序章
「サイアク.....」
僕は小さく溜息をつく。
下を向いていた顔を上げ、先程よりも強くなっている雨空を見上げた。
はぁ、と、今度は横にいるやつに聞こえるように大きく息を吐いた。
「そんな辛気臭い顔すんなってー!」
と、横に立つ少年__僕の双子の弟だ__が、ケラケラ笑いながら言った
「誰のせいだと....??」
「え?俺」
呆れて物も言えない。
僕の名前は市ノ江宙。
横の能天気な奴は市ノ江陸だ。
成績も普通。運動神経は陸が皆んなより頭一つ抜けているぐらい。
一見、何処にでもいる様な“普通”の双子。
だが、僕らには誰にも言えない秘密があった。
「大体、学校の裏で瞬間移動すりゃ良かったのによー、宙が止めるから...」
「当たり前だ。誰かに見られていたらどうする?」
「んな誰も見てないっつーの!」
「万が一ということもあるだろ!」
そう。
僕らは俗に言う超能力者__
と言っても、使える能力は一つそれぞれ一つだけだが。
僕が使えるのは「千里眼」
未来、遠くの物、なんだって見れる。
陸が使えるのは「瞬間移動」
一度自分が行った場所なら、何処にだって飛べる優れものだ。
この能力のせいで随分苦労した。
最初、お互いに能力を自覚した時、親に自慢しようとする陸を必死に止め、誰にも言わない様に箝口令を敷いた。
最初陸はブーブー文句を言っていたが、万が一親や周りに知れた時、研究施設などに連れていかれて一生遊べなくなると若干脅せば、渋々ながらも納得してくれた。
それにしてもよー、と、陸は切り出す。
「なんだ?」
「いや...なんで俺らこんな能力持ってんだろうな?」
「.....確かにな」
雨足が強まる中、いつになく真剣な声で言った陸。
“何故僕等なのか”
それは、常日頃から考えていたことだった。
偶々、と言った言葉で片付けて仕舞えば楽だが、偶然だけで済む事じゃないことぐらい、高校生になった今では十分すぎる程理解していた。
暫く、僕らは無言になる。
「あーもう!埒あかねえ!!
おい宙、走んぞ!!」
「は!?走るって..ちょっ、ま、!」
脇目も振らずに飛び出した陸。
お前方向音痴だろうが!!と、僕は慌てて追いかける。
バカみたいな日々。
これが何時迄も続く、続けばいい。
そう、思っていた
「「此処、何処だ....」」
流石陸。と言ったところだろうか。
普段引きこもってばっかの僕は追いかけるので精一杯で、いつのまにか全く知らない道に出ていた事など一切気付かず、気付けば2人で森の中に突っ立っていた。
思わず天を仰ぎ、大きく息を吐く。
そして、言った。
「この馬鹿が!!!!」
「今回ばかりはすまん!!!」
陸の胸ぐらを思いっきり掴み、怒鳴る。
すると珍しく、素直に謝ってきた。
正直怒りは収まらないが、いつまでも怒っていても仕方がない
止めずについていった僕も僕だし。
ああぁ〜....と、思わずその場に蹲る。
やらかした。僕がついていながらこんな事態になるとは....優等生の名が廃る。
「お前の千里眼で此処が何処か見れねぇの?」
そう尋ねてくる陸。
そうか、その手があったか。
いつもは「使わない事」を前提にしているから、わざわざ使うという発想がなかった。
僕は、目を瞑り、水を浸透させるイメージで、能力を発動する。
何時もだったら、目の前に地図の様なものが現れ、大体の自分の居場所がわかる。
の、だが__...
「能力が...発動しない、?」
「はぁ!?」
いつまでたっても目の前は暗いままで、恐る恐る目を開くと、そこはまだ森の中で、
「いやいやいやいや、ちょっと待って、」
「おっかしいなー、目は青くなってるから、発動してるはずだぜ?」
「もしかしたら、調子が悪いのかも知れない...
陸のを使ってみてくれ」
おう。威勢のいい返事とともに、パチパチと2回瞬きをする陸。
2回目の瞬きで、陸の目は緑色に光った。
そのまま暫く静止していた、が。
「__っだめだ出来ねぇ!!」
「やっぱりか....」
陸の目は緑色のまま__つまり、能力は確実に発動している。
なのに何故、効果がないのか。
「何者かに邪魔されている、か?」
「はぁ?っつーことは、俺らと同じような能力を持つ奴が他にもいるってことかよ!?」
「まだ確定したわけじゃないけど...」
んだよそれ!!と、頭をぐしゃぐしゃと掻き毟る陸。
兎に角、この場から離れよう。そう言おうと思い、陸の方を振り返ると、
「おい、あれ...」
ぽかんとした....まぁ、なんとも間抜けな顔をした陸の指を指す方を見たら、
そこには、
「...は?店...?」
森の中に佇む、不思議な店があった。
これが僕らと、その本屋との、摩訶不思議な出会いだった。
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市ノ江 宙
自称「優等生」
猪突猛進タイプの陸に振り回されている。
能力「千里眼」
発動時目が青く光る
市ノ江 陸
運動神経抜群の、クラスに1人はいる目立つ奴。
能力「瞬間移動」
発動時目が緑色に光る