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襲撃

 満月の夜。外世界から辿り着きタコイ族となった男、ポンは自宅の寝床――里に生えている草を編んで作った敷物の上で就寝していた。

 いびきをかきながら寝返りをうった彼は、ひんやりと硬い物にぶつかり覚醒した。


「――いてて……。あ?」

 

 しかし何事かと考える間もなく、ナニカに身体を抑え込まれる。


「はがッ!?」

 

 突然だった。一瞬で精神が恐慌状態に陥る。

 頭を掴んでいるモノは人の指のようだが、硬くて冷たい。


(くそッ、一体何が起きて――!?)

 

 詳細不明なまま、可能な限り見上げた。

 夜間ではあるが差し込む月光のおかげで、安眠を妨げた正体が見える。


(おいおいおいおいッ!)

 

 そこにはなんと、鎖鎧に身を包んだ者がいた。籠手で頭を掴まれたのだ。


(な、なんでどうして!?)

 

 しかも単独ではない。仲間なのか、もう一人鎖鎧の者が後方に控えている。

 ポンは恐怖に支配されつつも、外世界にいた自身だからこそ理解できたことがある。


(こいつら、外から来たのか!)

 

 彼らはポンと同じく森の外からやってきたのだと。

 抑え込んできた者に力で負け拘束されたポンへ、控えていた者が寄ってきて片膝をつき、鞘に取り付けていた植物油を用いた携帯型照明器具を外し、ポンの首筋に近づけた。


「こいつはアレをつけていないな」

「ちッ、外れだ。次にいくぞ」

 

 照らされた首筋を確認した者が首を振り、ポンを拘束する者と意味深な会話をした。


(俺の首に何が……!? どういうつもりだ)

 

 深まる疑問を考察する暇はなかった。

 ポンを抑えていた者に今度は首根っこを掴まれ、無理やり立たされたのだ。


「野郎ッ!」

 

 流石に恐怖へ怒りが勝った。

 ポンは振りほどこうとありったけの力で暴れようとするが――


「クソが! 大人しくしろ」

 

 首筋に白く光る鋭い長剣を突き付けられたため、全身の血の気が失せた。

 もはや抵抗する気力もなく、体を掴まれて誘導され住まいから出される。


「――ッ!?」

 

 外に出されたところで、目に映るタコイの里の状況に戦慄する。

 自身の家に侵入してきた者らだけではなかった。十数人の鎖鎧の兵士達がいたのだ。

 彼らは自身が住んでいるヒラカ地区の集落の開けた一角に、里の者達を強制的に集めていた。四方を見張り、睨みをきかせている。

 集められた者達は恐怖に慄いた様子で、声を潜めて言葉を交わしあっている。

 逆らって突き飛ばされり、殴られた若者もいるようだ。


(えれぇ人数だな。俺みたいな敗残兵が紛れ込んだって感じじゃなさそうだ。何でタコイの里に……。それにこの大人数で、眠り深いとはいえウルフルを避けながら森を迷わず抜けてきたのかよ)

 

 ポンは愕然とした。

 自身他、外から来た者達がタコイ族の里へ辿り着けたのは運が良かっただけに過ぎないのに、目的は不明だが鎖鎧の兵士達は大所帯で爆睡肉食四足獣を搔い潜りながら、森を迷わず進軍してきたのだろう。無謀な行為かつ奇跡でしかない。

 ポンは強く押されて地面に転ばされ、捕らえられた里の者達の中に加わった。

 そして彼は兵士達の兜に刻まれた杏葉牡丹の紋章を見て、驚愕に目を見開いた。


「んなッ!」

 

 思わず声に出す程の衝撃だったが、驚きはそれだけにとどまらないようだ。


(嘘だろ、なんてこった)

 

 鎖鎧の兵士だけでなく銀の甲冑を纏い、赤色のサーコートを羽織った者を視界に収めた瞬間、ポンの顔色は青くなる。彼らもまた、胸の前と右肩に杏葉牡丹の紋章を施している。


(銀甲冑に赤い長衣。兵士共の兜にも刻まれてる杏葉牡丹の紋章は、ガワラ王国の家紋。俺の記憶が正しければあれは、ガワラ王国軍朱の騎士団の騎士だ)

 

 ガワラ王国(あか)の騎士団。

 ポンの記憶が正しければ、彼がいた外世界の文明社会の頂に立っているガワラ・ダムドという王が治める、ガワラ王国の戦闘部隊に違いなかった。

 傭兵としてガワラ王国に雇われた経験のあるポンは、戦場で彼らの雄姿を間近に見たこともある。そして里を襲った集団の正体も、おのずと導き出された。


(なんてこった、朱の騎士団が兵士を指揮して、タコイの里を襲撃したきやがったのか。つまり、ガワラ王国は……)


 勘づいたポンの額から嫌な汗が流れた。

 朱の騎士団を擁するガワラ王国が版図拡大――もしくは何らかの目的のために、外世界からは基本的に聖域として扱われているタコイの里へ、攻め込んできたのだ。

 絶望するポンや里の民を注意深く見まわしていた騎士の一人が、部下の兵士に尋ねた。


「そっちはどうだ。例のモノをつけた民はいたか?」

「ダメです。連珠をつけた民はいません。この辺りに住んでる者の中にはいないのでは」


 彼らの会話の内容が耳に入ったポンは、侵略者達を見上げながらハッと思った。


(こいつら、神霊の降ろし手を探してるんじゃ!?)

 

 合点がいった。タコイ族の技術水準では作成できない連珠を首につけているのは、あの三人娘以外に他ならなかった。

 そしてポンが察した瞬間だった。生物の獰猛な唸り声が上から響いたのだ。


「――うぁッ!?」 

 

 空を見上げた里の者達の怯えた声が重なる。

 鳥獣とは似つかないケダモノの叫びだ。ポンも続けて夜空を見上げて目を剥いた。


「おいおい冗談だろ。何なんだよ、アレは」

 

 上空にタコイの民を震撼させた声の持ち主がいた。

 螺旋状の角を頭部から生やした、異形の四足獣が旋回しているのだ。空を飛ぶ化け物にはなんと人が乗っており、綱を引き操っているようだった。しかも離れた位置にも飛んでおり、計二体の化け物がいる。

 里の者は見たことのない怪物に恐怖していたが、外世界出身のポンは飛行する怪物にも、ソレを制する操者に関する知識があった。

 ポンは頭を抱えて、ガチガチと歯を震わせる。


(ガワラ王国軍だけじゃねぇ。鳥龍を操れる奴が、神人がいるなんてどうなってやがる! 畜生、あの森を迷わずに先導できるワケだッ)

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