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 とある夜のこと。建物の間を人影が空を飛んでいた。とはいっても、大した高さではない。全エリアに共通することで、浮遊都市法において重さの基準を満たした建物しか建てられないからだ。


「はぁ……」


 空を飛びながら、ため息を吐いていた。先日ヘクトールが現われるという情報を聞き、自分を含む上司の部隊がエリア三のコンテナ広場へと急行した。鬼と妖狐はやられたが、自分はヘクトール相手に互角以上に戦えたと実感があった。


 しかし相手はヘクトールではなかった。名を上げる千載一遇のチャンスだと思っていた期待が裏切られ、空しかったのだ。


「ホント、なんなのかしら」


 夜空を飛ぶ人影は、箒に腰掛けている。その姿は誰が見ても『魔女』であり、浮遊都市において尊敬されるべき存在だった。


 しかし、この魔女は決して満足できる待遇を受けていない。

 本来ならエリア一の豪邸に住み、政治への口出しもできるのが魔女だ。彼女も名門であるクリスティーナ家に生まれ、将来を期待されていた。


 だが、彼女の魔術は浮遊都市においてあまり実用的ではなかったのだ。炎こそ生み出せるが、他は浮遊都市において重要とはいえない。


 クリスティーナ家はそんな彼女を、ヘクトール逮捕のためブリシアに押し付けた。体のいい厄介払いである。

 空を飛ぶのだけは速いので、相手が誰だろうと逃がさない自信はある。だが小悪党をいくら捕まえようと、クリスティーナ家は認めてくれない。だからこそヘクトール逮捕に期待を寄せていたのだ。


「ん? 通信?」


 と、ポケットの通信端末が振動するので手に持つと、上司であるルーカスからだった。

 その内容を見て、彼女は目を輝かせた。


「ようやくアタシのパートナーが決まった!」


 ルーカスからは、紹介するから朝九時にエリア二のブリシア支部に来いと記されていた。鬼と妖狐のタッグがヘクトール対策として活動しているだけに、焦りがあったのだ。


 いったい、どのようなパートナーなのか。彼女は頭上のエリア一を見て物思いに耽る。


「必ず、認めさせますから……!」


 浮遊都市という社会に言ったのか、クリスティーナ家の両親に言ったのか。定かではないが、彼女は気合を入れ、夜のエリア二を巡回していた。



~~~




 明朝、ドアをノックし、彼女はルーカスの執務室へ入る。資料だらけの部屋に、頭を抱えているルーカスの姿があった。


「なにか、あったのでしょうか」


 魔女としてのプライドから、ただの人間には敬語など使わない。だがルーカスは、浮遊都市において遊撃部隊に任命されるほどであり、尊敬するに十分な人物である。


 いつものように丁寧な口調で話しかけたのだが、


「輸血液のパックなんて、どうやって仕入れたらいいんだよ……」

「輸血液? なにに使うのですか?」

「あぁ……あれだ。ヘクトール逮捕のための、飯と言えばいいのか……しかしあの野郎、血液型まで指定してやがる」

「あの野郎、とは」


 問いかけると、ルーカスは魔女のパートナーだと答えた。彼女に、一抹の不安が生じる。


「その、どういった方なのでしょう」


 聞くと、ヘクトール逮捕には欠かせない人物だと言われた。ホッと胸を撫で落とすと、ルーカスは席を立った。


「悪いが、俺はエリア一の本部で会議がある。そろそろアイツも来るはずだから、パートナーとして仲を深めておけよ?」


 それだけ言い残し、ルーカスは部屋を出た。時間は約束の五分前だが、眉間にしわが寄る。


(十分前行動も守れないの?)


 そう思っていると、執務室の扉が開く。赤い瞳が魔女の青い瞳と交差した。



