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俺の合コンはどこか間違っている。 5


 『ごちまる屋』の男子トイレには遊び心があった。

 小便器の内側に丸い(まと)が描かれているのだ。


 その的に当てるとぴゅーんと音が鳴る。


 当てたり外したりするとビームライフルで撃ち合ってるSF映画みたいになってちょっと楽しい。


 隣に立ったまま未だにビームを発射しないデンバーが口を開いた。


 「さっきのはすごかったよな」

 「皿ごと食ってたアレな」

 「それそれ。さすがにビビったぜ」

 「俺は感心したけどな。変身魔法って内臓とかも変えられるのかよ、って」

 「……?」


 隣から視線を感じる。

 どうやらデンバーは俺のビームライフルが気になるらしい。


 「なんだよこっち見んな。自信はあるが男に見せる趣味は無ぇぞ。それともアレか? 他人が居たら出来ません、とかそういう女々しい野郎なのか? 悪いが昨日か――」

 「ち、違えーよ!」


 デンバーは図星を突かれたような声を出した。


 「ならさっさと用を済ませろよ。何しにトイレ来たんだお前」

 「今はそんな事はどうでもいいんだよ! 魂の色ってヤツ見たんじゃないのか!?」


 こいつはバカか? 


 「どうでもいいわけねえだろ。大事な時に集中出来なくなるって知らねえのか? それと、魂は見てねえよ。そんなもん見たら外見に惑わされちまうだろうが」


 女の子たちは皿をバリボリ食うぐらい身体を張っている。その頑張りを無碍にする男がいるだろうか。いや、いない。


 「なっ!? 本当に見てないのか!? おい!」


 デンバーがいきなり肩を揺らしてきて、銃撃戦が始まった。


 「おい汚え手で触るな! わざわざアリアに作ってもらったんだぞ!」

 「見てないのかって聞いてるんだ!」

 「見てねえつってんだろ!!」

 「…… 嘘、だろ?」


 デンバーの手が離れると同時にエネルギー残量も底を尽きた。


 ―― なんだってんだ。トゥンク作戦の邪魔どころかトイレでも邪魔してきやがって。


 デンバーの額に汗が滲み出す。


 「カケル…… 本当に見てないのか?」

 「だからそう言ってんだろ」

 「なら、頼みがある」


 デンバーの顔は真剣だ。


 ―― こんな顔ができる奴だったのか。でも、


 「なんだよ急に」

 「ゴブリンたちの魂ってヤツを見てくれないか?」

 「やだね。俺は女の子がくれるサプライズプレゼントにはちゃんと喜んであげられる男になるって決めてんだ。ソレが例え全くいらねえモノでもな」


 俺は即答した。


 理由はさっき言った通りだが、真剣な顔でビームピストルをぶら下げてる下品な男の頼みなんぞ聞いてやる気がしなかったってのもある。


 それでもデンバーは引き下がらなかった。


 「頼むって!」

 「嫌だ! とりあえずソレ引っ込めろ気持ち悪ィ!」

 「頼みを聞いてくれるまで引っ込めないぞ!」


 ―― なんだぁこいつ。


 俺は変態から逃げるように手洗い場に移動する。


 「……」


 が、変態は無言のまま付いてきた。


 「離れろよ。そういう趣味かと思われるだろ」

 「俺はずっと付いていくぞ」

 「どこまでだよ。まさか個室までとか言うんじゃあねえだろうな?」

 「もちろん個室までだ」

 「……」


 ―― こ、このゲス野郎! そんな恰好の奴と一緒に戻ったらエリザベスになんて思われ………… ハッ! まさかそれが目的か!


 俺はデンバーの奇行の意味を理解した。


 ―― こいつは俺がエリザベスと上手くいきそうになってるのが許せねえんだ!


