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俺の合コンはどこか間違っている。 2


 荒野にやってきた。


 パーティーメンバーにはそれぞれ役割というモノがある。


 ステラとトウカは戦闘員、アリアは運び屋。


 俺は、


 「―― 『魂捜索ソウルサーチ』」


 索敵係だ。


 モンスターだって生きている。

 だからまずはクエスト対象のモンスターを探す必要がある。


 もしゲームみたいなターゲッティング機能があれば俺の存在価値が一つ失われることになるが、実際には無いからデカい顔ができる。


 「…… 見つけたぞ。あっちの方だ」


 俺はアリというよりムカデの反応を感知して、その方向を指差した。


 「大きさはどのぐらいだ?」


 トウカの問いに、俺は首を横に振って答える。


 「全体は分かんねえ。もう少し近付いてから確かめる必要があるな」


 俺たちはグンタイアリが埋まる手前まで移動した。辺りには昨日討伐にやってきた冒険者たちの装備品がちらほら落ちている。


 「―― 『ソウルサーチ』」


 頭の中にグンタイアリの全体像が浮かんできた。


 「…… デカすぎるんだが。動いててキモイし」


 グンタイアリは元の姿のラーヴェインよりもデカかった。そのデカいムカデは今も俺たちの足元で地中を掘り進んでいる。


 「やはり妾の魔法では無理そうじゃな」


 ステラの一言で、トウカが肩を落とす。


 「でもどうするんです? 諦めますか?」

 「いや、このクエストはまだ受けてねえ」

 「……?」

 「ここには確認しに来ただけだぞ。今受けてるクエスト目標はもうちょい先にある」


 俺は不思議がるアリアとトウカを横目に歩き始めた。



 荒野を抜けて、川越えて。

 やってきたのは岩山だ。


 岩と石ばかりで歩きづらいし登りづらいが、『魂捜索』を使ってゴブリンが巣食う穴の前までやってきた。

 穴の前は人間五人ぐらいなら並んで歩けるぐらい開けている。


 「さてさて、全部でどれぐらい――」

 「ちょっと待ってください」


 袖を引っ張るロリっ子に視線を移す。


 「…… なんだよ」

 「聞いてません」

 「ん?」

 「ゴブリンとか聞いてません!!」

 「言ってねえからな」


 ロリっ子は何かを訴えかけるような目をしている。


 「安心しろよ。アリアは入らなくていいんだから」

 「そうなんですか?」

 「トウカと終わらせてくるからその後でいい」


 アリアは安心したようにほっと息を吐いた。

 俺は再度穴の方に視線をやって、一歩踏み出す。


 「待てカケル」


 トウカに呼び止められた。


 「…… 今度はなんだよ」

 「こんなに狭い場所だと私は刀を振れないぞ」

 「とりあえず昼飯にしようかあ!」


 俺はくるりと反転して穴から離れた。



 適当な岩に腰かけ、持ってきていたサンドイッチを食べる。


 ―― このたまごサンドバカうめえ。


 良い感じに潰されてぷりぷりした食感が残る、ふわふわのパンに挟まれたこぼれそうなぐらいたっぷりのたまご。

 一口食べると思わず頬が緩む。


 結構買ったのだが、四人と一匹で食べているとあっという間に無くなった。


 「さてどうするか」


 食後の紅茶を嗜みながら、俺は呟いた。


 「結構な数がおったのか?」


 隣に座るステラが聞いてきた。

 俺は肯定するように頷いて、


 「ざっと数えた感じだと50前後ってところだな。群れのリーダーっぽいのは穴の一番奥にいたぜ。…… でもあの巣穴って最近出来たって話だったろ? 多すぎじゃね?」

 「ゴブリンの強みは繁殖力にあるからな。個体自体は弱いんじゃが、道具を使ったり集団行動したりする知能はあの洞窟内じゃと厄介やもしれん」


 なんか元の世界の人間みてえ。銃とか持たせるとヤバそう。


 「カケルがひとりでやるんじゃないんですか?」


 ラーヴェインを抱えたアリアがそんな事を言ってきた。


 「あんな数相手にしたら俺の手が――」


 言葉の途中、天才的な脳が解決策を導き出す。


 俺は指をパチンと鳴らした。


 「穴からおびき寄せる案でも思い付いたのか?」


 使う予定も無い刀を手入れしながら、トウカが言ってきた。


 俺はその場で立ち上がって、


 「焼き殺そう」


 言った。


 「ぷぷ、カケルの魔法で、ですか? ぷぷぷ」


 ―― クソガキが。


 俺はアリアの膝の上にいるドラゴンを指差して、


 「違ぇよ。ラヴィにやってもらう」

 「「「なるほど」」」



 大型バイクサイズになったラーヴェインの背に乗って、


 「ラヴィって火力調整とかできるのか?」

 『容易い事よ』

 「よし。なら俺が合図したら火の威力弱めてくれ」

 『了解だ、マスター』


