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おっさん、ドン引きする

「なんだ。これは」


 俺とテルメアがベリア領・第一冒険者ギルドのある宿場町に到着すると、ならず者たちが焚火に当たっていた。


「明らかに暇を持て余していますね」

「ああ」


 薄汚れているのでならず者かと思ったが、よく見ればあれは冒険者の装備。認識タグを見ると白磁等級だ。


 おそらくはその場でごろ寝して過ごしているのだろう。

 

「冒険者ギルドの隣には立派な宿屋や酒場もあるのに」


 テルメアが不思議がっている。

 

 そういえばセドリック男爵もこう言っていたな。


「あの宿場町には王から賜った公金をかなり投じています。なのに、なぜか冒険者が定着しない。仕事も食事も宿もあるのに、なぜ」


 セドリック自ら視察したこともあるが、第一ギルドのギルド長の説明を聞いても何もおかしなところがなかったらしい。


 最終的には冒険者の怠慢ということで結論づけたそうだが、その結論に納得いってはいないようだった。


「そもそも白磁等級の冒険者というのはほとんどの場合素人だ。犯罪歴でもない限り誰でも取得できる冒険者資格を得ただけと言えるが」


 火に当たっていた薄汚れた白磁たちがこちらをじろっと見る。

 

(この金持ちめ)


 思考を読まなくてもそう思われているのがわかった。


「まずは冒険者ギルドからだな」


 俺がギルドに入って視察する旨を伝えると、受付嬢が緊張で背筋を伸ばした。

 ギルド長は不在で今は食堂にいるらしい。


「ふむ……」


 俺は壁に貼られている依頼票を見る。


『薬草摘み一袋 銅貨15枚』

『毒消し草摘み 銅貨16枚』

『ウォーウルフの群れの討伐 銀貨35枚』

『沼ゴブリンの群れの討伐 銀貨5枚』

『第四階層門番プラチナゴーレムの討伐 金貨5枚』


 公金が投じられているからか、かなり割りがいい。

 普通、薬草摘みは銅貨3枚が相場なので相場の5倍くらいになっている。


 割りが良すぎて不穏だ。


「ナナシさん、ですよね。ギルド長のバクスターが食堂でお呼びです。お食事の準備ができているそうで」


 受付嬢にそう言われて、俺たちは食堂へと向かう。


 嫌な予感がする。

 念のため、配信を回しておくか。



”あれ、なんか予告なしでゲリラ放送してる?“

”ほんとだ。これ何の放送?“

”よくわかんねーけど、ナナシなら見るわ“



「来たか、配信者君」


 ギルド長のバクスターはコック姿で料理を並べていた。

 この食堂は一棟の建物になっていて、吹き抜けになった二階から一階が見下ろせる形だ。


「どうした、上がってきたまえ」


 バクスターがいるのは二階のテーブルだ。

 領主のセドリック男爵が食べていたものより遥かに高級な料理が所せましと並んでいて、銀等級や金等級の冒険者が好き勝手飲み食いしていた。


 ちなみに一階には白磁や黒曜等級の冒険者たちが深皿に入った固い黒パンを齧っている。


”すごい格差だ……“

”えぐくない?“


「お湯くれ」


 黒曜の冒険者が言うと、給仕が鍋を持ってきて固いパンの入った深皿に湯を回しかける。

 少し柔らかくなったパンを見て黒曜の冒険者は笑みをこぼし、周囲の白磁たちの殺気が高まっていく。羨ましいのだろう。


 一階の壁に張り紙を見ると「お湯、1杯銀貨1枚」とあった。

 お湯が、銀貨1枚である。

 

”は? 銀貨一枚あったら普通腹いっぱい飯食える額だろ“

”お湯、お湯に銀貨1枚?“

”ぼったくりだ“


「どうした。早く来たまえ」


 バクスターに促され、俺とテルメアは二階へ上がる。


 長テーブルに置かれた料理は豚の丸焼きにサラダに鳥の香草焼き、豆のペーストに魚のソテー、その他いろいろだった。


「普段は食べ放題金貨二枚でやらせてもらっているんだが、今日は特別に配信者君たちは無料でいい。好きなだけ食べていきたまえ」


 ベリア領・第一ギルドのギルド長バクスターは痩せぎすの男だった。

 テルメアが俺の行動を伺っている。


「なるほど。申し遅れました。俺はナナシ、配信者をやっています。こっちは後輩のテルメア」


 テルメアがぱぁっと明るくなるのが見えなくてもわかる。


「ああ、悪かったな。私はギルド長で料理長のバクスターだ。なにぶん、この土地は人手不足でね」


「この土地は何かと大変ですよね。ところで、下の階に出てるパンはいくらなのですか」


 バクスターは少し面食らう。

 ちらとレコード妖精のシルキーを見てからこう言った。


「ああ、面白いところに目をつける人だ。あれはタダです。一日一個までタダ。公金が投入されている以上冒険者に還元するのが規定ですから」


 うちはクリーンですよ、と。


 諸手をあげて笑みをつくるバクスター。

 撮影されていることを念頭においているのだろう。


「二個目はいくらになります?」

「銀貨一枚でやらせていただいております」


”高っか!“

”カチカチのパン一個で銀貨一枚……“

”やっぱりぼったくりじゃん“

”ベリア領は地獄か?“

”ベリア領っていうか、この区域がやばい“ 


 バクスターは自分が攻撃されていると思ったのか、ふんと鼻息を荒くして続ける。


「別に嫌ならうちを利用しなくてもいいんですよ。まぁここらには他に食堂はありませんから、ベリアから出ていくことになるでしょうが」


 セドリック……何が何故か冒険者が定着しないだ。

 原因こいつだろ。


「いや、さすがに暴利すぎでは」


”よく言ったナナシ!“

”そうだそうだ“

”金持ちは死ね!“


 バクスターは深くため息をつく。


「はぁ、配信者などという虚業をされているひとにはわからないでしょうが、我々のような実業には金がかかるのです。公金が投入されているとはいえ、アッシュウッドの森を越えて物資を運ばせるのにはそれなりに金がかかる」


「その苦労もわからないで、やれ高いだの暴利だの。元宮廷料理人であるこのバクスターの料理を口に入れることができる。それだけで感謝するべきなのに、そうは思いませんか」


”思わねえよ“

”思わねーーーー!!“

”性格、わる……“

”こいつ宮廷料理人だったのか“

”元な、そりゃ首になるわ“

”こういうこと言う人って現実に存在したんだ……“


 コメント欄でドン引きされている。

 思考を読んでみたが、バクスターは本当にそう考えているようだった。

 ここまでくると逆に面白いな。


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