12- 意外と便利な代物
美空視点です
―――遅い。
私、美空は朝8時に香衣と待ち合わせをして学校に行くことにしている。
昨日あげたゲームにのめりこみすぎて寝坊しているのだったら可愛いものだが、最悪の状況だと少々笑えない。
「――行くか!」
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「香衣- 起きてるー?」
私は香衣の家の合鍵を使い家に入り、香衣の部屋に行く。
「あ、美空さん、おはようございます」
「あ、うんおはよう…… じゃなくて!」
部屋に入るとVRの装置を付けたまま仰向けの香衣がベッドの上にいた。
妙に堂々としてるのは義肢の電池切れで完全に動けないからかな?
「自分で外してベッドの下の充電パッドに置けばいいのに」
「あれ痛いから嫌なんですよ。 接続部分で動くからズキズキして」
「確かに前にもそんなこと言ってたね」
私が来なかったらどうするつもりだったんだろう。
流石に自分で外して充電するか。
「それじゃあ外すからロック外して」
「はい」
普通の充電なら外さなくてもいいが高速充電だと外して連結部分に直接充電コネクタを刺す必要がある。
学校に遅刻してしまうので早くしなければ。
こうしてみるとすべての義肢を外した香衣の姿はなかなかに痛々しい。
「ごめんね…… 私の……」
「そんな顔しないでくださいよ。 結構気に入ってるんですよ? あれ」
「そっか。 ありがと」
そういってくれるとこっちも軽くなる。
2、3分したころで充電コネクタからアラームが鳴った。
「充電終わったし早く学校行こうか」
「そうしましょう」
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「ところでさ、そのトーストどうしたの?」
私が香衣の準備を待っていると、ドアからトーストをくわえた香衣が出てきた。
「焼きました」
「焼いたって…… 時間大丈夫?」
少しのんびりしすぎでは?
「ふごふご」
「飲み込んでからしゃべりなさいよ……」
「んっ。 大丈夫です。 おぶっていきますよ」
「おぶってって、え?」
「大丈夫です。 リミッターなら外してあります」
「そういうことじゃなくてぇ!」
私は香衣の背中におぶられてしまった。
というか掴む力強すぎ!
腕の力のリミッターまで外してあるの!?
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一言でいえばめちゃくちゃ怖かった。
おぶられているから落ちることはないとは言え、車並みの速度のパルクールで学校まで1直線で来たんだから。
「勝手にリミッター外すなってあれほど言ってるのに……」
「まあ間に合いましたしいいじゃないですか」
時計を見ると8時50分、普通に行くと9時頃に着くので普段より早いぐらいだ。
「そうだけど! そうじゃない!」
「まぁまぁ」
「なんかはぐらかされた気分」
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放課後、下校中に香衣とだべっていた。
もちろん担がれてパルクール中などではない。
「昨日あげたゲームどうだった? 充電切れまでやってるくらいだから結構はまったんだろうけど」
「なかなか楽しかったですよ。 今までやったゲームよりかは苦手ではないですね」
「香衣の苦手って単純にやることが制限されることだからでしょ? まあだからアナザーコスモスを選んだんだけどさ。 あの天使相手に一人で戦いに行って倒しちゃうんだから」
実はこっそりと動画を取ってログアウトした後見たのだが、なかなかにすさまじかった。
普通の初心者パーティならあの羽に対応できずに落ちるのがテンプレなのにあれに対応してしまうのだから。
やっぱり四六時中脳波を使ってリミッターの外れた腕や足を使っているとアナザーコスモス内でもあの動きのイメージができてるんだろうね。
流石に制限があるとはいえ常時リミッター解除状態となるとなかなかに恐ろしいが。
「あ、そうだ。 ちょっと聞きたいことがあるんでした」
「ん? 何? 何か面白いアイテムでも手に入れた?」
早速レアアイテムとは流石。
将来有望な新人で何より。
「この義肢の1億円を出したのってあなたですよね? 元最強さん?」
以下余談
香衣の義肢スペック
お値段はおよそ1億円
安全装置とリミッターが別物として存在している
リミッターは作中の通りにすごいスピードで走ったり掴んだり飛んだりできる。
安全装置は今掴んでいるものを適した力で操作するための物。
これがあるおかげでリミッターを外した義肢と握手しても潰れない。
だけど腕相撲は負ける。
色も自由に変更可能
香衣は普段はこの機能を使わず、機械色で生活している。
プールや銭湯の時だけは肌色に変更している




