自分の本性
最初のクエストはゴブリン3匹だ。
戦闘経験を積むのにいい相手かもしれない。
獣型の魔物って素早さと攻撃力が高いのが多い、戦闘経験が少ないと対処がやり難いかも。
そろそろ、以前俺が狩ったところであるゴブリンの住処に近づいてく。
ヒナは普通に私たちの前で歩いていて、ウィンは足取りが重い。
おそらく初めての戦闘で緊張しているであろう。
「ヒナちゃんは緊張してないの?」
「大丈夫です!故郷にいた時に自警団に所属してましたから、Fランクの魔物は余裕だと思います!」
「へぇー、ヒナちゃんは頼もしいね」
「そうですか?えへへ。 ウィン、私とアリシアさんがいるから安心していいよ」
「……う、うん。私も頑張って援護するね」
ヒナちゃんの笑顔は太陽に明るく暖かく、何だか元気を貰えるような気がした。
そしてゴブリンの住処の前まで来る。
見張りであろうゴブリンの三組が現れた。
「ゴブリンは火に弱いからヒナちゃんは有利だけど、集団行動してるから囲まれないようにウィンちゃんが援護してね」
「は、はい」
「そして前衛のヒナは遠距離攻撃に気を付けて」
「はい!」
「遠距離武器を持ってたゴブリンがいたら、優先的に狙うね」
「お願いウィン」
ウィンは無言で頷き、覚悟を決める。
ヒナも剣を抜いて構えて、ゴブリンに突進して斬りかかる。
「えっ、ちょ!?」
突進による襲撃っ!?
「ピギャッ!?」
死角から現れたヒナに驚いて襲撃に備えきれずに、一匹がまともに攻撃を喰らってしまう。
そのまま二撃目でもう一匹を斬る。
三撃目で盾に防御されて、反撃で棍棒を振り下ろす。
だが、振り下ろす前に横に吹き飛ばされる。
これはウィンの風魔法による援護だ。
一匹目の断末魔によって、近くに居た見張り達、二組がヒナを囲うように集まってきた。
「大丈夫、私とウィンなら行ける!」
構えてた剣の刀身に火魔法で点火して炎を纏わせる。
そして、ウィンが風魔法でヒナの剣を強化させる。
「これが私の必殺技、”大炎斬”」
ヒナは円を描くように斬って、ヒナを囲んでいるゴブリン達を一掃する。
見張り達は全滅する。
「ヒナちゃん強いね。そして技術もなかなかの威力」
「……アーツってなんですか?」
技術もないってことか?
俺が伝えても、使えないから教えることもできないし、やめとこ。
「う、うん。何でもないよ?」
「……そうですか」
しかもヒナちゃんは無意識に攻撃魔法”火生成”と技術”円斬”を組み合わせたやつ。
あれはジョブ【魔法剣士】になることで習得が可能になるスキル《魔法連結Ⅰ》を使わないといけない。
これはゲームの知識だけで、この世界にスキルという概念がないかも知れない。
そして、ウィンちゃんは攻撃魔法”火生成”を対象にして風を送って威力を増幅させた。
もしヒナちゃんがジョブ【魔法剣士】だったら、パーティに壁役が必要になる。
魔法剣士は魔法と技術を使って高ダメージを与える職業で、すぐに狙われ率を稼いでしまう。
なので、魔法のMPと技術のスタミナの二つを同時に消費する魔法剣士は容易に攻撃を繰り出せない。
もし、外の音に嗅ぎつけて住処にいるゴブリン共が外に出たらヒナちゃんは殺される。
「討伐分は倒したから、すぐにゴブリンの耳を切り取って撤退するよ」
「は、はい!」
「…はい」
俺の思惑が最悪の方に実現する。
◇
住処から現れた、オオカミに乗ったゴブリン――ゴブリンライダーがすぐにヒナちゃんを囲む。
その後、ヒナちゃんとウィンちゃんが次々と住処から出てくるゴブリンと戦闘していた。
見張りにいたゴブリンと違って苦戦しているようだ。
ここぞという時に技術を使ってるが、ほとんど剣技で対応している。
技術は魔法と違ってスタミナを消費するから消費するたびに動きに鈍くなる。
「はぁ…はぁ…、数が多すぎて対処ができないよ……」
「そろそろ魔法を唱えられないかも……」
ゴブリンが倒されるなか、ドスドス地鳴りが響きながら住処から現れたのが、ゴブリンの王――ゴブリンロードだ。
「ゴブリンロードっ!? こんな町近くに生息しているなんて」
