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【江戸時代小説/仇討ち編】

【江戸時代小説/仇討ち編】小料理茶屋の悲劇

作者: 穂高

浅草の矢場に小梅(こうめ)という看板娘がいた。これがまた、えらくべっぴん。

 團十郎(だんじゅうろう)という男が小梅に惚れ、小梅が働く矢場(楊弓場)へ足繁(あししげ)く通った。

 最初は客の一人として扱っていた小梅だったが、團十郎のあまりの求婚気にいつしかふたりは水茶屋で媾合(あいびき)するようになった。

 團十郎は小梅と夫婦(みょうと)になる前提の付き合いでいるのだとは思いながら、亡き父親へ念が頭をもたげる。

 團十郎は父親を岩永八門(いわながはちもん)という無心流の達人に斬り殺された過去がある。そもそも、その仇討ちで江戸にやって来ていた。小梅とどうこうなるにしろ、まずは本懐(ほんかい)を遂げねばならない。

 しかし、仇はなかなか見つからない。それが一般的で、中には五十年あまりもの人生をかけて仇を捜したというのも江戸時代の資料には残っている。

 ある日、小梅がいきなり料理茶屋に行きたいと言い出した。料理茶屋といえば今でいう高級料亭である。

 小梅は男共が振り返って見るほどべっぴんなので、料理茶屋とまではいかないまでも、小料理茶屋(少し高級な出合茶屋)に連れてゆくのも、金はかかるがこのときばかりはそう悪くないと思った。

 これが團十郎の運命を左右する。

 料理茶屋に着いた團十郎は、小梅と事に至る前、もよおしたために(かわや)へ行くと、そこでばったり仇の八門と遭遇したのである。

 しかし相手は(はばか)りの最中。こちらにはまったく気がついていない。仇を討つ絶好の機会ではあるが、肝心の刀は部屋に置いたままだった。今持っているのは懐剣のみ。

 團十郎は早々と用を足して、こっそり八門の後をつけ、部屋を確かめることにした。

 ところが、すれ違いざま男の(ふところ)から音がした。銭が擦れる音だった。しかも、布生地が重そうに垂れているのを團十郎は見逃さなかった。金はあってもあっても困らない。

 (のど)から手が出るほどその金が欲しくなった團十郎は欲に()られて、今このとき、背後からならその首が取れると思った。

 懐剣を抜き勢いよく突きにかかる。

 しかし、思うようにいかないのが人生。

 気配を悟った八門が身をかわしたので、團十郎の懐剣は八門の肉身に届くことなく空を突き、團十郎は自ら八門の間合いに飛び込む形となった。それを八門が見逃すはずもなく、團十郎は胴を斬られ、(ひざ)から崩れ落ち、やがて事切れたのだった。


 おわり

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