 俺は手を洗いながら、口を開く。


 「デンバー」

 「お、見てくれる気になったか」

 「男の嫉妬はキモい」

 「…… 俺が嫉妬? 誰に?」

 「俺に」

 「お前は何言ってるんだ」


 ―― 違うのか。


 俺は備え付けられた乾燥魔道具で水気を飛ばし、デンバーの方に身体を向けた。


 「じゃあなんでそんなに頼んでくるんだよ」

 「理由は…… まだ言えない。俺が間違ってる可能性もあるからな。でもコレはカケルの為でもあるんだ」

 「ほう」


 ―― つまりデンバーは俺が気付いていないナニカに気付いた。

 ソレは魂の色を見て欲しい事と関係していて、俺の為でもある。

 そしてデンバーの様子がおかしくなったのはたしか…… 『変身魔法』の単語を耳にしてからだったか。

 

 俺の天才的頭脳から導き出される答えは一つだった。


 メスリンかエリザベスのどちらか、あるいは両者が性別まで変えている可能性があるって事にデンバーは気付いたに違いない。


 でもそれはデンバーの杞憂に終わるだろう。


 だって最近冴えまくってる俺がエリザベスと運命を感じてるんだから。


 俺はネックラインに掛けていたサングラスを装着して、


 「ふっ、答えはいつも一つ」

 「いいから魂の色を確認してくれ。…… アルヒで良い店教えてやっただろ? な?」


 ―― 確かにデンバーと知り合えてなかったらそういう店があるなんて思いもしなかったけどさ…… うわっ!


 デンバーがぐいっと近付いてきた。俺は咄嗟に手で間合いを取って、


 「わ、分かった分かった! 見りゃいいんだろ。だから近づくなキモい」

 「ありがとうカケル!」

 「…… 多分だがお前が心配してる事は無駄に終わるぜ?」

 「それならそれで大丈夫、ってか俺の心配が無駄になった方が全然いい」

 「そりゃそうか」

 「じゃあ行こうぜ」

 「いや、直接見なくてもここから分かるぞ」


 俺の言葉に、デンバーの目が丸くなった。


 「本当か?」

 「あぁ、スキル使えばいける」

 「カケルって便利だな」

 「失礼だぞ」


 ―― ごめんエリザベス、『ソウルサーチ』


 俺はサーチスキルを発動した。

 探知範囲はさっきまで居た個室周辺。探知対象は人間の魂だ。


 頭の中に魂のカタチが浮かび上がってくる。


 ―― ん? この筋肉はオーランで、胸ペタンがパルメナだよな。


 魂反応はあった。


 でも二つ足りない。

 

 「どうだ?」

 「オーランとパルメナの反応しかないな。メスリンとエリザベスはトイレだろ」


 俺の言葉を聞いたデンバーが頭を抱える。


 「どした?」

 「…… 俺の勘が当たってしまった」

 「つまり?」

 「メスリンとエリザベスは本物のゴブリンって事だよ」


 デンバーは本当に頭がおかしくなったのかもしれない。


 「冗談はよせ。お前が今言った言葉の通りなら俺はゴブリンと運命を感じたって事になるんだぞ? ありえねえ」

 「いいか、カケル。落ち着いて聞いてくれ」

 「え、あぁ」


 デンバーは小さく息を吸って、言った。


 「あれは変身魔法なんかじゃない。変身魔法って言うなら使用者の魔力は人間のモノのはずだ。でも、あのゴブリンたちからはモンスター特有の魔力しか感じなかったし、そもそも魔法を使ってる感じもしなかった」

 「……?」


 デンバーは呆ける俺の肩に手を置いて、続ける。


 「でも、一つ可能性があったんだ。魔力の質まで変えられる変身魔法っていう存在がな。俺はそんな魔法聞いた事なかった。だからカケルにその可能性を潰してもらったんだよ」


 こいつは一体何をペラペラと喋ってるんだ?


 ありえるわけがない。


 そもそもゴブリンなんてモンスターを店が受け入れるか?


 店員のお兄さんだって爽やかスマイルで対応してたんだぞ。


 オーランだってパルメナと良い雰囲気になってたんだぞ。


 モンスターが横にいる状況でそんな事出来ねえだろ。


 俺は自分の運命を信じてやる。


 「ちょ! カケル!?」


 俺はデンバーの腕を振り払って、個室へ足を進める。


 「待てって! 作戦を考えよう! オーランを連れ出して帰るんだ!」

 「うるさい黙れ。エリザベスはゴブリンなんかじゃあねえ。今はトイレ行ってるだけだ。こんなもん直接個室を確認すりゃあ分かるだろ」


 俺は個室の扉を開け放つ。


 パルメナとオーランの驚いたような丸い目が見えた。


 そして、ゴブリンがいた。ニタァと吊り上がった口角から紫色の液体が漏れ出しているゴブリンだ。


 ―― oh


 俺はそっと扉を閉めた。

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