~~~




 鉄格子の中で過ごすこと三日。骨折や火傷は完治した。


「お体の具合はどうでしょう」


 身体が動くことを確認していると、ルーカスの部下が一人、様子を見に来た。手には赤い液体の入るペットボトルを持っている。


「それは血か?」


 ようやく喉の渇きが潤せると期待したのだが、彼が渡したのは、ただのトマトジュースだった。


「あの、輸血液の仕入れは時間がかかるそうでして……」

「だからといって、なぜトマトジュースを……皮肉のつもりか?」

「す、すいません」


 恐れているのか。腰が引けている。


「それで、あの、お体の方は……」

「万全だ。今なら鉄格子を捻じ曲げることもできる」


 ヒッ、と恐れを露わにした彼に悪いことをしたと内心謝ってから、もう片方の手に持っているカードキーに目をやる。


 開けてもらうと、彼は通路の先を指差した。


「で、では、あちらにある執務室にルーカスさんはいますので……」


 そう言われ、メネスは鉄格子から出た。もう隠す必要もないのでフードを外して向かえば、なにやら悪態をつきながらルーカスが出てきた。


「どうした」


 ルーカスはメネスの顔を見て、なにやら難しい顔をする。


「二つ言っておかねぇとならないことがある」


 メネスが耳を貸せば、「まず一に」と人差し指を立てた。


「ここは病院じゃねぇ、ブリシアの支部だ。輸血液はもう少し我慢してもらうぜ?」


 そんなことか。メネスはどうでもいいような態度だ。


「元々そこまで期待していない。どうしても手に入らなければ、動物の血で補う」


 融通がきいて助かる。しかしもうひとつ立てた中指には、力がこもっていた。


「この中に、お前さんのパートナーがいる。だがな、お前さんからしたら会いたくない相手かもしれねぇ。それでも今回の捜査には役立つのは間違いない。だから……」

「いまさら文句を言うつもりはない。ヘクトールを殺すためなら悪魔とでも手を組む覚悟だ」


 ならいいんだが。ルーカスは心配するような目を向けながら、ふと腕時計を確認する。


「すまねぇが、俺は仕事でここを出る。夜には帰るが……仲良くしろよ?」


 馬鹿にされた気分だが、ひとまず了解と告げておいた。ルーカスが去ってから、執務室の扉を開ける。

 そこには青い瞳の女がいた。ずいぶん背が低く、体つきも女性にしては凹凸がない。


 しばらくの間、静寂が流れた。数舜の後、女が困惑する。


「なによ、アンタ……? なんでここにいるの……?」

「たしか、お前は……」


 コンテナ広場で空を飛んでいた魔女だ。無意識に身構えてしまう。魔女もまた、杖を手にした。


「死んでいないとは聞いてたけど、脱獄でもしてきたのかしら?」

「違う。とはいえ、そういうことか……」


 ルーカスはこの部屋の中にパートナーがいると言った。つまり、この魔女とタッグを組めということだろう。

 メネスは警戒を解き、戦う意思がないことを示す。だが魔女は、吸血鬼相手に警戒を解かない。仕方なく、ルーカスの名を出した。


「ヘクトール捜査で、パートナーがいると知らされていないか?」

「パートナー……? まさか、アンタが?」


 魔女は怪訝な顔をする。睨むようにメネスを青い瞳に映し、次第に顔を引きつらせていた。


「パートナーはヘクトール捜査に欠かせないとは聞いてたけど……え? ちょっと待って……」


 魔女はブツブツとなにかを繰り返している。しばらくして、肩を落とした。


「この私が、犯罪者とタッグを組むというの……?」

「犯罪者じゃないと言いたいが……そのようだな」


 魔女の中で、エリア一の両親に知られたらただでは済まないと危機感があった。頭を抱え、しばらく唸っている。

 メネスがなにを問いかけても反応しない。


(とはいえ、古風な魔女だな)


 コンテナ広場でも見たが、紫の長つば帽子をかぶり、黒いマントを羽織っている。茶色い髪は二つに縛り、前に流していた。左手には箒を持ち、もう片方にはタクトのような細い杖がある。

