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おっさん、グリーンドラゴンと戦わない

”TUEEEEEEEEEEEEEE“

”無敵か?“

”これが勇者の実力か“

”なれる気がしねえ……“



「先輩!! 配信、すっごい楽しいです!! まさか先輩の配信に出られるとは思ってなかったけど!」


 ゴブリンを瞬殺してコメント欄で賞賛を浴びるテルメアがうきうきしている。


 女勇者テルメアにレコード妖精がついていたかはわからないが、まさか全世界に放送しながら魔王を暗殺するわけにもいくまい。


 そういう意味で彼女の任務は孤独なものだったのだろう。


 俺とテルメアはトレントやジャイアントボアを雑に倒しながら、アッシュウッドの森を進む。



 トレントがあらわれた!


「絶剣!!」


 トレントはばらばらになった!!



 ジャイアントボアがあらわれた!


「……。あ、詠唱忘れてた」


 ジャイアントボアは蒸発した!!


 だいたいこんな感じである。 


”強すぎ“

”何なら苦戦するんだ“

”瞬殺過ぎて全然参考にならない“

”できるか!!!!!!“


 いい感じにコメントが温まってきた。

 テルメアがさりげなく、こちらに目くばせをする。


 すでに探知したのだろう。

 流石、勇者だ。


「ん、あれ。何かいるぞぉー?」


 俺はわざとらしく目を細め、レコード妖精のシルキーが予定通り対象に視線を向ける。

 そこにいたのは。


”ドラゴンだ!!“

”は? アッシュウッドの森ってドラゴンでるの!?“

”やべえええええええ“

”ドラゴンスキー:あれはグリーンドラゴンですねぇ。強靭な飛行能力と鋭いかぎづめを持ち、その鱗は……“

”でも、ナナシなら負ける気がしねえぇぇぇ!!!“


 本来、バランスのよい銀等級8人以上でギリギリ討伐許可を出せるモンスターの中のモンスターだ。


 それだってやばそうならすぐ逃げることが前提で、金等級の冒険者の同行が不可能な場合の例外措置になる。


 つまり討伐推奨等級は金になる。

 可能なら等級プラチナの冒険者をつけたいところだ。

 

「やばい、逃げるぞ!」

「わー! こわいよー!」


 テルメア、ちょっとお前の声わざとらしすぎないか?


”え!? 逃げるの!?“

”ナナシと勇者が逃げるほどやばいのか!?“

”マジか“

”やっぱ竜はやばいんだよ“

”こわ“

”ドラゴンスキー:ドラゴンはですねぇ。本来冒険者10人以上で戦う相手と言われているんですねぇ。グリーンドラゴンはその中でも格下と言われていますが、その鱗はですねぇ……“

”アッシュウッドの森やばすぎワロタ!!“


 最近、高レベル冒険者がやる配信の真似をしてダンジョンで無茶をやって大けがをする白磁等級が増加している。


 俺は「最悪の場合どうやって生き延びるか」を配信しているだけだが、配信者の中には無意味に危険な行動をして関心を集めようとするやつもいるのだ。


 冒険者なんぞやるやつらは自分の命よりも名誉の方が大事なのかもしれない。

 とても理解できないが、そういうものなのだろう。


 俺たちに気づいたグリーンドラゴンが追ってくる。

 グリーンドラゴンには飛行能力があるのでまともに逃げるだけではまず逃げられない。

 

「えーーーーーーー! 今日はこんな風にまっすぐ逃げてますが! これが通用するのは相手がブレス攻撃してこないグリーンドラゴンだからです! もしレッドドラゴンだった場合、まっすぐ後ろに逃げたらブレスで丸焼きですね!!」


