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おっさん、仕事を投げる

 俺は木箱を運び込み、納品数をチェックしていく。


 指導者であるはずの俺が参加しているからか、資材運びという本来冒険者たちがやりたがらない仕事に人目が向いているのがわかる。


”ナナシがなぜか資材運びをしてる“

”人手なんていくらでもいるのに、なぜ“

”部下のこと考えてますよアピールだろ“

”いやだからって普通やらないだろ“

”暇なんだな“


 流しっぱなしにしている配信のコメントが温まってきたところを見計らい、俺はカメラ目線でこう言った。


「現在、ベリア領の名も無き村では出資者を募集中です! お気軽にご連絡ください!」


”金貨2000枚どこいった“

”冒険者たちに仕事用意したり、簡易住居建てるのにほぼ使い切ったらしいぞ“

”聖人か?“

”俺ちょっと寄付してくるわ“


 通信技術を応用して出資を募る。

 王都のギルド長・ランピックによってクラウドファンディングと名付けられた方法だ。


 ちなみにグランツ王から受け取った金貨は別に使い切ってない。

 消費はしているので、残り800枚くらいになっているはずだ。


 出資を募らなくともなんとかやっていける額だが、俺はあえてクラウドファンディングに手をだした。


 そうなると偉そうに命令してばかりでは外聞が悪いので、こうして資材などを運んでいるというわけだ。



『うわぁ、それ詐欺じゃねえっすか? 騙して金巻き上げてるのと変わらないんじゃ……』


 先日、王都の冒険者ギルドから遊びに来たレコード妖精のシルキーがジト目で抗議してくる。


 意思伝達魔法による通信なので周囲の人間にこのやりとりは聞こえない。


 ちなみにわざわざアッシュウッドの森を越えてまでやってきた理由は、配信を見ていたら参加したくなったからだそうだ。


 たとえ妖精であっても映像越しでは俺の心を読めないから、気になるのだろう。

 

『悪事に手を染めるっていうなら、この関係も考えさせてもらうっすからね?』


 俺がここまでうまくやってこれたのは、シルキーの意思伝達魔法を改造した盗聴魔法によるところが大きい。


 勝手に人の心を読む邪悪な存在だとシルキーに広められれば、インフルエンサーとしての俺は死ぬな。


 誰も俺を信じようだなんて思わないだろう。




 ……念の為、シルキーに説明しておくか。


 資材運びや掃除ができる経営者はいい経営者なんだよ。


『人の心がある感じがするっすもんね。善行してるみたいな』


 疑いの眼差しを向けられている。

 シルキーは意思伝達魔法で心を読めるが、複雑なことはわからないのだ。


 ちょうどいい時間だ。

 実物を見せたほうが早い。

 

 俺は一緒に作業をしていた白磁の冒険者に資材の置き方について指示を出し「任せたぞ。この仕事が終わるまではお前がリーダーだ」と肩を叩く。


「これからお前が指示を出すんだ」


 さっきまでぼんやりしていた白磁の冒険者が輝き、やる気に満ち溢れた。

 

「はい! がんばります!」


 勢い余って非効率になっているし、置き方も俺に比べれば雑もいいところだが放って置く。


 よし、これで楽ができる。


『やっぱ邪悪じゃねえっすかね!?』


 そんなことはない。

 見ただろうあいつの顔を嬉しそうだったろうが。


『でも、面倒くさいから仕事投げたんすよね』


 妖精に嘘は通用しない。

 俺は「そのとおりですが何か?」返す。


 まったく。まだわからんか。

 しばらく歩くと、フェリが銀等級の冒険者を引き連れているところに出くわした。


「ナナシ! ようやく第二階層の掃討が終わった! ほめろ!」


「おお、偉いな。偉いぞー!」


 俺が雑にフェリを褒めると「目が死んでる!!」「もっと真剣にほめろ」と言われた。

 諦めろ。そういう顔なんだよ。


「銅等級のお前が銀等級の冒険者を指揮できるか不安だったが、うまくやっているようで安心したよ」


 へへっ、とフェリが笑う。

 ギルドでの等級は銅でも実質的には銀等級並の実力はあるだろう。


 慢心しているようにも見えないし、いい傾向だな。


「ナナシがやってたのをマネしてるだけだよ。急に「よし、覚えたな? お前がやれ」って言い出した時はどうしようかと思ったけど」


『また丸投げしたんすね』


 妖精の言葉に俺は心で頷いておく。


 シルキー。

 まだわからんか。


 しょうがないやつだ。

 ヒントをだしてやろう。


 俺はフェリに微笑みかける。


「だが、やってよかっただろう?」


「うん。まぁね。そうでもなかったらここまで早く実力つかなかっただろうし。でも、本当に、ほんっとうに大変だったんだからね!? それに掃討って何。ダンジョンって本来、潜り抜けるもので制圧するものじゃなくない? 何が目的なの?」


 もしフェリに命じたのがモンスターの掃討ではなくダンジョンの探索だったなら、今頃地下四階くらいには到達している頃だろう。


 その方がアイテムもよいものが出るし、通常であれば浅層に留まらせておく理由は何も無い。


「今にわかる」


「ケチ! 教えてよぉ! 私にだけちょっとだけでいいからさぁ!」


「ダメだ」


「ケチィ!」


 俺はフェリを放置して簡易魔術工房と簡易教会に足を運び、工房でマジックアイテムを作るタルトと教会で傷を癒やすアリアにもそれぞれ声をかけていった。


 フェリたちのパーティは一時解散させ、それぞれに役職を与えている。

 アリアもタルトもそれなりに苦労をし、それ以上の経験を得たようだ。


 シルキーへのヒントとしてそれぞれに「やってよかった」という言葉を引き出してみせる。

 どうだ、わかったか?


『ん~~。降参! 降参っす! 意味があるんだろうってのはわかるけど。どういう意味なのかはわかんない~~』


 やれやれ。

 心が読めても心がわからんのではどうしようもないな。


『むかつくけど、ぐうの音も出ねえっすね……』


 いいだろう。

 説明してやる。

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