 しかし、なによりも体つきが目に付く。


「ずいぶんと若いな。まだ子供か?」


 メネスの言葉に、魔女はクワッと目を見開いた。


「火だるまにするわよ……!」


 火の玉を周囲に展開した魔女へ、メネスはたじろいだ。


「いや、あまり人と関わる生活をしていないものだからな。怒らせたのなら謝る」

「空獄の薬物中毒者でも、それくらいのコミュニケーション能力はあるわよ!」


 なんとも嫌われてしまったようだ。平謝りをするメネスへ、魔女は怒りを向けたままだ。


「アンタが男でアタシが女。それで互いに大人なら、もっと適する言葉があるんじゃないの?」


 メネスには大人の女性を怒らせた時の言葉など浮かばず、お手上げだった。


「すまない。多少の失言は許してくれ」


 結局そんなことしか言えなかったメネスへ、魔女もため息交じりに炎を消した。


「こんな奴が、ヘクトール逮捕に欠かせない人物? でもルーカスさんがミスをするとは思えないし……」

 

 ブツブツ繰り返す魔女だったが、やがてメネスを一瞥した。


「しばらく様子を見ることにすることにして……アンタの名前は?」

「人に名前を聞くときは自分からじゃないのか」

「いちいち面倒なやつね……まぁいいわ」


 一息つくと、魔女は名乗った。


「アリサ・クリスティーナよ。先に言っておくけど、出会ったばかりのアンタにクリスティーナ家について話したりはしないから」


 こいつもこいつで面倒くさい。メネスはそう思いながら、「メネス」とだけ答えた。


「……それだけ?」

「なにがだ」

「いや、名前よ。メネスだけってわけじゃないでしょう」


 言われ、メネスは口を閉じてしまう。知られると厄介な名前なのだ。

 結局アリサと同じく、「出会ったばかりの奴に詳しくは話さない」と返した。

 こんなことでやっていけるのかと不安に思ったが、アリサは気にしていないようだった。


「お互い家に事情があるのね。尚のこと、アタシについて語らなくて済むわ」


 そういうものなのだろうか。ともかくタッグが組めたと、肩の荷が下りたような気分だった。


「それにしてもアンタ……」


 アリサが顔を覗き込んでいた。

 なんだと聞く前に、「赤い瞳」と口にした。


「アンタ、ヘクトールに間違われたって聞いたけど……まさか、アンタも吸血鬼なの?」


 答えに窮するとはこのことか。吸血鬼はメネスとエミリー、そしてヘクトールくらいしか生き残っていない。そしてヘクトールは連続殺人犯だ。同じだと思われては、今後の活動に支障が出るだろう。


 けれども話さなければ、ブリシアの情報を閲覧することも難しくなる。

 聞き耳を立てている者がいないか確認してから、吸血鬼だと肯定した。


 すぐに無害な吸血鬼だと言おうとしたが、アリサは驚いたり怖がったりするのではなく、「ふぅん」と腕を組んで、どこか喜んでいる様子だった。


「ダメかって思ったけど、意外といいパートナーかもね」


 なぜか喜ぶアリサへ、メネスは問いかけた。「怖くないのか」と。

 歴史から見ても、吸血鬼は恐怖を抱かれる存在だ。まだ地上で暮らしていた頃から変わりなく、人の血を奪い、殺す化け物だ。ヘクトールもいるので、尚更怖がられると思っていたのだが、アリサは気にも留めていないようだ。