 俺は首だけを後ろに向けて、


 「アリア頼んだぞ」

 「私もステラたちと見学が良かったです」

 「しゃーねえだろ。群れのリーダーが炭にならねえようにスキル使い続けねえとなんだから」

 「…… 何買ってくれるんですか」

 「パフェ買ってやる」

 「!!」

 「ラヴィは肉な」

 『!!』


 俺は背中に小さな手が触れるのを確認して、スキルを発動する。


 巣穴の中にいるゴブリンの姿が浮かんできて、


 「ラヴィ! 火炎放射!!」


 ペットに命令を出した。


 ドラゴンの口から炎が放たれる。


 放たれた炎は巣穴入り口付近にあったゴブリンの魂を一瞬で消し、更に奥の魂も次々と消していく。


 岩山の向こう側で火柱が上がった。


 同時に、群れのリーダーっぽい個体が悶え苦しむ様子も浮かんでくる。


 俺はラーヴェインの首元をトントンと叩いて合図を送った。


 放たれる炎の威力が弱まり、群れのリーダーが焦ったように出口へ向かってくるのが分かる。


 「来るぞ」


 俺の言葉から数秒後、巣穴から緑色の肌をしたモンスターが現れた。身体中に水膨れのような出来物があり、身に着けていたであろう戦利品の数々は溶けかかっている。


 背中の小さな手に力が込められた。


 俺は振り返る事はせず、


 「どうしたんだ?」


 なぜかビビるロリっ子に尋ねる。


 「私聞いた事あります。あのゴブリン…… ペンタゴブリンです」

 「…… なんだそれ」

 「人間の道具を5個以上身に着けたゴブリンの事です」

 「なるほどな。少なくとも5人以上は殺してるって事か」

 「とっても強いって聞きました」

 「ふーん」


 目の前のゴブリンは両手に剣、頭には兜、胸には鎧当て、腰には数個の鎧兜がぶら下がっている。


 ―― 確かに歴戦のって感じだが……。


 『グギヴォォォォ!!!』


 ペンタゴブリンは両腕を振り上げ、奇声を発して飛び掛かってきた。


 ―― 本当に知能あんのか?


 「ラヴィ! 切り裂く!」


 勇敢なゴブリンの肉体はラーヴェインの爪によっていとも簡単に裂かれ、


 ビチャチャチャ


 「……」

 「うわぁ最悪です」


 俺とアリアはゴブリンの血を浴びた。



 ゴブリン殲滅クエストも無事終わり、荒野前まで戻ってきた。


 「お前らはここで待ってろ。グンタイアリが吐くのが毒液か毒ガスか分かんねえからな」

 「え、クエスト受けてないですよね? それってダメって言われてませんでした?」


 三つの肉片をぷかぷか浮かせるアリアが言った。ちなみにラーヴェインに断面を焼いてもらい血は止めてある。


 俺は鼻で笑って、


 「バレなきゃいいんだ」


 真理ってヤツを教えてやった。


 呆ける三人を放置して、俺はトラックサイズのラーヴェインと荒野を進む。


 「この辺りだったか。―― 『ソウルサーチ』」


 地面の下にムカデがまだいる事を確認して、


 「ラヴィ、ここだ」

 

 指示を出すと、ラーヴェインが穴を掘り始める。


 『マスター、見えたぞ』


 ラーヴェインが掘った穴を覗き込むと、青黒いアリが見えた。体表面には小さな穴が空いていて、口とケツがそれぞれ別の個体とガッチリ連結している。


 ―― キモいな。


 「よし、後は作戦通りに頼む」

 『…… 了解した』


 その場を離れ、アリアたちの所へ戻る。


 「どんな指示出したんですか?」


 アリアが首を傾げて聞いてきた。


 「俺はラヴィを信じてる」

 「……」


 作戦なんてモノは無かった。


 もちろん、グンタイアリの攻撃手段はある程度予測できる。

 デカくて長いモンスターの攻撃方法といえば、『締め付け』、『遠心力を活かしたタックル』、『かみつき』、後はグンタイアリ固有の毒攻撃ぐらいだろう。


 けれど、ソレが分かったところで俺にはどうしようも無いし、ゲーム知識を基にあれこれ指示するよりラーヴェイン自身の意志で戦ってもらう方が絶対に良い。

 

 俺は右腕を挙げて、ラーヴェインに合図を送った。



 結果。


 「楽しそうだなアイツ」

 「ですね」


 ラーヴェインはグンタイアリを咥えたまま、荒野を駆け回っている。アイツ自身は地中からムカデを引っ張り出そうとしているのだろうが、傍から見たらロープを咥えて走る犬みたいだ。


 しばらく見ていると、グンタイアリの母体が地中からすぽんと出て来た。


 咥えるモノがロープから炎のロープに変わり、灰となって消えた。


 ラーヴェインは最後に母体があった位置で頭を下げ、俺たちのところへ駆け戻ってきた。


 『魔石だ』

 「…… ありがとう」


 ―― ボール遊びの犬じゃん。


 こうして俺は、労せず約50万を手に入れたのだった。

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