1.いつもの
「・・・・お客さん、どうしてスチウム型バッテリーを上下逆に取り付けたんです?どう考えても形からしても合わないし無理やり取り付けた時に違和感とか感じなかったんですか?これじゃあ動いてもエネルギーが漏れて即部品がオシャカになりますよ」
目の前にいるど素人のおっさんにたいしてそう言い放つ、こんな無茶苦茶をしたらそりゃシールドが起動しないしバッテリーが壊れるのも当たり前である。
「うるせなぁ、俺だって自分で修理したくなかったんだよ、でも海賊共に追われてシールドが剥がれて・・・どうにか無理やりワープして逃げたのはいいもののシールドはつかねぇわエンジンの調子もおかしいわで、ここまでこれたのも運がよかったんだよ。」
スキンヘッドに宇宙装甲服を着こんだ男は頭を掻きながらそうぼやく、そして再び口を開くと。
「で、どれぐらい早く修理できそうだ?あと費用はどんぐらいかかる?安く頼むぜ?、さっさと賞金を稼ぐために宇宙に戻らないといけねぇ。」
いつも通りに早く、そして安くの注文だ、『いつもの』ということが分かっていても気がめいってくる
「修理には最低でも数ヶ月以上かかります、そもそも壊れてるのはシールドバッテリーだけじゃなくてジェネレーターとパワー調整器もですね・・・おまけに無理やりワープしたからエンジンもボロボロで交換必須、船体装甲もあちこち穴だらけで張り替えないといけないし、配電部分も老朽化して傷んでます、冷却ラジエーターに中古品を使いましたね?無理やり性能を上げて使っているせいで壊れています、こいつも交換しないといけない、定期メンテナンスもまともにしてなかったんじゃないですか?他にもガタが来ているところなんて山ほどありますよ・・・・」
ドローンでざっとスキャンしただけでも頭が痛くなるほどの修理箇所がでてくる、十や二十じゃきかないほどにだ、それを確認しながら見積もりを書き出していく。
「数か月だぁ!?無茶苦茶言ってんじゃねぇぞ、そんなに待ってられるか!」
耳元で思いっきり叫ばれる、毎回毎回こんな客ばかりだ、頭が痛くなる。
「手早く直してもらわなきゃこまるんだよ!ちょうど賞金額の高い獲物がシュラトルの輸送船襲いに拠点を構えてるんだ、このチャンスをのがすわけにゃいかないんだよ!」
ぎゃいぎゃいと叫ばれながら手元のタブレットを動かしざっくりとした見積もりを立てる、シュラトルの企業採掘船を襲いに来てる連中がいるらしい、最近賞金稼ぎがまた増えだしてるのはそのせいか?
いや、そうでもないな、元から賞金稼ぎや傭兵が多いのはいつものことだ。
計算を終わらせ相手に画面を見せる、見積額を見た相手はぎょっとした目でそれを見つめる。
「う、嘘だろおい、2000万Lとかまじで言ってんのかお前!?たかが宇宙船一隻の修理でだぞ!?」
「これでも値段を抑えた方です、ほぼほぼ交換しなきゃいけない場所が多いですし、海賊とやりあうのに通常の宇宙船装甲しか装備していないなんて危険すぎます、最低でもトラジア型複合装甲を積んだ方がいいですよ」
そうアドバイスしてみるが相手はお気に召さなかったらしい、いらだちを抑えられなかったのか脇に抱えていたヘルメットを地面にたたきつける。
「ふざけんじゃねぇ!ほかのところじゃ200万Lでしかも数日で修理してくれるんだぞ!こんなぼったくり許せるわけねぇだろ!」
「それはまだ見積もりです、船の中の状態が俺の予想通りならそこにあと300万Lは追加しないといけませんよ」
配電盤含めて配管などもおそらく老朽化しているだろうしな、ため息をはきつつ、修理箇所の洗い出した場所に合うエンジンパーツなどを倉庫のリストからチェックしていく、ラジエーターがないので新品を取り寄せないといけない、さらに上乗せだな。
「もういい!ほかのところに行く、お前はこの星じゃいい腕してるって聞いたがただのぼったくり修理工じゃねぇか、二度と来ねぇぞ」
ゆっくりと息を吐きだしタブレットから顔を上げて相手を見る。
「・・・言っておくが200万Lでやってくれるのは装甲の溶接と船体磨き、それと船内掃除だけだぞ、それ以外は雑な応急修理だけだ、あんた宇宙デブリになりに行くつもりか?」
「んなわけねぇだろうが!いまは金が要るんだよ、最新型のレーザーキャノンを今回の為に800万Lだして船にとっつけたんだ、修理にそんなに時間も金もかけてられるか!」
宇宙船の前面には巨大なレーザーキャノンが三門くっついている、何とも素晴らしいことに最新型らしいが・・・どう見ても数十年前に銀河経済中央部で流行った型落ち品だ、しかも手入れも雑にしているせいか装甲が剥がれ一部配線などが丸見えになっている。
おそらくどこぞの武器商からぼったくられたのだろう、あれなら半額の400万Lあたりが本来妥当である。
「・・・・俺は別にぼったくりをしたいわけじゃない、その値段の修理屋なんて素人同然だ、あんたこのままだと本当に死にに行くようなもんだぞ、本当にそれでいいのか?」
「フン、心配してるフリで気を引こうってか?そんなのにかかりゃしねぇよ」
そう言って地面に落ちていたヘルメットをひっつかんで男は部屋を出ていき宇宙船に戻っていった、仕方がないので天井のハンガーハッチを開けてやると、すぐさまエンジンをふかして上昇、そのまま飛んで行ってしまった。
「はぁ・・・」
何とも嫌なものだ、自分の年が若いせいか、もしくはああいう賞金稼ぎ連中は気が荒い連中がおおいからか、大抵まともに話を聞いてくれない。
格安とは言わないがこれでも値段を下げている方なのだ、それでも客は高いと言ってくる、修理に費用を掛けるよりも武器に費用を掛ける方を優先するからだ。
シールド装置さえあれば大気圏突破も宇宙航行もできるようになってしまっているのも一つの原因だろう、シールドがあれば装甲なんてほぼ気にしない領域である、金をかけることに納得できない連中も多い。
しかも宇宙船の扱い自体も大抵雑だ、宇宙船の操作自体はどんどん簡単になっていっている、ど素人でも多少訓練すればあっさり飛ばせるほどに、ただしその中身がすさまじい精密機械の塊であることを理解できていない、ワープする際はいくつもの量子計算を行っておりその一つでもずれればどこに飛んでいくかもわからないし、シールド装置も船体全体に特殊な電磁波の投影を精密に行うことで成り立っている、コックピットに搭載された量子コンピューターはそれらをまとめ、自動で電力やエネルギーの流れを制御することにより宇宙船を安全に宇宙航行できるようにしている。
普通に飛ばしたりする分には確かにこれらの領域は気にしなくてもいいのかもしれない、だがそれが戦闘になると話は変わってくる。
シールド貫通武器に、シールドをダウンさせるプラズマミサイルなど、さらには命中するとシステムを電磁波で妨害してくる武装などもある。装甲の強化に電磁波コーティングなどに、ミサイルを振り切るための速度を出せるスラスター、それらに十全に電力を供給できるジェネレーター。
ざっと上げるだけでもこれだけある、だからこそ武装よりまず宇宙船の足回りと装甲などを強化するべきなのだが、どうにも理解してもらえない。
「やられる前にやればいい、確かに正しいが、まったく・・・・」
次の日、惑星ニュースの片隅に、ある賞金稼ぎの船が撃墜され大気圏で燃え尽きたと報道された。