「聞いてるかもしれないけど、吸血鬼の情報は少ないの。アンタの扱いようによっては、アタシだけが吸血鬼について詳しく知れる。怖がるなんて損じゃない」


 人を物のように言う奴だ。不快感はあるが、メネスは「情報ならくれてやる」と言った。


「その代わりに、一つ条件がある」

「なにかしら?」

「ヘクトールは、俺が殺す」


 殺すと聞いて、アリサは眉をひそめた。


「アタシたちの仕事は捕まえることよ。その先は裁判で決める。情報は欲しいけど、私の一存で社会のルールを変えたりはできないわ」

「問題ない。ルーカスの許可は出ている」

「……そう。あの人なら、誤魔化せる、か――」

「了承ということでいいか?」

「構わないわ。正直この社会にはウンザリしてるし。けど、一ついいかしら」

「なんだ」


 アリサは少し言葉を探すように口を閉じてから、ストレートに聞いた。「なぜ殺すのか」と。メネスにとって、とても簡単な質問だった。


「俺はこの二年、奴に復讐するためだけに生きてきたからだ」


 復讐。単純だが殺伐とした理由に、アリサは押し黙る。しかしメネスの殺意が籠る瞳を見て、肩をすくめる。


「わかったわ、復讐者さん。アンタの復讐なんて興味ないけど、パートナーとして情報共有は頼むわよ」


 言われるまでもない。互いの条件が通ると、まずは資料を閲覧したい旨を伝えた。


「なら資料室ね。ついてきて」


 すぐに案内すると、執務室を出る。吸血鬼が後ろにいるというのに、無防備だ。


「本当に、俺が怖くないのか」


 振り返ったアリサは、「またその話題?」と呆れていた。だがメネスは自らの胸を叩いた。


「俺の体を流れるのは、ヘクトールと同じ吸血鬼の血だ。人を食い物にし、夜の闇に潜む化け物だ。パートナーとはいえ、普通なら警戒するものじゃないのか」


 メネスの言葉を受け、アリサは数舜考えると、両手を広げて自嘲気味に笑った。


「今は危険を承知でヘクトールを捕まえないといけないのよ。なにもかも、アタシのためにね。いちいち警戒してたらキリがないわ」


 見た目にそぐわず、神経は図太いようだ。メネスも気にし過ぎたかと思いなおし、アリサに続いた。

 その道中、アリサはこのブリシア支部について簡単な説明を始めた。


「エリア二にあるこの支部は、エリア一にある本部から派遣された人ばかりよ。ルーカスさんはヘクトール捜査のために半年くらい前から派遣されてたらしいけど、アタシとか、他の二人のオパーズは一か月くらい前に派遣されたわ」


 話を聞きつつ、エレベーターに乗り、地下へ。大きな鉄の扉を前にすると、アリサはカードキーを通して開けた。


 中には、身の丈以上の棚が何列も並んでいる。


「本当は紙媒体じゃなくUSBの中に保存したいらしいけど、知っての通り、浮遊都市は建造百五十年目で、ようやく旧文明の技術に追いついたの。だからデータ化が間に合わなかった資料はここにまとめてあるわけ」


 メネスは数歩中へ進むと、クリアファイルの並ぶ棚を見た。


「年代別に並べてあるのか」


 頷くアリサへ、メネスは二年前からの資料はどこにあるか聞いた。ヘクトールが活動を開始したのが二年前なのだ。


(他の『なにもかも』が始まったのも、二年前か……)


「せっかく案内したのに、なんで暗い顔してんのよ」

「気にするな」


 すぐに気を張り直し、一つ一つ資料を手にする。開いては閉じ、目当ての物を探していると、一つの資料に目を奪われた。


 固まってしまったメネスへ、アリサが背伸びして資料の中身を覗く。


「『レムレース』逮捕の事件ね……なにか気になることがあるのかしら?」

「いや……これは、もういい」


 『レムレース』。それは、二年前にオパーズを扇動し人間へ戦いを挑んだ化け物だ。オパーズという造語をなくし、化け物による社会を創る。


 人間たちは揃って牙を剥いたオパーズとにらみ合いの事態になり、武力衝突も起きていた。が、資料にもあるが、『ブラッドルフ』の名で呼ばれたオパーズが人間と手を組んだことにより、レムレースは追い詰められ、捕まり処刑された。


 もう関係のないことだ。資料を戻そうとして、ページの端にある名前が目に留まった。


「ルーカス・アレッシオ……? まさか、レムレース逮捕に協力していた人間は……」

「ご明察。奇跡の逮捕劇とまで言われる偉業を成したのは、ルーカスさんよ。この前も、アンタたち吸血鬼が使う能力を分析して、それに対するスーツまで作ったんだから」


 遊撃部隊とは聞いていたが、まさかこれほどとは。それに、レイス対策のスーツまで作るとは。資料を棚に戻し、ルーカスの有用性を頭の片隅に留めておく。


 そうしてまたいくつか資料を見ていくと、思わず凝視してしまう事件が二つ並んでいた。

 別に要らない資料だ。だが、自然と開いてしまう。資料を捲ろうとする手が震えているのを見て、アリサがサッサとするように言った。


「なにかの役立つんでしょ? とっとと見なさいよ」

「……ああ」


 正直見たくない。それでも、メネスは開いてしまう。一つ目の資料は、二年前のバレンタインの日付だ。レムレース逮捕に尽力したブラッドルフが、何者かに襲われて惨殺されたという未解決事件。もう一つは、エリア一に住む大富豪シルトベイル家長女の失踪事件だ。その二つに、いつしか途方もない怒りと悲しみを感じていた。