「ヒナ、逃げないとっ!」
「ヒナちゃん間に合わない!」
ヒナちゃんが対処できずにゴブリンロードが目の前まで着て、拳を振り下ろす。
「”速効結界”」
俺は直ぐにヒナちゃんに防御魔法を掛ける。
詠唱は速いが脆い防御だが、ゴブリンロード程度の攻撃なら十分だ。
ゴブリンロードの重い拳を振り下ろしたが、見えない壁によって弾かれる。
「ここは全て私が対処するから、二人とも逃げて!」
「でも……」
「ヒナちゃん達は強いけどまだゴブリンロードには勝てない。私に任せて」
「アリシアさん……」
「”防御力上昇”。 これなら安全に逃げられるよ」
この子達を安全に帰すことが私の役目。
二人に支援魔法を掛ける。
そして俺がゴブリンロードの前に出て、自分にヘイトを向かわせる。
「”自動照準”、”範囲化”、”稲妻”」
俺を囲うように魔法陣が出現して、そこから同時に電撃を放つ。
探知魔法、支援魔法、攻撃魔法の3つを唱えて、俺を囲うように魔法陣が出現してそこから同時に電撃を放ちゴブリンロードの取り巻きを瞬殺する。
一瞬のことでゴブリンロードは動けずにいた。
「ナ、ナンダ、オマエ」
「私はあの子達の教育係。そして最強のアイドル」
「っ! サイキョウハオレダ!」
最強と名乗ったのが癇に障ったのか激昂して、俺に向かって拳を振り下ろす。
だが、その拳は俺に届かなかった。
振り下ろす前に杖によって腕を抑えられている。
「グッ!? ウ、ウゴカネェ。 ドウイウコトダ」
「知らなくていいよ」
そう言い、杖を一度引いてゴブリンロードの胴体に目掛けて振る。
クリティカルヒットして蹲る。
「これを倒せばランクが上がって報酬量があるのではないだろうか」と思い、蹲って頭の位置が下がっている今、止めを刺すために杖を振り下ろす。
「な、なに!?」
それは突如陰から目では負えない速度で現れ、持っていた二刀の短剣によって攻撃を防がれたのだ。
その者は長く麗しい白銀の髪に真紅の瞳、これだけで印象を残せるがそれ以上に頭部には真っ黒の渦巻いている角が衝撃を齎す。
魔族……。
珍しい種族だな。
「このゴブリンロードは私の獲物、前から狙っていた」
前から狙っていた?
何で先にゴブリンの住処に襲撃しなかったの?
「あっそう?なら譲るね」
「いいの?」
「ゴブリンロード程度、構わないよ」
「そう、感謝する」
「だけど、条件付きね」
「……条件ですか?」
「普通の人間なら吹っ飛ばせることが出来る一撃を弾くなんて、あなた凄いね。 私、あなたと戦いたいなぁ」
「もしかして、あなた戦闘狂?」
「そうかもね。強そうな相手が居たら戦ってみたいと心が疼いたの」
ゲームでは、俺の物理攻撃の一撃は推奨レベル40までならダメージが与えられるほどの攻撃力を持つ。
これはレベルによるステータスの差だ。
だが彼女は、攻撃を防いだ時ダメージを喰らっている気がしなかった。
もしかしたら、高レベルによるある程度の防御力か、防御特化の職業なのか、それとも習得スキル《物理攻撃耐性Ⅲ》以上持ち。
あれを見た時は防御特化の職業には見えなかった。
つまり、高ステータス持ちかスキルでカバーできるほどの実力者。
「分かった。その条件なら、もし死んでも後悔しないでね」
「強気だね。今の一撃を防いで並みの人間以上の実力を持つと分かっていても、私を殺すことが出来ると発言できるのね」
「あの程度大したことない」
「それは楽しみ」
これはPVPをやってた時の闘志が、また味わえるなんて……。
そう思った瞬間、心に痛みを感じた。
そうか、エンジョイ勢って言い張ってたのは戦闘に勝てない言い訳なんだ。
エンジョイ勢ならPVPの大会なんか出ないもんね……。
だから最初、冒険者ギルドで杖を振り回したとき人を吹っ飛ばせられるほどの力の差を感じた時はこの世界に落胆したんだ。
でも、今は目の前にいるのはそれなりに強い人だと思う。
戦って無双して、愉悦を味わいたい。
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