176- 1億の内訳
「~♪ ~♪ バイタル安定、脳波異常なし。 義肢の故障も見られないし…… パーフェクト!」
普段手足がある部分に蓋のようなものがされ、そこから大型の機械につながれています。
先生の顔は見せませんが声からしてよさげです。
「これで終わりですか?」
「まだまだ。 精密検査も残ってるし手足の修理もしなくちゃ。 とりあえず1日入院かなぁ?」
一日……
サブリーダーと会う予定が……
「――後に回せませんか? それ」
「ちょっときついかな? 何か用事?」
「えぇ、まぁ。 その…… ゲームで」
「VRゲーム? 何やってるの?」
「アナザーコスモスです。 人と会う約束をしてまして」
「あれかぁ」
「その会う人って言うのが結構大切な人で…… 家にゲーム機があるから帰れないかなーって思いまして」
「そのマシンでVR接続できたはずだよ?」
「へ?」
この手足につながったマシンで?
先生から詳しく聞くとこれにヘルメット型の機械を接続することでできるようになるとのこと。
――こんなすぐに持ってこれたことから先生のサボリ疑惑が出ましたがまぁ、おいておきましょう。
「スペックは少なくとも一般販売以上! 大学様様だねぇ、私も結構使うけどすごいよ」
サボりが確定しましたね。
「アナザーコスモスも確か入ってたはずだし…… これで文句はあるまい」
「完璧じゃないですか。 それじゃあ先生、よろしくお願いします」
「まっかせなさい」
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私の隣で先生がパソコンとにらめっこしています。
「そういえば義肢の値段1億についてですけど実際どうなってるんです?」
「手術費が大体2000万ぐらい?」
「ということはこの義肢の値段も8000万ぐらいってことですか」
「いや、義肢自体は結構安くて500万ぐらいだよ?」
「――残りは?」
ちょろまかし?
ちょーっとシャレにならない桁ですよ?
「香衣の電脳脊髄が6000万で電脳義肢が残りかな?」
電脳脊髄。
先生が言うには私の背中から飛び出ている銀色の山、これが電脳脊髄らしいです。
電脳義肢をスムーズに使えるようにするのはもちろんですが、どちらかというと事故でぐしゃぐしゃになった脊髄の保護が目的なのだと。
そして電脳義肢は肩と腰についている肉体と機械の境界となる義肢のことのようで、動かす手足とは別勘定らしいですね。
道理で安かったわけだ。
因みに余談ですが電脳義肢を使えば触手も動かせるとかなんとか。
何に使うんですかね?
「運び込まれたときは生きているのが不思議なくらいだもん。 まともに治療してたら歩くどころか植物状態で奇跡って言われてるかも」
「自分が言うのもなんですがよく生きてましたね、私」
「どういう状態だったかは聞かない方がいいかなぁ? ――そういえば美空ちゃんは大丈夫?」
「何故?」
「だってほら、目の前で友達がぐしゃぐしゃになるところを見たうえで1億を私の所に持ってきたんだよ? 結構な回数のカウンセリングもしたけど…… 実際の所は分からないから」
「元気に生活してますよ。 あーでもゲームの時は少し違いますね」
「どんな感じ?」
「私の腕や足がもげると途端に吐き出したり暴れたりします。 やっぱりトラウマなんでしょう」
「ゲームにも苦労するとは大変だねぇ」
「でもそのおかげで私がいるんです」
「美空に感謝するんだね。 ――返しきれるかは知らないけど」
「――はい」




