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女勇者、後悔する


 ナナシが王様や貴族と歓談しながら、メインディッシュを切り分ける。

 やっぱり先輩はすごいな。


 わたし、テルメアはそう思った。


 ナナシと一緒に食事できればそのまま仲良くなって関係が深まると思っていたけど、そんなことはなく。


 わたしはしとやかな令嬢のフリをするので精一杯。

 先輩の所作は完璧でマナーを間違えた貴族に配慮までしていた。テーブルマナーに疎い先輩に色々教えてあげようと思っていたのが馬鹿みたいだ。


  

 思えば、前菜の前に出したアミューズ。おしどりの焼き菓子はやりすぎだったかもしれない。


 先輩からしたら初めて会う知らないやつがいきなり求婚してきているように見えただろう。まぁ、実際そういう意図だったんだけど。やっぱりやりすぎだよ。


 こうなっては先輩が意図に気づいていないことを祈るばかりだ。


 わたしがこうして何もできずにいる間にも、先輩は貴族と仲良くなって人脈を作りあげている。


 今頃みんなコメント欄で楽しくやってるんだろうな。


 わたしもそうしていればよかったかもしれない。

 配信者は近いようで実際は遠い存在なのだと痛感する。


 手が届かないものと割り切って、画面越しから一方的に推していればこんな思いをすることもなかったのに。


 どうして手を伸ばしてしまったのだろう。


 食事を終えると、グランツ王が先輩に「少々二人で話がしたい。ついてきてくれ」と言う。


 ああああああ、それはわたしが言いたかったやつ!!

 でも、グランツ王がそう言わなかったとしてもわたしは何もできずにいただろう。


 ここで王様を責めるのはさすがにお門違いだ。


 食事が終わり、後ろ髪引かれる思いでナナシを見送ると。自室の隅で三角座りをして病んでいた。


 なんで先輩がここにいるのに何もできないの?

 先輩がここにいるのに。


 自分の心の弱さが嫌になる。

 わたしにもっと行動力があれば。


「そうだ」


 思い立ったら即行動。

 わたしは魔物召喚Cでジェノサイドウルフの影を召喚して右手についた先輩のにおいを嗅がせ、追跡する。


「握手しといてよかった!!」


 魔獣召喚で呼び出した影は存在度の濃い薄いをある程度自由に変えられるので、王城で堂々と使役していてもそうそう気づかれない。


 たどり着いたのは謁見の間の前。

 人払いの結界と防音魔法がかかっているけど、空間が断絶しているわけではない。これくらいなら突破方法は色々ある。


 わたしは再び魔物召喚を使用して、首狩りウサギの影を謁見の間の内部に発生させる。


 人の侵入を拒む人払いの結界も、人でなければ発動しない。

 わたしは首狩りウサギと聴覚と視覚を共有してその場に座り込んだ。


 ああ、先輩。

 先輩の声もっと聞きたい……。


 もしかしたらストーカーのように見えるかもしれないが、これは純愛なので何の問題もない。


 声が聞こえてきた。


「久しいな、ライオット」

「……お気づきでしたか」


 え、何。

 ライオットって誰?


 でもこれ先輩のナナシの声だよね。

 わたしが聞き間違えるわけないし。


 あれ?


 そういえば、先輩が名乗っているナナシという名前は偽名なのではないかという噂はあった。先輩の本名、ライオットっていうんだ。かっこいいな。



「忘れるものか、共に食事をとった仲だ」


 王は少しだけ間をおいてこう続けた。


「恨んでいるか?」


「いえ、もう過ぎたことです。後悔しておいでですか?」


 並々ならぬ仲じゃん。

 どうりでテーブルマナーも完璧なはずだよ。


 先輩王様と何があったの。

 気になるるるるるる。


「お前をひどい目にあわせることになってしまったが、枢機卿と共に決めたこの政策が間違っていたとは思わん。この十年、適性検査によって国力は上昇し、犯罪率も激減した。数字だけ見れば間違いなく成功と言える」


「ただ、その御手からあぶれた者もおります」

 

「そうだな。だが、私は神ではない。すべてを救うことなどできない」


 首狩りウサギごしに見る先輩がこらえているのがわかる。


 ひどい目にあわせたというのは、グランツ王は何かしらの理由で先輩がダンジョンで暮らさなければならない状況を作ってしまったということだろう。


 その上で後悔はしていないと言う。

 いやなやつだ。


「だが、ライオット。お前はそれでもここまで来た。それは偶然だったのかもしれないが、運もまた必要な素養のひとつ。力ある者には褒美が必要だな」


 グランツ王が続ける。


「ライオット。お前の身柄はこのグランツ王が保証しよう。これでもう誰もお前を迫害することはない。もっともこれからもナナシとして生きることにはなるが十分だろう」


 先輩の目がかすかに見開く。

 だんだんわかってきた。


 おそらく先輩は適性検査で負の適性を引き当ててしまったのだろう。

 殺し屋や詐欺師などの適性を持っていることが判明するとそれからの人生は悲惨だ。

 社会から迫害されて野垂れ死ぬか、本当に殺し屋や詐欺師になるしかなくなる。


 わたしのように王家に暗殺者として雇われでもしない限りは。


 この前、魔王も暗殺したし、職責は果たしている。

 役立たずとして切られる要素はないはずだ。


 パっとしない陰キャな人生だけど、これからも生きてはいけるだろう。

 先輩とはもう接点なくなるけど。配信が見れればしあわせだし。いっか。


「グランツ王陛下。それは、本当にありがたいことです」

「だが、無論タダではない」


 グランツ王の言葉にわたしは動揺した。


「王家の庇護の対価として、勇者テルメアを殺してもらう」


 え?

 なんで。

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