”え、そういう時はどうしたらいいんですか!?“


「レッドドラゴンに会わないようにしましょう!!」

「空から一方的にブレス攻撃され続けたら人類に勝ち目ないですからねっ!」


”こわ“

”なんか、がんばれば勝てるんじゃないかと思ってた“


 そう、俺たちが何にでも勝てるように見えるとまずいのだ。

 配信を見たアホまで何にでも勝てるような気になってしまい、勝手にどこかで死ぬかもしれん。


 最低でも苦戦、できれば逃げて生き延びたくらいの画が欲しい。


「まぁ、向こうは飛んでるんで走って逃げても追いつかれるんですが」


”ダメじゃん!“

”え、嘘。ナナシ死ぬのか?“

”ナナシ、配信事故で死亡?“

”ドラゴンやばい“

”魔法! 魔法だナナシ!!“


 よし、ここで魔法を外しておくか。

 俺が無詠唱でファイアアロー(槍)を躱しやすい位置に放つと、グリーンドラゴンが旋回して回避した。


”やっば“

”そりゃ回避するよね……“

”緊張感やべえ“

”ドラゴンスキー:グリーンドラゴンはですねぇ。魔力を感知する器官を複数持ち合わせていると言われていてですねぇ“

”これ魔法連発できないと死ぬわ“

”できても死ぬだろこんなん“


 普通に考えて強靭な巨体を持ち、空を飛んでいて一方的にこちらを攻撃できる化け物は強い。


 魔法攻撃は魔力探知されるから回避されやすいし、剣はそもそも届かないばかりか、よほどの業物でなければ当てたところで刃が通らないからだ。


 ちなみになまじいい武器を使って当て方を間違えるとドラゴンの肉に刃が埋まる。


 なので本来は10人以上で囲んで魔法と矢を射かけ、攻撃されたら逃げるのだ。


 ドラゴンの体力が尽きて着地したら全員でゴリゴリに連携して翼にダメージを与え飛行能力を奪い、消耗戦に突入。


 戦闘中に武器が摩耗したり折れたりするので替えの武器も多めに持参した方がいいだろう。


 つまり、補給地点を事前に確保しておく必要があるわけだ。


 そこまで用意しても、運が悪ければ金等級の冒険者が死ぬ。

 それがドラゴンというモンスターなのだ。


「えーーーー! なんで今回まっすぐ走っているかというと、一刻も早く森の深い場所に逃げ込むためでーーーす!!」


 俺とテルメアが茂みに飛び込むと、グリーンドラゴンは巨大な樹木に行方を阻まれて上昇した。


 巨木が邪魔で俺たちがどこにいるかなどわからないだろう。


 ブレス攻撃のないドラゴン対策として、森に飛び込んで息をひそめるのはかなり有効だ。

 ドラゴンだって巨木をすべてなぎ倒してまで人間を殺そうとは思わない。


 彼らにも縄張りがあり、そこを不用意に荒せば他のモンスターを呼び込むことになるからだ。

 ドラゴンだって無駄にドラゴンと争いたくはない。


「グルゥアア……」


 ばっさばっさ翼の音をさせながらグリーンドラゴンがこちらを睨んでいるのがわかる。

 俺とテルメアが息をひそめて待つと、グリーンドラゴンはどこかへ飛び去って行った。


”こっわ“

”たすかった“

”死ぬかと思った“

”冒険者ってやっぱ危険な職業だわ“

”そうだぞ?“

”ドラゴンスキー:いやぁ、実に鱗の綺麗なグリーンドラゴンでしたねぇ。鱗と言えば……“

”俺、こっそりアッシュウッド行こうと思っていたけどやめたわ“

”命がいくつあっても足りないよこんなの“


 俺は視界の端に浮かんでいるコメントを流し見て、俺は安堵する。

 ドラゴンの危険性を理解してもらえたようだ。


 ギルド長時代。

 無謀にもドラゴンに挑んで死んだ冒険者たちは掃いて捨てるほどいた。


 竜殺しは華々しい武勇伝が残りやすいから触発されてしまうのだろう。


 あの頃はいくら注意喚起してもアホには通じなかったが、ここまでやっておけばとんでもないアホでもない限り戦おうとは思わないだろう。


「えー、つまり対グリーンドラゴン戦で大事なのは。逃げること、とにかく逃げること、できれば遮蔽物のある場所に逃げてじっとしていることです!! それじゃ、また今度!」


 レコード妖精のシルキーが手信号で配信をオフにした合図を送り、俺は息をついた。

 こういう配信は疲れるな。


「迫真の演技でしたね。先輩!」

「ああ、こうでもしないと白磁どもが真似して大量に死ぬからな……」


 テルメアがにっこにこだ。

 流石、等級ブラックだけあって清濁併せ吞んでいる。


 フェリたちのように説得する必要がないのは楽でいいな。

 あいつらだと酒場でぽろっとこぼしそうだしよ。


 あー。疲れた。

 おじさんは一番大変なとこが終わってほっとしたよ。


 神経使うから酒も飲めなかった。


 俺は懐から酒を取り出すとぐびぐび飲む。

 酒精で喉が焼けていく。


 うまい。

 俺はこの一杯のために生きているのかもしれん。


 じゃ、グリーンドラゴン倒しとくか。


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