「もう、いい」


 二つの資料を戻すと、暗い顔で部屋を出て行った。追いかけてくるアリサは乱暴にメネスの肩を叩いた。


「せっかく人が案内したのに、なんなのよ!」

「すまない。だが、俺はまだ……」


 過去と向き合えていない。その言葉は飲み込まれてしまった。出会って数十分だが、アリサもメネスが苦しんでいることに気づく。


 どうしたものかと悩むアリサは、ふと口にした。「ヘクトールがなにか残していないのか」と。


「資料がダメなら、アンタの経験に頼るわ。二年も殺そうとしてたんでしょう? なんかあるんじゃないの?」


 残していたもの。あるとしたら、ダイヤのジャックだろうか。しかし、コンテナ広場にはなかった――いや、


「手紙がある……!」


 手紙? と聞き返すアリサへ、押収品はどこにあるか問う。どうやら、執務室の隅にあるようだ。


「すぐに戻るぞ」


 足早にメネスはアリサを連れて執務室に戻ってきた。押収品を漁ると、一枚の便箋が出てくる。開くと、ヘクトールからのメッセージがある。

途中からおいていかれたアリサは怒りながらも、手紙を見た。なにか言う前に、メネスが口にする。ヘクトールの残した手紙だと。



『今までの追いかけっこは楽しめたかな? 別に君がどう思っていようと関係ないんだけど、そろそろボクは飽きちゃってね。改めてゲームを始めようと思う。頭を使ったゲームをしたいんだけど、まずはチュートリアルをクリアしてもらえるかな。クリアしたら、親愛なる友人を訪ねるように』



 チュートリアルとは、おそらくコンテナ広場から逃げることだ。そのために、わざわざあのような矢印と死体の残るゲームのようなフィールドを作った。


「ゲームの始まり?」


 横から見ているアリサは首を傾げていた。ところが少し考えこむと、「なるほどね」と頷いている。


「なにかわかったのか」


 アリサは簡単なことだと口にした。


「今までの調べでわかっていることだけど、ヘクトールはただの殺人鬼じゃないの。わざとブリシアに見つかるようにしては逃げる愉快犯だわ。でも今まで、メッセージを残すなんてなかった。そんな時に、アンタへ向けてゲームなんてものを始めるのなら、答えは一つよ」


 メネスは聞き入ると、アリサは「ヘクトールはこの時を待っていた」と推理する。


「もちろん犯罪者の考える事なんて正確にはわからないわ。だけど、これは事件が始まって初めての個人へ向けてのメッセージ。これから先、アンタを相手にゲームって名前の犯罪を始めるんでしょ」


 その通りではある。そのゲームをしようとする愉快犯故の思考により、ヘクトールの尻尾を掴めたのかもしれない。


「なにか心当たりはあるかしら?」


 アリサの問いに、メネスは手紙を読み返す。すると、一つ疑問点が浮かび上がった。


「親愛なる友人……」


 ヘクトールはメネスの行動を知っていた。どこかで、メネスがコンテナ広場に向かうと知ったのだ――いや、手紙を用意して貼り付け、メネスが来る前に立ち去ったことから、向かう前から、更に言うならメネスがあの情報を知ることまで知っていた。


 それはすべて、エミリーを通したからだ。メネスとヘクトールは、エミリーを介して繋がっていたのだ。


「手がかりがつかめた。場所はエリア三のバーだ」


 メネスの顔に覇気が戻った。アリサもどこか安心すると、早速向かうことになる。


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