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おっさん、王様から金貨2000枚をもらう


 それからしばらくして、冒険者ギルドに俺宛の詫び状と金貨2000枚が届いた。


 金貨2000枚……。

 俺一代ならば一生余裕で遊んで暮らせる額だ。


 グランツ王から「今回はこちらに不手際があり、申し訳ない」とのことだったが、実際のところは「金はやるから大人しくしていてくれ」くらいの意味だろう。


 後でテルメアに詳しい話を聞いてみると、魔王を暗殺した時に彼女も1500枚ほどもらったらしい。


「お前。魔王を暗殺していたのか」

「うん。……あ、これ言っちゃだめなやつなんだった」


 道理で最近、魔物たちの進行が鈍化しているはずだ。

 指揮をとっていた魔王が死んだが、その死を隠しているため指揮系統が麻痺しているのだろう。


 魔族たちは意地でも魔王の死を隠そうとするだろうし、その間に熾烈な後継者争いが起きて潰しあいになるから。人類にとってはかなりプラスである。


 ただ、魔王の死が魔族たちに広まれば魔界は乱世に突入するだろうし。統率のきかなくなった魔物たちが暴れ出して人類もタダでは済まない。


 そう考えると、グランツ王の対応もわからなくはないな。


 この世を乱世に変えかねない情報を持つ、しかも強すぎて殺しようがない存在が城から逃げだして、配信者のところに転がり込んだのだ。


 しかも、その配信者も王の首筋に毒付きナイフを当てて平然としているやつときたもんだ。


 もはや、大金を渡して祈るくらいしかできることがないのだろう。

 相手が俺でよかったな。


”なんで王様から謝罪されてんのwww“

”何があったんだ“

”王様に何されたんだナナシ“

”金貨2000枚とか多過ぎ、何に使うんだよ“

”金くれ“


 フェリたちと配信をしていてもそのようなコメントが目立つようになったので、雑談配信と称して説明に答えていく回を作った。


 俺の説明はこうだ。


「わからん。普通に歓迎されていたとしか思えない。おそらくは何かあったが俺が貴族の礼儀に疎いせいでよくわからないだけだろう」


 グランツ王も内心胸をなでおろしたことだろう。

 脅されたことも脅したことも、墓場までもっていってやる。

 血気盛んなガキならともかく俺はおっさんだからな。

 

 受け取った金貨は枚数が枚数なのでいつまでもギルドの金庫にいれているわけにもいかず、テルメアの預金に振り込んでもらった。


「こ、こんな大金。なんで!? わたしでいいんですか!?」


 俺は職業適性が盗賊なせいで、預金口座を作成できない。

 なので他人の口座を利用するしかないのだが、ここまでの大金になるとフェリたちには渡せない。


 金は人を狂わせる。


 フェリたちは良くも悪くも普通の冒険者だ。

 大金を手にしたらいよいよ金遣いが荒くなり勝手に破滅してしまうおそれがある。


 だが、テルメアはすでに王から莫大な褒賞を受けているし、金に狂わされているようにも見えない。しかも俺にも従順で役に立ちたいオーラを常に発している。


「テルメア。お前が適任だ。金の管理くらいできるだろ、後輩」

「は、はい!! やります!!」


 ずっと開いていた瞳孔は閉じて、きらきらした目になったテルメアが喜びのオーラを発している。


 大役を任されたことが嬉しいのだろう。

 

 グランツ王は金でテルメアを籠の鳥にしようとしたようだが、あれは下策だったな。


 ただ金を渡すだけでなくその金で責任を負わせ責任を果たさせていれば自然と信用が醸成されていたのに。


 使い方がヘタすぎる。


 まぁ、金を持ち逃げされたり運用に失敗されるリスクもあるんだが、なくなったらなくなったで、また稼げばいいのだ。


「先輩! 先輩! 屋台で買い食いしていきましょうよ! あそこの串焼き美味しいんですよ!」


 銀行帰りに俺の袖を引っ張りながらテルメアがそんなことを言う。

 金貨3000枚を超える資産を持ちながら屋台の串焼きに喜ぶ女……金で身を滅ぼす気配がまるで見えない。


「いいな、ちょっと食っていくか」

「はい!」


 ついでに俺も串焼きと安酒で十分だ。

 こういうのでいいんだよ、こういうので。


 往来を行き交う人の思考を盗聴すると噂されていた。


(ナナシだ。金貨2000枚って噂になってたけど。串焼きとか食うんだ)

(王様に呼ばれたりして鼻につくイメージがあったけど、実際はそうでもないんだな)

(ケッ、金持ちが)

(貧乏人の心がわかってますよアピールだろ)

(ナナシかっけー)


 誹謗中傷の類もあるが、おおむね好意的だ。

 むしろ、俺のことを賞賛する声しかない方が危険なのでこれは理想的と言える。


 俺が安酒をぐびぐび飲むと、テルメアも酔ってきたのか頬を染めていた。


「あの、先輩。この世には奥さんにすべての財産を与えて管理させるタイプの旦那さんがいるそうなんですけど……もしかして……」


 あ、ナナシだ!

 

「串焼きおごってよ!」

「ちょっとフェリ、自分で払いなさいよ」

「あ、新しい……女?」


 フェリ、アリア、タルトの三人が俺たちを見つけて駆け寄ってくる。

 今日は一日オフにしていたのだが、出会う時は出会うもんだな。


「ナナシ、この人だれ?」


 フェリたちがテルメアを警戒している。


 明らかに冒険者然としたテルメアと俺が城であった令嬢が結びつかないらしい、瞳孔が開きっぱなしになっていたのも治ったようだし。そういうこともあるか。


「わたしは先輩の後輩です! フェリさんたちですよね。いつも配信見てますよ」


 テルメアの距離が近い。

 何か妙だと思っていたら、治ったはずのテルメアの瞳孔が再びガン開きになっていた。


 獲物は渡さんと威圧する雌豹のようだ。


「私らより年いってるのに後輩ィ? じゃあ、私達の後輩だね。ナナシはちょっと配信の件で話があるから、悪いけど部外者のひとは帰ってもらえるかな……?」


 思考を読むまでもない。

 フェリは怒りを噛み殺しながら、笑顔で威圧し返している。


「いえいえ~、後輩はあなたたちの方ですよ。私は10年前から後輩なので。後輩は先輩を敬うべきなのでは?」


「10年前はナナシは配信活動してませんー」

「配信技術そのものがないですね」


「わからないですかねー。配信者になる前からの仲だって言ってるんですけど」

「ナナシ…ついに悪い虫が……。警戒していたのに」


「あら、今何か言いましたか?」

 

 フェリたちとテルメアの圧がぶつかり合い、路上がどよめいていく。


 瞳孔が開いたテルメアと笑顔が消失したフェリが腰元の剣に手をかけようとして……止まった。


「……先輩に迷惑をかけるわけにはいきませんね」


 優秀な剣士は勘がいい。

 それ以上先に進めば俺が何をするかわかったのだろう。


 いち早く読み切ったテルメアが引き下がる。

 フェリは固まったままだ。


(な、何!? ナナシに一瞬で剣を奪われて制圧された……!? なんか、あの女も同時にやられてたし。いやいや、無理。あんなのどうにもならないって)


 思考を盗聴すると混乱していた。

 直感型か、こいつはいい剣士になるな。


「まぁまぁまぁ。みんな、酒でも飲みに行こうか」


 親睦を深めつつ、これからのことも話しておきたい。

 俺はみんなを酒場に誘った。

 


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