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おっさん、冒険者を助ける



 この十年、俺はあちこちのダンジョンで浅層と深層を行ったり来たりしながらつつましやかに暮らしている。


 最初は自殺のつもりだったが、不思議となんとかなるもので。


 今ではもう立派なおっさんだ。

 いや、立派じゃないおっさんだな。まるでダメなおっさんだ。


 長生きなんてできないだろう。

 だが、もはや怒りはない。

 

 すべてはなるようになるだけという達観した気持ちがあった。

 色即是空というやつかもしれん。



「た、たすけて~~~!!」



 なんだ、女の声?

 赤髪の戦士と銀髪僧侶、黒髪の魔法使いが走ってくる。


 傍らには光る妖精が並走していた。 

 なんか、最近よく冒険者についてるんだよな何なんだろうあれ。


 しかし、なんだ全員女?


 ここは動乱の洞。

 オークの住処だぞ、死にたいのか?


「グモォ~~~~~!!」

「ひぃぃぃぃ!!」


 腹に折れた刀身がぶっささったオークが飛び出してきた。

 よく見れば女戦士の剣が根本から折れている。


 前衛が魔物を抑えきれなくなり、戦線が崩壊か。

 戦士系を一人しか用意しないからこうなる。


 冒険者たちが岩陰に隠れると、オークがあたりを見渡して鼻をふごふごさせた。


「来ないで、来ないで、来ないで……」


 絶望した顔の三人をぼんやり眺めていると、オークが冒険者を察知して接近してきた。


「な、なんで。わかるのよぉッ!!」


 オークがこん棒を振りかぶる。

 目はニチャァと笑っていた。


「よこせ」


 俺は僧侶からメイスを盗って、オークに突きつける。


 闇の中からボロきれを着たおっさんが現れたのだ。

 そりゃオークもちょっとはびっくりする。


 心の隙を突くように俺は語りかける。


「グオ、ア、オア」


 口の中で転がすようにオークにそう言った。


 オークも冒険者たちもきょとんとした顔をする。


「グオ、ア、オア。グオア……」


 俺がそう何度か繰り返すと、オークは真っ赤になって怒りはじめた。


「グオオア!! アアアアアアア!!」


 めちゃめちゃに振り回されるこん棒を冷静に見切る。


「な、なになに!? 何が起きてるのぉ~~!?」


 魔法使いが驚いている。


 俺が使ったのはオークから盗んだオーク語だ。


 意味はわからんが、オーク同士で殺し合いになった時はかなり高い頻度でこの言葉を発して相手を挑発する。


 たぶん、とんでもなく最低な言葉なんだろう。

 まぁ、俺としては相手がキレるということだけがわかっていればいい。


 なんでそんなことを知っているかって?

 ダンジョンに住んでるからだよ。


「グオオアアアア!! グアアア!! アアアアアアアアアア!!」


 おーおーコワ。

 だが、おかげで攻撃は単調だ。


 こうなれば見切るのは容易い……なっと!


 俺はオークの頭をメイスでフルスイング。

 一撃必殺。オークは死んだ。


「つ、強い……!」


 俺を前に冒険者たちは驚愕していた。


「おい、返すぞ」

「ひ、ひい!? あ、あああああありがとうございます!!」


 涙目になっている僧侶にメイスを渡す。

 思い切り振ったので、メイスがひん曲がってしまっている。


 手持ち部分は俺の握力でへこんでいた。

 

 冒険者たちはありえないものを見たような顔をしている。

 傍らにいる妖精もメイスをじっと見ていた。


 え、なぜ俺の腕力が強いかって?

 ダンジョンに住んでいるからだ。


「じゃあな」


 俺はかすれた声でそう言うと、のそのそ歩いて樽の中に戻る。

 

「あ、あの! 私、戦士のフェリって言います! 戦い方を教えてください!」

「僧侶のアリアです。わたしからもお願いします!!」

「ま、魔法使いをしているタルトです。あの、その……」


 ちっ、寝ようと思っていたのに。


「お前ら、二度とここに来るな」


 俺のかすれ声にフェリが「な、何でですか」と言う。

 は? 何でですかだと?


「すみません、お気に障ることでも」


「違う。お前らが女だからだ」


 三人が絶句した。

 差別発言だと思われたかもしれない。


「それは女が冒険者なんてするなって意味?」


 敵意を向けられている。

 こいつらからすれば存在意義を否定されるようなもんなのだろう。


 俺は頭をかきながら、続ける。

 セクハラになるかもしれんが、そんなことより人命を優先するべきだ。


 それに俺には失うものなど何もないからな。


「ここはオークが生息するダンジョン『動乱の洞』だぞ。オークが女の月経臭に寄って来るのはたりめーだろうが、冒険するにしても場所を選べ場所を」


「そっか。だからオークに見つかったんだ」


 ぼそりとフェリがつぶやく。

 まさか、知らなかったとは。


「そもそも、動乱の洞には女が入れないよう冒険者ギルドが規制をかけていたはずだ。なぜお前たちがここにいる」


「あの、男女差別だということでそうした規制はすでに撤廃されているはずですが……」


 ばかな……差別……?

 まさか、ランピックお前がやったのか?


 たとえばサキュバス戦に男だけのパーティで挑めば苦戦か全滅だが、女だけでパーティをまとめれば容易に勝てる。


 男女によって得手不得手があるのは当然であり、必要に応じて戦力を振り分けるべきなのに、それを……。


「おごごごごご」


 おお、ランピック!! お前の仕業なのか?


 お前のせいでどれだけの人命が失われたと思っているのか。

 久々に自分でもびっくりするほどの怒りが湧いてきた。


 だ、だめだ。嫌なことを思い出してきた。

 八つ当たりで社会に復讐したくなってくる。


 こういう時は。


「寝る」


 俺は横になった。


 冒険者たちは樽をゆすったり、土下座したり、えっちなことに興味ありませんかと言ったりしてきたが無視する。


 こんなおっさんに何言ってんだ。

 いい子にして家に帰れ。


「せめて、せめてお名前を……!」


「ああ? 名無しだよ」


 本名から過去を同定される可能性は少しでも減らしたい。

 どうせもう二度と会うことはないだろうがな。


「ナナシさん! 今日はありがとうございました!!」


 フェリに続いてアリアとタルトがありがとうございましたと復唱すると、妖精を伴って冒険者たちは去っていった。



 ……えっちなことに興味ありませんか、か。

 誰も見てないし、紳士ぶらずにパンツくらい見せてもらえばよかったかな。


 少し想像してやめた。


 過ぎたことを考えるのはやめよう。

 もう今日は寝る。



 この時、俺は知らなかった。


 あの横に浮いている妖精はレコード妖精と呼ばれ、見聞きしたものを記録するということを。


 そしてそのレコードが公開されて大変なことになることを。



称号:追放されしもの(アハト)EX


NEW!!


スキル獲得:生存自活ナチュラル・ビースト・ワンEX


盗賊系スキルが生存困難な環境で命を繋ぐスキルに昇華されたもの。


他者からの支援を受けずに単独で生きることができる証。

人の形をした獣とも。


身体強化、隠蔽、鑑定、察知、魔法の解析や再構築などの複合スキルで、高位盗賊系スキルとA以上の追放系の称号を持つものが稀に獲得できる。


現在確認できている盗品


オーク語(低)、怪力B、見切りB+


新連載です!


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をしたうえで、本作を読み進めていただけると励みになります!


どうぞよろしくお願いいたします!!

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