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おっさん、掛け金を釣り上げる


 三体のレッドドラゴンが森を焼いていく。

 生態系などお構いなし、目に映るものすべてが敵であるかのように暴れまわる。


 ここまでくると災害だな。


「げえ、何!? 何これ!!」


 馬車から降りたフェリが驚嘆した。

 アリアとタルトに至っては絶句している。


 いつもの反応だが、今回は無理もない。

 ダンジョンの深奥に出てくるようなやつが三体まとめて現れたのだ。


 今やアッシュウッドの森は赤熱し、そこかしこに炎が燃え盛っている。

 生態系が壊れるのも時間の問題だろう。

 

 当然、森だけでは済まないので放っておけばベリア領は滅ぶ。

 

「はい、今日はーレッドドラゴンを三体倒してみようと思いまーす。せっかくなんで、もう少し人が集まってから始めたいので少し雑談でも……」


「は? 雑談? この状況で?」


 フェリが混乱しているがどうでもいい。


 俺は縦横無尽に暴れまわるレッドドラゴンを背景に、穏やかに配信を続ける。


 目玉焼きを焼く時水を少量入れて蒸し焼きにするとうまいなどといった。どうでもいいことを話し続ける。


 配信に気づいたのだろう。

 同時接続数がみるみるうちに増えていく。


「ナナシが慌ててないってことは、大丈夫なやつなのか……?」


 フェリは納得したようだが、実はあまり大丈夫ではない。


 今回の場合、単にレッドドラゴンを倒せばいいわけではないのだ。


 ここでグランツ王が俺とバクスターを殺すためにレッドドラゴンを召喚したということは、ここを切り抜けても第二第三の刺客が災害級のアーティファクトを持って不意打ちを仕掛けてくる可能性があるということだ。


 俺だけなら生き残れるだろうが、俺に関わる冒険者たち。

 フェリたちは無事では済まない。


 なのでこちらが詰まされるより先にグランツ王を詰めねばならない。


 その上で、俺はグランツ王と敵対する姿勢をみせるわけにはいかない。

 たとえレッドドラゴンをけしかけられても。


「お、まじょパンさんいらっしゃい。技術者どわっふっさんお久しぶりですー」


”ちょ、は? これ大丈夫なのか!?“

”完全に災害じゃん!“

”もうこれベリア領から逃げた方がよくないか!?“

”なんで平気で配信してんだよ!“

”ナナシ! やっちまえ!! お前ならできる!!“


 コメントが波濤のように押し寄せてきた。


 乱心したグランツ王に好き好んで逆らいたい民などいない。

 安全が担保された第三者が加害者に逆らえない時、実は被害者が悪かったのではないかと考えるものだ。


「ナナシはレッドドラゴンをけしかけられるようなことをしたのかもしれない」

「だからナナシに非があるのでは?」


 そう保身に走るだろう。


 人間の弱さ。

 恐怖と罪悪感を利用したよい手だ。


 王と敵対すれば、人々は俺達の敵に回る。


 国民すべてを敵に回しながら王座を奪うのは困難だし、そんなやり方で王位を簒奪したところで正当性は皆無だ。


 王がやっていることは極大不意打ち攻撃だが、本質的には追放刑に近い。



 ……やってくれたなグランツ王。

 

 この前、会った時とは別人じゃないか。

 一見、滅茶苦茶に見えて絶妙にやられたくないことをされている。

 

「これが破滅の火……」


 茫然自失とした偽騎士クロエが膝をついていた。


 この場合の敗北条件はクロエに敵対関係を示唆されることだ。

 具体的には「お命頂戴」とか「王の名において汝を殺す」とか配信中に言われると詰む。


 今、そうなっていないのはこの状況で俺が配信を始めると予想していなかったからだろう。

 

 そもそも配信しなければクロエの発現で詰むこともないからな。

 無駄なリスクをとるわけがないと思われているわけだ。


 ただの勝ちじゃどうせジリ貧。

 掛け金を釣り上げるぞ!!


 グオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

 ずがぁんどがぁん! ゴオオオオオオ! めらめら、バキバキバキ! ずどぉん!!


 レッドドラゴンが手当たり次第に暴れている。

 俺達の正確な位置がわからないらしい。


”もう人集まっただろ! ナナシ!“

”説明してくれ! 何がどうしたんだ!?“

”これから何が始まるの!?“

”せめてどこに逃げればいいのか教えてくれよ!!“


 コメント欄は十分に温まった。

 これだけ多くの人間が凝視していれば……いけるはずだ。


「今日はレッドドラゴンを倒してみる回ということで、今回は特別に王国騎士クロエさんにご協力いただきレッドドラゴンの封印を解いてもらいました~! 皆さんは、絶対に真似しないでくださいね~~!」


”真似できるか!!“

”で・き・る・か!!!!!!“

”王国公認だったのか……“

”まぁ、だよな。そうでもないとこんなのテロだし“

”だからアッシュウッドの森でやってるのか、広いもんな……“


 人々が俺の言葉を受け止めていく。


 誰だって自分が大事なので、凶悪な災害が発生したと考えるより「そういう催し」だと思いたいのだ。


 別に永遠に信じてもらう必要はない。

 俺が王を詰むまでの間だけ、そう思い込んでくれればいい。


 よし……!!

 ここで話を振る!!


「それではクロエさん今回の意気込みをどうぞ!」


「ふえっ!? あ、ああ?」


 変な声を出してクロエが固まった。


 正直、リスクはある。

 ここでクロエが俺に敵対すればそれだけで俺の嘘は瓦解する。

 

 だが、そうはならない。

 ならないのだ。


「お、王国騎士のクロエです。今日はがんばらせてただ。がんばりたいと思いましゅ!!」


 ずいぶん間抜けなセリフだった。


 がんばるぞ! と、グーにした両手を胸元に寄せたその姿はとても暗殺部隊の一員には見えない。おそらく素なのだろう。


”か、かわいい~~~!!“

”姫騎士! 姫騎士じゃないか!!“

”王国騎士クロエ。推せる!“

”やっぱり王家公認なんだ。すげー“

”活躍してくれーーー!!“


 唐突な称賛。


 血の気が引きながらもクロエは笑顔を崩さない。

 思考盗聴をかけると、彼女の頭脳はいまだ混乱の渦中にあった。 

 

 自分でもなぜこんなことを言っているのかわからないのだろう。


 俺は懐からウィスキーの瓶を取り出して煽る。

 じわりと酒精が回ってきた。


 実に愉快だ。

 こいつはグランツ王が乱心したことで絶望し、投げやりになっていただけ。


 役目を果たすためなら死んでも仕方ない。

 なぜならこれはそういう仕事だから、と。


 くだらん思考停止だ。

 クロエ、お前はどうしたらいいかわからなかっただけだ。


 考えることを放棄し、助けを求めることを放棄し、何もかも諦めて惰性で絶望に浸っていただけだ。

 

 だから、目の前に希望がちらついただけで流されてしまう。

 ちょろそうなお前に教えてやる。


 お前がするべきことは自爆特攻ではない。

 王を裏切り、俺の仲間になることだ。





称号:グランツ王国騎士クロエ【装備中】

称号:シェイプシフター・100の顔を持つ女


アイテム:ドラゴン封じのペンダント【壊れている】、王国騎士装備一式


スキル:暗殺C、潜入B、生活魔法C、騎乗B、変装B+、絶望Cー→絶望E-


称号:王国騎士クロエによって一時的に追加されているスキル


グランツ王国式槍術C、グランツ王国式剣術C



NEW!! 


称号:100の顔を持つ女


変装によって獲得した称号数が100を越えた者に与えられる称号。


100の顔を持つ女の中に大量の称号が格納されており、現在装備中の王国騎士クロエもその中の一つ。


称号を切り替えることで対応するスキルを一時的に獲得することができるが、所詮は変装。その性能は本職には及ばない。

 


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