り替わる様子はない。それどころか、光のまぶしさが増すばかりだ。



「ど、どうする……!? そうだ! パソコン閉じれば……!」



 幸いなことに、俺のパソコンはノートパソコンだ。画面を閉じて充電が無くなるまで放置しておけばいい。

 そう考えてパソコンの画面に手を触れた瞬間、一気に目の前が真っ白になった。





 ──────────────────────────────




「…………は? ここどこ?」



 目を開けて最初に見えたのは、広大な大地だった。

 突然の出来事に頭が追い付かない。冷静に考えろ。俺はさっきまで自分の部屋にいたはずだ。しかも真夜中。そのうえ一人でゲームをしていた。

 なのになんだこれは。頭上には真っ青な空が広がってるし、左手にはこれまた真っ青な海が広がっている。目の前には木が一ヶ所に密集して生えていて、後ろには小さい家が三軒まばらに建っていた。まるで安っぽいゲームの世界に入り込んだみたいだ。



「夢、か……?」



 もしも夢ならどこからが夢だ?

 あの意味不明なエラーコードが出たときか? それともゲームを始めたときか?


 いや、夢にしては俺に意思がありすぎる。夢ってもっとこう……ふわっとしてて俺の意思に関係なく進むというか……。

 とにかくこれは夢じゃない。そんな気がする。


 ならこれは……かの有名な異世界転生……!? ……いや、別に俺、元の世界で死んでないから異世界転移か。

 それならあの光り出したパソコンも、どこだかわからないこの場所に自分がいるのも納得がいく。


 いや、でも異世界転移なら、綺麗な女神様が出てきて『あなたにギフトを授けます……』とかなんとか言って、すげえ能力くれたりするんじゃないのか……?



「おーい! 女神様ー! 俺にギフトくれないんですかー!?」



 周囲に人がいないことを十分に確認した後、天に向かってそう叫ぶ。……が、俺の呼びかけに応える声は聞こえてこない。

 おかしい。異世界転移ならチート能力で無双できるはずなのに……。こっちから女神様に出向かなきゃいけないシステムか……?



「……とりあえずあの町行ってみるか。このままここにいるわけにもいかねえし」



 どっこいしょと立ち上がる。よく見れば、着ている服も変わっていた。……なんか見覚えある服だな。

 あの町、女神様がいてくれればいいけどなあ……。





 ──────────────────────────────





「おお……、あなたが勇者様……!」

「お助けくだされ、勇者様……。悪の魔王が目覚めてしまい、我々に残された時間はもう少ないのですじゃ……」

「この世界を救うには、天と地と海の精霊を呼び覚まし、精霊の力を借りて魔王を倒す他ありません……!」

「お願いします! 勇者様!」


「ちょっと待てえい!」



 なんだよこの展開! 俺の作ったゲームそのものじゃねえか! どうも見覚えある服だと思ったよ! これフリー素材で見つけてきた主人公の服だわ! ってことは俺、自分のゲームの主人公に転移しちまったわけ!?

 しかも俺、さっき自分で自分のゲームのこと"安っぽい"とか言っちまった……。自分じゃ神ゲーだと思ってたのに……。



「まずは北の森へ向かうのです! あそこには森の妖精が住んでおります! そこで地の精霊のことについて教えてもらうといいでしょう!」

「『いいでしょう』じゃないんだっつの! 俺の話を聞けって! つーか妖精だったり精霊だったりわかりづれえな! あと導入が唐突すぎる! 俺のゲームって客観的に見たらこんなにクソゲーなの!?」

「おねぎあしますのじゃ、勇者様……」

「わー! ここ誤字ってるし!」


「お願いします! 勇者様!」

「お願いします! 勇者様!」

「お願いします! 勇者様!」

「おねぎあします! 勇者様!」

「ああもう! みんな同じことしか言わないNPCになっちゃったよ! あと誤字やめて! 恥ずかしい!」



 いくらゲーム作りに慣れてない頃に作った部分とはいえ、これを神ゲーだと思ってた自分はなんと愚かなことか。顔を手で覆ってごろごろ転げ回りたい気分だ。



「お願いします! 勇者様!」

「わかったわかった! わかったから! 行きゃいいんだろ!?」



 これ以上ここにいると、お願いします勇者様botたちの声で頭が痛くなりそうだ。そうなる前にさっさと森へ行こう。自分で作ったゲームだ。さすがに森の位置くらいはわかる。

 歩き始めた俺の頭に、ふとひとつのことが浮かんだ。



「あの森で妖精に会うイベントでエラー起きたんだよな……」



 あのエラーはどうなるのか。そもそも俺は、元の世界に戻ることはできるのか。

 さっきは自分のゲームへの突っ込みでそこまで頭が回らなかったけど、一人になった途端考えても仕方のないことばかり頭に浮かぶ。



「……そういえば、森の入り口に宝箱設置したんだっけ」



 胸の奥に浮かんだ不安を拭うようにそう呟く。森の入り口はすぐそこだ。たしか手前の木の陰に置いたはず……。

 そう思い、木の陰を覗き込む。と、目に入ったのは一匹のブタだった。



「ぶ……ブタ!? なんでこんなところに……? 俺、こんなイベント作ってねえぞ……!?」



 覚えの無いブタとの遭遇にたじろぐも、その後ろに見えた宝箱に安堵の息を漏らす。



「悪い。ちょっとその宝箱、開けさせてもらうな」



 人語を理解しないのはわかっていても話しかけるのってなんでだろうな。道行く野良猫にもつい話しかけちゃうし。

 そんなことを考えながら野良ブタの前を横切ろうとした瞬間、突然俺の腹に衝撃が走った。

 身体の内側が潰れるような感覚。あまりに突然の衝撃でブレる視界の端に見えたピンク色の物体。



 なるほど……俺は理解した。いや、理解させられた……。

 この世界において、俺は捕食者でしかない。俺はブタ以下の存在だ。


 そう俺は……


 (ブタ)は……弱い……





『ゲームオーバーです』





 無機質な声が頭に響く。

 俺の意識はそこで途絶えた。



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